第七章 夫の役目②
(だ、誰か入って来たの?)
資料を探している態を装えば良いだけなのに、さっきの雷鳴のショックで手は震え、体は固まったままだ。
どうしたら、とパニックになっていると「青水?」と名前を呼ばれた。
「青水? いないのか?」
私の名を呼びながら近付いてくる足音。
この声は――と顔を上げると、浮かび上がった名前と一致する人がラックの角から姿を現した。
「いた」
私を見下ろす瞳を見た瞬間、じわりと瞼が熱くなった。
「やっぱりここだったな」
「高柳さ、統括…どうしてここに…」
震える声で尋ねた瞬間、再び閃光が部屋を照らす。
「きゃあっ」
両耳を塞ぎ固く縮ませた体が、突然ふわりと温かなものに包まれた。
「大丈夫だ」
耳のすぐ近くで聞こえた声に、驚いて両目を見開く。
いつのまにか私は、頭からすっぽりとジャケットで覆われ、その上から大きな腕に抱き寄せられていた。
目の間には見慣れた紺色のネクタイ。
一番よく身に着けていることから、彼のお気に入りなのだと気付いたのは最近。
「こうしていたら聞こえない。アレが通り過ぎるまでこうしていろ」
鼓膜に直接響く低音に、さっきとは違った意味で背中が震える。
ドクドクと血管が脈打つ音が耳に響いて、心臓がびっくりするくらい早く動いている。
もはや何がなんだか分からなくて、ただ彼の腕の中で固まっているしかない。
腕の中で黙ったまま身を固くしている私を、カミナリを怖がっていると思ったのだろう。高柳さんは手でゆっくりと私の背中を撫で始めた。
ビクッと背中が跳ねる。ジャケット越しなのでその手の感触がダイレクトに伝わるわけではないけれど、彼に背中を撫でられるという事実に眩暈がしそうになる。
(男性と、こんなに密着したことない……)
矢崎さんと付き合っていた時、手を繋いだのが唯一の異性との密着だ。
付き合って何度かデートをした時に、抱き寄せられてキスされそうになったが、反射的に目一杯突き放した。それがきっかけで振られたのだと思っている。
――遠雷が聞こえる。
雷鳴が遠ざかっていくのを、大きな腕の中でじっと聞いていた。




