第四章 思いがけない避難先②
ソファーに座ったままぼんやりと窓の方を見る。カーテンが閉まっているから外の様子は見えないが、激しい雨音と時折吹きつける突風で窓ガラスがカタカタと揺れていた。
(カミナリ…もう鳴らないよね………)
こんな時、自宅だったら布団を被ってイヤホンで音楽を聞きながらやり過ごす。
けれどそれが叶わない今、ソファーの窓から遠いすみっこで膝を抱えていることしか出来ない。
ひと際大きな音を立て窓がガタガタと鳴った。その音に体がビクリと反応する。
「――もうカミナリは鳴らない」
真後ろから掛けられた声に、さっきよりも大きく肩が跳ね上がった。
「お、おかえりなさい」
動揺から意味不明な声を掛けてしまう。すると、高柳統括はかすかに眉を上げた後、「ああ」と口にした。
「もしまたカミナリが鳴っても、この低層マンションよりも他に落ちるところが沢山あるだろう」
「……はい」
なにやら物騒な話をされているけれど、私を安心させようとしていることは伝わってきたので頷いておく。
「何か飲むか?」
そう訊かれ、私はハッと思い出した。
おもむろにさっきのコンビニの袋をガサガサと漁り、中から取り出したものを目の前のローテーブルに置く。
「やたら買い物袋が重そうだとは思ったが」
呆れたような台詞が降ってきた。それもそのはず、私が取り出したのは、麻の葉文様の下にTohmaと書かれたロゴの付いた缶。
そう、トーマビールの主力商品【トーマラガー】。ビールだ。
「統括は普段仕事の後に飲んだりしませんか?」
「自宅では役職名で呼ばれたくない。職場にいるようで落ち着かないだろう?」
「えぇっと……ビールの他に食事になりそうな物も買ってみました。泊めて頂くお礼にもなりませんが、良かったら……高柳さんも、いかがですか?」
「ありがとう。せっかくだから頂くよ」
彼はソファーには座らずローテーブルを挟んだ向かいのラグの上に腰を下ろすと、置いてあるビールの缶を手に取った。
手に取った瞬間、彼はほんの少しだけ目を見張った。
「よく冷えているな」
「保冷材の代わりのこれを敷いておいたので」
再びガサガサとコンビニの袋の中から私はそれを取り出した。
「冷凍枝豆――か」
「はい。帰りがけに買ったビールが温くならないし、家に帰って飲む頃にはちょうどよく半解凍になった枝豆も摘まめるので一石二鳥なんですよ?」
彼の興味を引けたことでうっかり得意げになってしまう。
「あ、食べるものは他にもありますよ?」
言いながら、買ってきた物を次々とローテーブルに並べた。
昆布おにぎり、ツナロールパン、レーズンパン、チョコチップパン、カップ麺、さきいか、チーカマ、それとミネラルウォーターのペットボトル数本。
統一性が無いラインナップが、ずらりと並んだのを見ながら「お好きな物をどうぞ」と声を掛けた。が、目の前の彼がそれに手を伸ばす気配はない。
(統括の口に合うものが無かったのかも。好き嫌いとかアレルギーとか確認しなかったし……)
もしかしたら明日になっても入荷がないかもしれないと思った私は、余っても明日の朝に食べられそうなものや日持ちのするものを手当たり次第にかごに入れたのだ。といっても、台風と時間帯のせいで店内の棚はほぼ空だったから悩むことも無かった。
「めぼしい商品はほとんど売れてしまっていて、こんなものしかなくて……すみません」
一泊の礼がこんなものかと思われたのだろうと、私は内心で汗をかく。
「あの、泊めて頂くお礼はきちんとまた別の時にしますので……」
恐る恐る付け足した言葉に、今度はすぐさま反応があった。
「いや、それはいい。礼はこれで十分だ。」
はっきりとした口調はまるで『お前との個人的な接触はもう結構だ』と言われているようで、私は口をつぐんだ。
「食事のことまで気が回らなかった…台風の影響で明日以降も食料調達も難しくなるかもしれない。そのことをすっかり失念していたから助かったよ。ミネラルウォターまで…ありがとう」
そう言うと高柳さんは、奥二重のスッキリとした目元を薄く緩ませた。




