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第一章 黒歴史との再会①

ピピピピピピピピ


「さむ……」


耳元で音を立てているスマホのアラームを止めると、体の横に落ちているタオルケットを手繰り寄せる。九月も半ばになろうかというのに、連日の熱帯夜のせいで夜中もエアコンが欠かせない。どうやら寝ている間にエアコンの温度を下げていたらしい。


「どうりで寒い夢見るわけね……」


寝起きの頭でぼんやりと、今しがた見ていた夢を思い返した。


今とは全然違う自分。

一途で、必死で―――でも他人(まわり)が見えていなくて。

あの頃の私には“若々しい”というよりも“幼い”という言葉がピッタリだった。


「……若気のいたり」


乾いた口に乗せた言葉がブーメランのように戻ってきて、胸の奥に仕舞った何かにぶつかった。けれどすぐにそれに気付かない振りをして、私はベッドから抜け出した。



私は青水(あおみ)雪華(ゆきか)。二十七歳の都内で働くごく普通のOLだ。


土曜日の朝八時。

いつのなら平日の疲れを取るべく遅くまで寝ているのだけど、とある人との約束の為休日にしては早起きをした。


食パンを焼かずに齧り、インスタントのコーヒー牛乳で流し込む。キッチンに立ったまま朝食を取りながら、これから数時間のうちにしなければならないことを頭の中で組み立てた。身支度以外にも出掛けるまでにするべきことは沢山あるのだ。


洗濯、掃除、その他諸々。生活するのに必要なことは全て、自分でやらなければ誰もやってはくれない。

平日は仕事で遅くなるから、だいたい土日のうちに家のことをまとめてやっておくことにしている。決して好きではないそれらのことも、何年も一人暮らしをやっているうちに気が付いたら身についていた。



一通りの家事を終え、身支度を済ませると、家を出ようと決めていた時間のちょうど十分前。


(うん、ばっちり)


姿見で今日の自分の出来上がりを最終確認した私は、外出前の日課である、その場所へ足を向けた。


壁際に置かれたロウチェストの前に立つ。

そこに置かれているフォトフレームを前に、手を合わせ、静かに目を閉じた。


(おはよう、お母さん。今朝は久しぶりに懐かしい夢を見たわ)


チェストの上には二つの遺影と位牌。それは私の父と母のものだ。


古びた写真の中の男性は、今の私より少し上くらいの年で爽やかな笑顔が印象的。母が一番気に入っていた父の写真だ。

父が亡くなった時、私はまだ五歳だった。幼い頃の記憶はおぼろげで、父のことはあまり覚えていない。ぼんやりとした記憶の向こう側で、幼い私は父の膝の上か腕の中にいた。優しい父に私はすごく懐いていたらしい、と後で母に聞いた。


父が亡くなってから女手一つで私を育ててくれた母。

明るくて逞しくて、厳しくて優しい。そんな母は、一人で父の役目まで背負って必死に私を育ててくれた。そして私はそんな母が大好きで、尊敬していた。


父と母には親戚はおらず、私はどちらの祖父母の話も聞いたことは無い。どうしてなのか聞いてみる前に母も亡くなってしまった。


(これから佐知子(さちこ)さんと会ってくるの。帰って来たらまた、佐知子さんとの話を報告するわね。)


瞳を開けると、写真の中の母と目が合った。

大きな口を開けて楽しそうに笑う母。彼女らしいこの写真は私の大好きな一枚だ。


「行ってきます」


声に出してそう告げると、鞄を持ち、家を出た。



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