第二章 『はじめまして』をもう一度④
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「も~っ、ほんとに心配したんだからね、ゆっかちゃん!」
つぶらな瞳を尖らせて私を叱るのは、結城まどか。高校の時からの親友だ。
「いきなり【HELP ME!】だなんて送ってくるんだもん。ゆっかちゃんに何かあったんじゃないかって焦ったんだから」
「ごめんってば」
高柳さんとまさかの再再会で完全にキャパオーバーになった私が、助けを求めてメッセージを送った相手はまどかだった。
メッセージを送った後すぐに彼女から着信があり、取った瞬間『ゆっかちゃん!何があったのっ!!』と、鼓膜に響くほどの大声で言われた。
高柳さんとの再会からをかいつまんで話すと、数秒黙った後、『週末空けておいて』と言われ、言葉の通りその週末に彼女はこうして我が家にやって来たというわけだ。
そして冒頭のお叱りシーンになる。
「それで?初恋の人との再会はどうだった?運命感じちゃった?」
「……まどかの意地悪。まだ怒ってるの?」
「こっちは焦りすぎて、うっかり生まれるかと思っちゃったんですけど?」
丸いローテーブルを挟んだ向こうから、眉を寄せてこちらをジロリと睨みつけてくるまどか。彼女の首元では、くるんと内に巻いた栗毛色の髪が揺れている。
怒ったふりをしてこちらを睨んでいるまどかは、そんな顔をしていても可愛らしい。
丸顔に丸く大きな瞳。アヒルのように両端の上がった唇。身長は百五十三センチと小柄で、ふんわりとした可愛いらしい彼女の雰囲気とマッチしている。
私とは真逆の容姿で可愛らしい彼女だが、その守ってあげたくなるような見かけとは裏腹に、とても面倒見の良い姐御タイプなのだ。
そんな彼女は現在二歳の男の子のママであり、出産を控えた妊婦さんでもある。
「すみませんでした……」
臨月を前にして『生まれるかと思った』と言われると謝るしかない。
シュンと肩を落とした私に、まどかがやれやれ、と吊り上っていた眉を戻した。
「でもゆっかちゃん!やっとゆっかちゃんにも春が来たのよ!」
「え、」
「初恋の人とお見合いで再会した上に同じ職場で働くなんて、オフィスラブ小説みたい!!」
まどかは、ぱっちりとした丸い瞳をキラキラと輝かせてどこかあらぬ方向を見ている。
どこか別の世界に行ってしまった親友は、「だいたいこの後の展開はピンチを助けてくれた彼と恋が再燃するのよね~」と一人呟いている。
「ちょっと、まどか…勝手に話を作らないで。高柳さんは私のことなんて欠片も覚えてないんだから。」
「そんなのゆっかちゃんが言えばいいじゃない。『サークルの後輩で、告白したのは私です』って」
「絶対いや。あれは私にとっては黒歴史なの。出来たらあの時のことはずっと忘れていて欲しいし、あの頃の私のことも思い出して欲しくない」
「えぇ~っ、あの頃のゆっかちゃんだってすごく可愛かったのに」
まどかは頬をふくらまして不満そうだ。
あの頃の私のことを『可愛い』と言ってくれるのは彼女くらい。
おさげ黒縁芋ファッション。
あの恐ろしい告白と並んで、あの頃の自分は箱に詰めて埋めてしまいたいほどの黒歴史の一部なのだ。
「とにかく。高柳さんとは学生時代どころか、お見合いのこともなかったことにして、あくまで職場で初めて会った部下として、仕事上のお付き合いしかないから!」
「えーっ」
「『えーっ』じゃないの」
「もう、ゆっかちゃんったら……」
私の返答に、まどかは至極不満そうだ。
「とにかく私には仕事があればいいの」
「ゆっかちゃんはいつもそれなんだから。もう五年くらいずぅぅっと!」
「うっ、」
親友の指摘に言葉が詰まる。
目線を逸らして無言のまま、目の前に置かれたマロンパイにフォークを入れる。まどかが持ってきてくれた手土産だ。
ひとすくいして口に入れると、栗の甘みが広がった。とりあえず口に物が入っている間は答えなくていい。
「はぁ~~~」
そんな私を見て、まどかが深い溜息をつく。
「ゆっかちゃん、もう二十七なんだよ?誕生日が来たら二十八でしょ?いつまで仕事を恋人にしておくの?」
私の作戦は親友にはお見通し。
黙って口の中のものを咀嚼してコーヒーで流し込んでいる間に、まどかが更に畳み掛けてくる。
「頼りの佐知子さんだって海外に行っちゃうし。だから独り身のゆっかちゃんのことを心配して“お見合い”を仕込んだんでしょ?」
「分かってるわよ……」
「裕子ママだって、きっと心配してるよ……」
「うっ……」
それは私にとって、一番説得力のある言葉だった。




