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2 作戦会議!




一睡もできずに朝を迎えた私は、目覚ましの音で起き上がった。


「眠いのに寝れないって地獄だよな~」


なんてぼやきながら、ベット横のスマホを拾ってスワイプする。

画面の光が寝不足の目に刺さって少し痛い。


まだ朝の6時なので普段なら起こしてしまうかもと

メッセージを送ることは控えるが、今はそんな余裕もない。


すがるように友人の沙耶(さや)にLuinでメッセージを送信した。


AGC、AGC(エマージェンシー)!!!

次の土曜にゲーム内相棒とリアルで出かけることになった!

至急応援を求む!!!!!


沙耶(さや)は小学生の頃からの幼馴染で

オンラインゲームは趣味じゃないというのに私のゲーム内での話を

いつも楽しそうに聞いてくれる良き友人だ。


-` ̗  ピロロンッ♬ ̖ ´-


通知音とともに沙耶からの返事がスマホの画面に表示される。


まずはおはよでしょ~~~

ってかなにそれ!すごい気になる~!

そんじゃ仕事終わりに結華(ゆいか)の家寄るね!!


内容を確認すると枕に顔をうずめるようにして前方に垂れ込んだ。

こわばっていた身体の力が抜けたようだ。

寝転がったまま両足を交互にバタつかせてから、ガバッと起き上がって正座する。


「よ、よし……とりあえずこれで、夜まではまともに過ごせそうだ」


不整脈のようにドクンドクンとうねる心臓の音と緊張が少し和らいでいた。

相談する相手がいるというだけで、随分(ずいぶん)と心は軽くなるもんだなぁ。


とりあえず出社の準備をしなくちゃ。

月曜日の体の重さときたら、服を着替えるのも億劫になる。


だが、生きるためにはお金を稼がなくてはいけないし

お金がなければ課金もできない。


「はぁ、、今日もガチャの為にがんばるか~!」


ああ、そうだ。

帰る時は沙耶(さや)へのお礼に好物のショートケーキでも買っておこう。



そうこうして朝食を終え、身なりを整えると家を出た。


10月の澄んだ朝の空気が肌をかすめると、少し体が震える。

そろそろマフラーを出してもよかったかもしれないな。


空を見上げて息を吐くと空気がほんのり白く色づいた。




————————

————

——




時刻は18時30分。


ビルの5Fから見える空はすでに茜色に染まり

窓から差し込む夕陽がフロアを包み込んでいた。


「お先失礼します」


「おう、おつかれ」

「おつかれさん」


先輩に声をかけると、定時ぴったりに新米の社員たちは帰りの支度をはじめる。


私も入社1年目の新米ということで

机の上の書類を片付けるとすぐに帰宅の準備をした。

ホワイト企業万歳だ!


就職先を選ぶ際に最も重要視したのが帰宅時間の速さだった。


理由は単純で、残業絶対の会社に就職なんてしたら

オンラインゲームがろくにできなくなってしまうからだ。


ただし給料はそれほど多くはなく、昇給試験も厳しいと聞くが。


「あっ」


あそこのケーキ屋は確か7時には店を閉めるんだったっけ?

ビルを出てから徒歩10分で着くとはいえ

のんびりしていたら間に合わなくなってしまうかも!


足早に会社を後にすると、駅近くのケーキ屋へ直行して

ショートケーキを2つ購入した。


ハロウィン用にデザインされたケーキもおいしそうだったが

沙耶はショートケーキに目がない。


改札を抜け電車に乗り込むとケーキを大事に抱えて席に座った。


沙耶は大体19時頃には仕事を終えるから

そこから私の家に来るまで少し時間がありそうだ。


部屋を片付けておかないとかなぁ。

いくら気の知れた仲とはいえあまりに汚いと引かれてしまうかも……。


ガタンゴトンと揺れる電車内で自分の生活を振り返ってみた。


普段は帰宅したらすぐにパソコンを起動させて

オンラインゲームの世界に入り浸り

25時くらいまではほぼそこから動かない。


ゲーム後はお風呂に入って即就寝という毎日。


食べた食器やら脱いだ服やらが山積みになるのは

よくないとわかってはいるんだけど

一人暮らしだとつい気が抜けるんだよねぇ——。



なんて考えていると最寄りの駅に着いていた。

すっかり暗くなった夜道をとぼとぼと歩いて家に帰る。


すぐにケーキを冷蔵庫にいれると、洗濯物を集めて洗濯機へぶち込む。

あとはテーブルの上を片付けて……っと。


-` ̗ ピンポーン ̖ ´-


インターホンの音が部屋に鳴り響いた。

モニターに向かってポニーテールの女性が手を振っている。


急いで玄関へ向かうと、ドアのロックを外した。


「やっほ~!」


「いらっしