第七章 夫の役目⑦
「これだけあれば週半ばまでもつだろう」
様々な食材が乗せられて重たくなったカートを見ながら高柳さんが言う。
交代制の夕飯当番に慣れて来た頃。
料理で使う材料の確保がややこしい、という話になった。
例えば、私がカレーの為に買った人参の残りがあるのに翌日高柳さんが買って来たり、逆に彼が次回の料理で使おうと思っていた油揚げを私が使ってしまったり。
毎日冷蔵庫の中身をチェックしてから仕事に行くわけではないので、記憶があやふやで買った材料が余ったりすることもある。
そんなことから、週末一緒に買いものをして、ある程度お互いが何を作るのかを把握しておいた方がいいのではないか、という話になったのだ。
レジを済ませた食材の乗ったカートを押して進む高柳さんに着いて行く。
(そっちは駐車場とは反対側だけど……)
その疑問はすぐに解決した。
「冷蔵ロッカー?」
「ああ。ここにいれておけば、のんびり買い物できるだろう?便利だが数が少ないから早めに買い出しを済ませて確保しておきたかったんだ」
日曜日だというのに、早めの時間に家を出たのはそういうわけだったのか。
「何が見たい」
冷蔵ロッカーに荷物を移した高柳さんが、私を見て言った。
「え?」
「何か見たいものや行きたい店はないのか?」
高柳さんの台詞に停止する。
そんな私を高柳さんはじっと見下ろして、少しの間を置いてから口を開いた。
「なんだ、ないのか」
「え……いえ、あ、あります!」
反射的に言葉が飛び出す。
実は昨日誘いを受けた後、ここに入っているショップを密かに調べていたのだ。
「じゃあ、そこに行こう」
「はい」
高柳さんの隣に並んで歩き出した足元で、スカートの裾がふわりと揺れた。
キッチン雑貨やホームリビング用品を見て回った後、焼き小龍包が評判の台湾料理店でランチを取った。
ランチの時、焼き小龍包を始めとした飲茶に舌鼓を打っている私の向かいで、高柳さんが『さすがに飲茶は作れないか……いや、蒸籠があればなんとか……』と呟くので、思わず目を丸くした。彼は本当に料理が好きらしい。
私なんて、店で出てきた料理を自分で作ってみようなんて思ったことすらない。
ランチを終えると、ショッピングモール内は大勢の人で賑わっていた。
広く取られた通路も、小さな子どもを連れた家族、カップルなどで溢れていて、場所によってはぶつからないように気を付けて通らないといけないほどだ。
ランチは高柳さんに御馳走になってしまった。
「自分の分は自分で」と財布を出そうとしたものの、カードで瞬殺。そのあとは現金など渡せるような雰囲気ではなく(それこそ“鉄壁”だった!)、結局「ごちそうさまです」と言わざるを得なかったのだ。
(別の機会にきちんとお礼をしなくては……)
お腹が満たされたせいもあって、ぼんやりとそう考えながら人の間を歩いて行く。
(何がいいかしら……)
目を上げた先に、お洒落な雑貨店が目に入った。店内はすでにクリスマス仕様に飾り付けられている。
(あ、可愛い)
ふらふらと吸い寄せられるようにその店に近寄り、一番前に並べられている小さなクリスマスツリーを手に取った。
「これ、リビングに置いて良いですか?」
言いながら後ろを振り返る。――が、そこ思った人の姿は無かった。
「あれ? 高柳さん??」
ぐるりとまわりを見渡すが、人ごみの中に彼の姿は見当たらない。急いで手にしていたクリスマスツリーを戻すと、私は来た道を戻り始めた。




