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第一章 黒歴史との再会③

隣で立ち上がった佐知子さんに習い、腰を上げようとしたところで、動揺のあまり椅子がガタンと音を立てる。


「お待たせ、二人とも。久しぶりだね、雪華ちゃん」


「ご無沙汰しています、紀一さん」


目尻に皺を作りながらにこやかにこちらを見た紀一さんに、平常心を装って挨拶を絞り出す。

私の動揺など知るはずもない佐知子さんは、夫の隣に立つ男性に笑顔を向けた。


「お久しぶりね、高柳君」


「ご無沙汰しております。遠山本部長にはいつもお世話になっております」


「こちらこそ、主人にいつも付き合って頂いてありがとう。主人から高柳君のお話はいつも伺っているわ。今日はお忙しいのに無理を言って来て頂いて、本当にありがとうございます」


「こちらこそお声かけ頂き光栄です」


目の前で流暢に挨拶を交わす二人の言葉を前に、私は完全に固まっていた。


(ど、どうして彼が!?)


頭の中は近年まれに見るほどパニックだ。

表向きは何とか平静を保っているふりをしているけれど、顔を水平から上げることが出来ない。視界に入っているのは、彼のジャケットの襟のところまで。


「主人にも聞いていると思うけど、こちらがその青水雪華さん。雪ちゃん、こちらは高柳滉太さんよ」


佐知子さんに紹介されて、黙ったままでいられなくなった私は、勇気を振り絞って彼を見た。


目が合った。しっかりと。


思わず息をのんだ。


ぶつかった瞳は、奥二重でくっきりと大きく印象的。しっかりとした輪郭の小さな顔に、筋の通った高い鼻、厚すぎない唇。そのどれも驚くほどバランスが良く、十人中十人の女性がきっと“イケメン”だというだろう。


見上げるほどの高身長で九頭身なのは昔と変わらない。

けれど七年以上の歳月が彼に与えた大人の色香に、眩暈がするほどに圧倒的された。


「雪ちゃん?」


佐知子さんの声にハッとなった。


(い、いけない…)


今は自分も良い大人だ。小娘だったあの頃とは違うのだ。

きちんと挨拶をしなければ。そう思った矢先、先に口を開いたのは向こうの方だった。


「はじめまして。先ほどご紹介に預かりました、高柳滉太と申します」


(『はじめまして』………)


彼の挨拶に一瞬止まる。けれどすぐに微笑みを作った。

私もあの頃とは違う。色々な経験をして場数を踏んできた立派な“大人”なのだ。


「はじめまして。青水雪華と申します。どうぞよろしくお願い致します」


両手を前で揃えた模範的なお辞儀をした。



着席した後、私たちの自己紹介を、それぞれの隣に座った遠山夫妻が簡単にしてくれた。

それを聞きながら、


(ああ、これってもしかしたら“お見合い”なのか)


と今更ながら気が付く。


(知人の紹介とお見合いは、釣書きがあるかどうかの違いなのかしら……)


そんなどうでも良いことまで考えてしまうのは、完全なる現実逃避。本当なら体ごとこの場から逃げ出してしまいたい。


うっすらと愛想笑いを浮かべ相槌を打ちながら、目の前に座る彼を盗み見る。

就職してからのことは知らないが、それ以前の二年間。彼が大学院生だったころを私は知っている。

なぜなら、彼は私が初めて好きになったひと。


そして、初めて振られたひと―――だからだ。





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