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第七章 夫の役目⑥

***



翌、日曜日の朝。

やって来たのは車で三十分ほどの所に新しく出来た大型ショピングモールだ。


「すごい大きい……」


店内に入った途端、目の前には大きなクリスマスツリーが。

ついこの前ハロウィンが終わったばかりだというのに、十二月にもならないうちからクリスマスという変わり身の早さにも驚きだ。


四階まで吹き抜けになった広場の中央に飾られた、立派なツリーに圧倒されている私を、後ろから来た高柳さんが「ぼうっとしてたら迷子になるぞ」と言いながら抜いて行く。


「この歳で迷子にはなりません」


小走りで彼の隣に並び見上げると、高柳さんは「どうだろうな」と言う。

迷子の注意を受けたことなんて子どもの時以来だ。それも小学低学年だったような。


「私、これでもしっかり者だとよく言われるんですが」


むくれながらそう口にする私をチラリと見下ろした高柳さんは、ふっと短く笑った。


(わ……笑った⁉)


滅多に見ることの出来ないその表情に、思わず目を奪われる。

高い位置にあるその顔に釘付けになっていると、すぐに元の無表情に戻った彼は私に向かってこう言い放った。


「確かに、仕事中の青水はしっかりしている。少しの隙も見当たらないくらいだ。お陰で俺も仕事がしやすい」


「あ……ありがとうございます?」


今はプライベートで、ここはショッピングモールの通路だ。

思わぬ褒め言葉に、頬がじわりと熱くなる。だが、次の言葉に耳を疑った。


「だが、プライベートは別人だな」


「え?」


「少し抜けているところがあると、言われたことはないか?」


沈黙せざるを得なかった。


『ゆっかちゃんは時々びっくりするくらい抜けてることがあるよね』


親友がよく口にし、あとに続くお決まりの言葉が頭の中に浮かんだ。


『一人にしておくのは心配よ』

「一人にしておくのは心配だな」


頭の中に浮かんだ親友の声と、上から降ってきた低い声が重なった。


勢いよく隣を振り仰ぐと、奥二重の瞳と目が合った。


「なんだ、そんなに驚いて」


「いえ……なんでもありません」


「そうか。じゃあさっさと用事を済ませよう」


「用事?」


「ああ。混んだら面倒だからな」


そう言って歩いて行く高柳さんに黙って着いて行く。


「ここですか?」


「ああ、そうだ」


着いたのはモールの中の大手スーパーマーケット。食品売り場だ。


「食品の買い出し?」


「ああ。――行くぞ」


高柳さんは颯爽とカートを押して野菜コーナーへと進んで行く。


(なん。普通に食品の買い出しだったんだ……)


休みの日に“買い物”に誘われて、すっかりデートでもするような気分になっていた昨日からの自分を叱りつけたい。


(そうならそうと言ってよ)


勝手に勘違いしたのは自分だ。完全なる八つ当たりだと分かっている。分かってはいるが――。


めったにはかないチュールスカートの長い裾を見下ろしながら、自分を落ち着かせようと長く息を吐きだした。



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