第七章 夫の役目⑨
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ショッピングモールから帰宅し、買った食材を冷蔵庫や戸棚にしまった高柳さんは颯爽とエプロンを身に着ける。
「買ってきた食材で何品か作り置きをしておく。明日からはこれにメインを足せば時短になるからな」
「さすが高柳さん。助かります」
「何を言うんだ。青水もやるんだぞ」
「え! 私もですか⁉」
「もちろんだ」
「私に出来るでしょうか……」
「大丈夫。ちゃんと教えてやる」
「が、頑張ります」
高柳さんが作るような本格的な料理を、私なんかが手伝って大丈夫だろうか。
きっと失敗だらけで叱られるのではないかと、戦々恐々とした思いを抱きながら、私もエプロンを着けてキッチンに入った。
「危ないぞ」
「え、っと…ダメでしょうか?」
「指も一緒に茹でるならいいが」
「いやです」
私の前のまな板には、ピーラーで皮を剝いたじゃがいもがコロンと乗っている。
右手に包丁を持った私は、今まさにそれを切るところだったのだ。
高柳さんが恐ろしいことを言うので、うっかり想像してしまい鳥肌が立つ。
我ながら料理の才能がないことが情けなくなり、へにょっと眉を下げてじゃがいもを見下ろしていると、ふわりと背中が温かくなった。
「抑える方の手はこうだ」
「うっ……」
私の体を後ろから包み込むように高柳さんの両腕が回り、私の両手に大きな手が重ねられる。私の左手の上から重ねた彼の手が丸くなる。
「左手は“猫の手”だ。そう、それでいい」
後ろから伝わる熱と、耳のすぐ上で囁かれる低音。
重ねた手から私が小さく震えているのが伝わっているはずなのに、高柳さんはそのことには何も言わず、“熱心に”料理の指導をする。
「包丁を持つ手に無駄に力を入れ過ぎるな」
そう言いながら今度は包丁を持つ右手に重ねた手で、じゃがいもを切るように動かす。
「ほら、出来ただろ?」
スパン、と小気味よく切れたじゃがいもが、まな板の上でコロンと転がるのを、蒸気が出そうなほど熱くなった顔で見ているしかなかった。
赤い顔とショート寸前の頭を抱えながらも何とか残りのじゃがいもを切り終わった私は、鍋の中で煮えていくじゃがいもを見ながら頭の中で自問自答する。
(なんだか今日の高柳さんはおかしいわ……)
買い物でも、あの後ずっと手を繋がれたままだった。
そしてここに来ての、この料理指導。
ただでさえ狭い空間のキッチンで作業するから、おのずと距離が近くなる。
こっちはなるべく彼と接触しないように気遣いながら動いているというのに、向こうからあんなふうに密着するような体勢を取ってくるなんて――。
(これじゃまるで本当に新婚夫婦みたいじゃない……)
同居を始めて一か月と少し、これまでそんな気配は全く無かったのに、突然どうしたのだろう……
(妹扱い? それとも本気で夫婦ごっこ??)
次々と湧いてくる疑問に答えをくれるのはたった一人だけ。
チラリとそちらを見ると、シンクで小松菜を洗っている姿が目に映る。




