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望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~  作者: SIS
The Beginning of Distortion, Inheritance of Wisdom ~巣窟迷宮の魔術師~

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第七十話 アルテイシアの頭痛 その1



 ヌルスと別れた直後。


 駆け付けた冒険者によって救助されたアルテイシアは、彼女を探し回っていた友人たちと再会した。


 「見捨ててごめんよぉー!」と頭を下げる友人一同に、アルテイシアは鷹揚に「あの状況では私もそうしました、謝る必要はありません」「でも貸し一つですね?」と茶目っ気たっぷりに返した後、ヌルスについては「脱出時に逸れました。まあ大丈夫でしょう、あの人」と説明した。


 友人たちは当然「いや大丈夫だろうって……」と不安そうに顔を見合わせたが、事実としてヌルスがアルテイシアより頑丈(成人男性だと誤認していても、そもそもアルテイシアは標準より華奢な少女である)であるのは間違いなく、アルテイシアが無事なら彼も無事であろう、という理屈は彼らも納得するものであった為、その場はそれで話が終わった。


 そして一通り再会と無事を喜んだあとは、濡れたままで戦い続けた事を考慮して一日休息。


 休みが明けたら、待っていたのは事情聴取の山である。


 何せ、4層の地下に規格外のイレギュラー魔物が潜んでいた、等という情報は特級の想定外である。再現性があるのかも含めて、ギルドが関心を示すのは当然の話だった。


 まるで犯罪者のように繰り返し繰り返し同じ事を尋ねられたアルテイシアだったが、それは既に予想済み。脳内に強固なカバーストーリーを構築していた彼女は、ヌルスの事についてボロを出す事もなく、その事情聴取を乗り切った。


 幸いだったのは、ヌルスが非常に分かりやすいパーソナリティをしていたおかげで、それを人間のそれに置き換えるのに何ら問題がなかった事だ。自分を抱える触手を、男性の逞しい腕だと脳内変換すれば、あとはほぼ事実を語るだけでよい。ただ、その想定で話をすると、どうにも心拍数が上がってくる事に気が付いて、アルテイシアは少し動揺した。


 いくらなんでも、相手は種族が違うどころか生命体であるかも怪しい触手型魔物である。確かにその人格面は好ましいが……とそこまで考えた所で、アルテイシアは吊り橋効果とやらの効能に愕然とした。いつの間にかまあそれはそれでアリ、と考えている自分がいるのは流石にびっくりである。


 こんな事、魔物対策に心血を注いでいるギルド職員に聞かれたら、毒か何かで脳をやられていると判断されても文句は言えない。実際、その手の洗脳まがいの事をしてくる事例が無い訳ではないのだ。


 また一つ、ヌルスの正体を隠し通さないといけない理由が増えてしまった。


 それはともかく、そんな感じでヌルスと共にイレギュラー魔物の体内で起きた事をほぼノンフィクションで説明したのだが、他にもヌルスの正体の他に事実と大きく異なる説明をした部分がある。


 あの、ヌルスが使った歪みの魔術だ。


 ギルド職員には、彼がとっておきの大魔術を使った、仔細は自分にもわからない、と説明し職員もそれで納得してくれた。ある意味事実とそう違いはないので、ボロもでなかったはずである。


 詳細を伏せたのはいうまでもない、あの魔術は本来、人間には使えないはずのものだからだ。


 厳密には、発動そのものは可能である。だが、ほぼ確実にその後、命を落とす事になる。


 そしてそれを、ヌルスは扱って見せた。


 見た所、完全には程遠い。人間であれば片腕を失うほどの反動があるし、発動させた魔術も極めて初歩的なボルト系のみだ。だが、扱えた、という事そのものが前代未聞の大偉業なのである。ヌルスは知識がない故にその事を理解していないが……。


 逆に言えば、現時点では歪みの魔術を使って生き延びている、という時点で彼が人間ではない事の証明ともいえる。まあ、魔術に詳しい人間であればあるほど「歪みの魔術を使った? 何か見間違えたんじゃないの?」となって当然なので、要らぬ心配かもしれないが、ギルド職員は別に魔術の専門家でもない。変な勘繰りをされては困る。


