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第四章 思いがけない避難先⑥

寝室の扉をそっと開け、リビングに少しだけ顔を出す。キョロキョロと部屋を見回すが、目当ての人物は見当たらない。


(高柳さんはまだ寝ているのかしら……)


佐知子さんとの通話を終えた時、スマホの時計が八時四十分を知らせていた。

佐知子さんはきっと前日の私のメールが遅い時間だったのを考慮して、八時半まで電話をかけるのを待ってくれていたのだろう。


(あとでかけ直すって言っちゃったから、高柳さんに口裏を合わせて貰えるよう、お願いしなくちゃ……)


ドキドキするような後ろめたいような気分になりながら


(彼氏と初お泊りのアリバイ工作を友達に頼む時ってこんな気分なのかな)


などと、つまらない妄想を働かせていたところに、キッチンの向こうの扉がガチャリと音を立てた。


「起きてきたのか」


「あ、…おはようございます」


「おはよう」


「寝坊してしまって、すみません…」


「いや、俺もさっき起きたところだ。ちゃんと眠れたのか?」


「はい。……あの」


「洗面台空いたからどうぞ。顔を洗ったら朝食にしよう」


「はい」


話しはあるけれど、寝起きの顔をひとまず何とかしようと、彼の横を俯きがちに通り抜けて洗面台をお借りしに行く。


朝食の準備も手伝わなければ、と急いで水で顔を洗い手櫛で髪を整えた後、眼鏡をかける。コンタクトが合わなかったりした時の為に、ブラウンのボストン型眼鏡を鞄に入れて持ち歩いている。寝る前に使い捨てコンタクトを外したせいで薄ぼやけていた視界が、やっと良好になった。



急いでリビングに戻ると、コーヒーの良い香りが部屋に漂っていた。


「砂糖とミルクは?」


扉の横にあるキッチンから声が聞こえ、反射的に「ブラックで大丈夫です」と答えてから声がした方に顔を向けた。


「~っ!」


うわっ、と上げそうになった声を我慢出来て良かった。


「もう用意できるから座ってて」


またしてもキッチンから掛けられた声に、私は止まっていた体を何とか動かした。


「お手伝いします」


「じゃあ、これを持って行ってもらおうか」


手渡されたのは二人分の皿とフォーク。私はそれを昨晩と同じローテーブルへ持って行った。

ローテーブルの上には既にパンが置いてある。お洒落な皿に盛り付けるだけで、コンビニで買った安いパンには見えないから不思議だ。

それぞれの場所にはグリーンサラダが添えられたオムレツの皿が並べられていたので、私はその隣に皿とフォークをそれぞれ配膳した。


「ありがとう」


後ろから掛けられた声に振り向くと、両手にコーヒーの入ったマグカップを持った高柳さんがこちらにやってくるところだった。


「こちらこそありがとうございます。色々と用意していただいて。朝から豪華ですね」


「豪華か?本当はスープも付けたかったが、間に合わなかった。悪いな」


「悪いなんて、そんな……」


休日でも自分では作らないような豪華な朝食に、しばし見惚れる。

テーブルの上に釘付けになっていた私に、「食べようか」と彼は言った。


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