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第六章 元カレ襲来③

(全然余り物じゃないのよね、これがまた……)


大事に味わった出汁巻玉子を飲み込んで、次は何を食べようかと一瞬箸を止める。

お弁当の中身をじっと見た。


俵型のおにぎり、肉団子の甘酢あん、蓮根と人参のきんぴら、ブロッコリーの胡麻和え、ミニトマト。もう一つある出汁巻玉子は最後の一口用に取っておく。


『出汁巻玉子が美味しすぎて、最初に食べるか最後に食べるか悩みます』


と言った次の日から、二切れ入れてくれるようになった。



(ほんと、優しい)


さっき私を動揺させる事案を持って来た上司の顔を思い浮かべて、ふふっと笑う。


肉団子を食べてからおにぎりにかぶりついた時、コツコツという靴音が近付き、私の前でピタリと止まった。


「こんなところでぼっち飯か?」


聞き覚えのある声に顔を上げると、思いがけない人が私を見下ろしていた。


「お、弁当か。うまそうだな」


半身を折り、私の弁当を覗き込んでくるその人は、矢崎(やざき)隆士(たかし)


元恋人だ。



ちょうど六年前の秋。社会人一年目だった私が初めて配属されたのは、関東統括支社新宿支店の営業部。そこで私についたOJTオン・ザ・ジョブトレーニングトレーナーが、三つ上の矢崎さんだった。


営業二課は、スーパーやコンビニなどの量販店を対象に営業活動を行うことが業務の中心だ。


彼とはデスクも隣同士で、外回り、帰社後の事務処理など、ほとんどの時間を共に過ごす。どうかしたら外回りの間に取るランチも一緒だったので、私は彼から離れることはほとんなかった。


そうして三か月を過ごしたある日、私は彼に告白されたのだった。


彼に対して先輩社員以上の気持ちを持っていなかった私は、彼の告白をすぐにお断りしたのだけど、それ以来事あるごとに誘われ口説かれて、彼の熱意に絆された私は、彼の申し出に肯いた。


それなのに、付き合い始めて二か月後、私はあっけなく振られることになる。


『こんなつまらない女だと思わなかった。見かけ倒しのハリボテ女だな』


そんな言葉と共に。



私と別れてからすぐに別の支店に異動になった彼とは、それ以来会っていなかった。

明るめの茶色いベリーショートの髪型が、あの頃より精悍な顔つきになった彼に、良く似合っている。


呆然と見上げる私を見て、矢崎さんは楽しげに口角を上げた。


「なんでここにいるんだ、って顔だな」


「っ!」


「首都圏第三支店。来られなくなった担当の代理が俺」


息を呑んで目を見開いた私に、矢崎さんは面白そうに「ははっ」と笑う。


「本社の企画リーダーがお前だって知って、立候補したんだ」


「え……」


「あれから五年経ってどんな女になったんだろうと思ったけど――」


一旦言葉を切った彼は、私の手元の弁当に視線を落とした後、


ひょい、と彼の手が素早く動いた。


「あっ!」


一瞬で私の弁当箱から玉子焼きを摘み上げるとそれをぽいっと口に放り込む。


目の前で起こったことに思考が追い付かず、目の前でもぐもぐと口を動かすその人を呆然と見上げていることしか出来ない。


矢崎さんは玉子焼きをゴクンと飲み込んだ後、不敵に笑った。


「期待以上、だな」






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