 幸い、魔術師が一つや二つ、とっておきを隠しているのは当たり前の事なので、そう問題視もされないだろう。かくいうアルテイシアも、とっておきを一つ持っている。


 金属魔術。


 身も蓋もない呼称だし、実際もっとお洒落な名称に変えようとアルテイシアも模索しているが、実体を示すにはこの表現が一番手っ取り早い。


 この魔術は魔術の大原則を侵す魔術だ。


 魔力をもって、明確な質量をこの世界に生み出す。その意味は、魔術師であればだれもが理解する所であろう。実際の所、完全ではなく時間経過やその他の要素で魔力に戻ってしまいはするが、その存在の強固さは氷魔法で生み出した氷塊とはくらべものにならないのは実戦で証明された通りである。


 本来であれば新たな教室どころか、魔術の大原則が書き換わるレベルの偉業である。これをアルテイシアが伏せているのは、ひとえにそれが彼女の魔術的才能に依存した、学問とはとても呼べぬ超能力の類にあたる代物だからだ。早い話が再現性がないのである。


 あくまで理論上は可能、という代物を、才能の暴力でゴリ押しただけとも言える。


 最低限でも、アルテイシアと同じ超越級の魔眼、学院創立以来と言われる才覚、膨大な魔力の流入に耐えうる魔力耐性が無ければこの魔術は成立しない。そしてそんな人間は、恐らく向こう10年、いや100年は現れないだろう。


 そんな状態で発表しても、アルテイシアを疎ましく思う老人たちに付け込まれる隙を作るだけである。


 故に理論はあっても、それを学友たちにもずっと隠してきた。実戦で用いたのも今回がはじめての事である。


 ただ、こちらに関しては流石に誤魔化すわけにはいかない。魔力耐性を持った重装甲の魔物、あれが今後も4層に出現するかは未知数だが、もし再出現した際に自分のせいで冒険者が間違った対応をして被害が拡大しては最悪、虚偽の証言をしたとしてギルドに追われる身になってしまう。


 幸い、ギルドの組織系統は学院と何の繋がりもないので、口外しないよう契約を結んだ上で、最低限の情報を提供した。ギルド職員の女性は訝しそうな顔をしたものの、魔術師ではない彼女にはイマイチピンとこなかったのか、重ねて追及される事はなかった。


 そんな風に大きな秘密を伏せてはいたものの、全体の流れとしてその秘密は枝葉にすぎない。おおまかな流れに関わるような事ではなかった為ギルド職員から追及される事はなく、アルテイシアは長い長い取り調べから解放された。


 が、話はそこで終わらない。


 確かに、重要参考人としての立場からは解放された。だが、今度は学院の優秀な生徒という立場から、アドバイザーとしてギルドからお呼びがかかったのだ。


「ご足労、ありがとうございます、ヴェーゼさん」


 ギルド支部に再度顔を出したアルテイシアを迎えたのは、事情聴取を担当した女性のギルド職員。身のこなしからして恐らくただ物ではなく、他の職員の対応を見てもそれなりの上役だろう。それだけ、ギルドがアルテイシアの持つ情報を重要視しているという事でもある、いろんな意味で。


「いえ、冒険者としての責務を果たしているだけですから」


「本当に申し訳ありません。探索を中断させている分の埋め合わせは必ずさせていただきますから」


「ふふ。本当にお気になさらず。私たち自身の為でもありますから」


 これに関してはお世辞ではなく本音だ。あのイレギュラー魔物は、アルテイシアからしても異常に過ぎる。何が起きているのか、把握しておきたいのが正直なところだ。


 職員の案内で、奥の部屋へと案内される。


 会議室、とだけ札が下がっているその部屋に、アルテイシアは涼しい顔で臆することなく入室した。


 会議室の中には、大きな机が一つ。それを挟んで入口とは反対側に、三人の老人が椅子に座っていた。どことなく没個性で、印象に残らない、地味な感じのお爺さんとお婆さん。それが、逆にアルテイシアの気にかかった。


 何かしらの認識操作をされているな、と看破する。一瞬レジストするか、という考えが頭をよぎるが、無用な諍いはさけるべきというのも事実。アルテイシアは大人しくしておく事にした。


 眼鏡はずらさない。この手の相手に、魔眼を見せるのは攻撃の意思と受け取られる恐れがある。


「失礼します。アルテイシア・ストラ・ヴェーゼ、召喚に預かり参上しました」


「ようこそいらっしゃいました、ヴェーゼさん。ギルド支部長のボーマン・ゴーゼと申します。本日はお時間を頂き、ありがとうございます」



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― 新着の感想 ―
アルテイシアがヌルスくんに並々ならぬ関心と感情を持っていて、あれこれって……と読者はわかってたけど、吊り橋効果でついに自覚してしまったーwww 実際に恋心かはさておき、名状しがたいクソデカ感情が今後ど…
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