第七章 夫の役目⑤
【TohmaBeer-Hopping】の地方都市の追加開催が決定された当日。
戸惑う大澤さんと興奮する幾見君、その二人とは対照的に感情を表に出さない高柳さんと、これからの段取りや進行を話し合った。
その日は具体的な動きは無かったのでいつもとあまり変わらない時間に帰宅することが出来た。
――が、次の日からは怒涛のような業務の波にのまれることになる。
高柳さんとは毎日同じ時間まで残業するので、自然と帰りは一緒に会社を出ることになる。
高柳さんのマンションは駅のすぐ目の前と言う好立地なので、電車が動いている時間なら何の問題もない。けれど彼は、『夜遅いから』と頑として私が一人で帰ることを許してくれず、強制的に車に乗せられ一緒に帰宅する。
一度、幾見君に知られたくないからと無理矢理電車で帰った時に、降りた駅の改札前に彼が立っているのが見えたときの驚愕は忘れられない。
(徒歩五分なんですよ⁉)
深夜の駅構内で叫びたくなった。
それ以来、遅くなった時は大人しく高柳さんの車で一緒に帰ることにしている。
そんな高柳さんは、家に帰り着くと先に私を風呂へと送り込み、自分は夕食作りに取り掛かる。
私が風呂から上がり髪を乾かして出ると、ちょうど良く『いただきます』が出来るようになっている、という何とも贅沢な待遇を受けていた。
お嫁さん。
目の前に並べられたバランスの取れた料理を見ながら、何度もそう思った。
もしお嫁さんにするなら、私より高柳さんの方だろう。
(このままだと二か月後に“結婚不適合”の烙印を押されるのは私の方だわ……)
それでも私には何の問題もない。
(このまま一人で生きていくのだと、ずいぶん前に覚悟は出来ているでしょう?)
テーブルの上のビアグラスを見ながら、そう自分に念を押す。
(分かっているわ。これは今だけだって)
自身に返した言葉に、胸の奥が軋んだ音を立てた気がした。
「明日は一緒に買い物にでも行くか?」
「え?」
両手をコーヒーの入ったマグカップで温めながらぼんやりとしていた私は、高柳さんの言葉がすぐに頭に入ってこなかった。
「車で少し行った所に大型ショッピングモールが出来ただろう?」
「はい」
「もし青水の予定が何も無ければ、明日そこに行ってみないか?」
「えっ!」
「予定があるなら別に構わない。急だしな」
「い、行きます」
慌てて返事をする。
休みの日にお出かけを誘われたのは初めて。食事以外はお互い別々のことをして過ごすのがこのひと月あまりの休日の過ごし方だった。
「そうか。じゃあ明日、頼むな」
「はい」
返事と同時に、思わず笑みがこぼれた。




