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第二章 『はじめまして』をもう一度②

十四階でエレベーターを降りた私は、同僚たちと挨拶を交わしながら自分のデスクまで辿り着くと、鞄を置き椅子に腰を下ろした。

手に持っているコーヒーを一口飲むと、パソコンを起動して業務の準備をする。

現在の時刻は八時半。始業までの三十分間で出来るだけメールを捌いて今日の一日の流れを頭に入れるのだ。



しばらくすると、隣のデスクに気配がして声が掛けられた。


「おはようございます、青水主任」


「大澤さん、おはようございます」


隣の席の大澤可奈子(おおさわかなこ)さんは、契約社員だ。

主任の私にとって彼女は部下に当たるが、年も二つ上で職場歴も一年程長く、頼れるお姉さんのような存在である。


「主任の今日のタータンチェックのパンツ、素敵ですね」


「本当ですか?ありがとうございます」


少し微笑んでお礼を言うと、向かいのデスクのパソコンモニターの横から幾見君が顔を出した。


「主任は何を着ても素敵ですね」


正面をまったく見ずに「どうも」とだけ口にして、再び自分のモニターに意識を集中する。そろそろ仕事モードをオンにしないと始業に間に合わない。

向かいから幾見君が何か言う声が聞こえた気がするが、画面に集中し始めた私の意識には入ってこなかった。



しばらくの間黙々とデスクのモニタ―に向かい合っていた私の耳に、何やらがやがやとし雑音のような声が入って来た。


色々な声が入り混じる方向へ視線を向ける。それはちょうどオフィスの入口辺りだった。

軽く人だかりが出来ている。その人だかりの中に、頭一つ分飛び出ている男性のうしろ姿があった。


時刻は九時ちょうど。

始業時間と同時に人だかりが散らばって行く。解散した群れの中に残ったのは、背の高い一人の男性と、マーケティング本部のトップである浅川本部長だ。


私は浅川本部長の隣に立っている男性を見た瞬間、思わず息を飲み、両目をこれ以上にないほど見開いた。



高身長の体に見事にフィットした三つ揃えのスーツをその身に纏って、髪はかっちりとサイドに流した完全なるビジネススタイル。

あの日あの“お見合い”の席で、カジュアルなジャケットに髪もゆるく流しただけの姿だったその人が、仕事の出来る男の魅力を溢れさせながらそこに立っている。


(どうして彼がここに!?)


少し前と同じような台詞を心の中で繰り返す。

呆然と前を見つめていると、前に立った本部長が話しはじめた。


「え~、皆、ちょっといいか」


本部長の声にオフィスにいる全員が顔をむける。


「こちらはTohmaグループホールディングスから来られた高柳君だ。例の周年特別企画の統括マネージャーを勤めてもらう」


(えっ!)


浅川部長の声にオフィスがどよめき、女子社員の黄色い声が上がるが、私はそれどころではない。心臓は今にも飛び出しそうなほど暴れ狂い、頭は真っ白だ。


「高柳君、君からも一言頼む」


「はい。――ただ今浅川本部長からご紹介に預かりました高柳滉太です。ホールディングスの方から出向という形で、2020東京五輪特別企画の統括マネージャーを勤めさせていただきます。皆さん、よろしくお願い致します」


そう言って軽くお辞儀をした彼に、オフィスのそこかしこから拍手が起こる。

けれど私は拍手の為に持ち上げた手をそのままに、ただただ呆然と前を見つめて固まっていた。






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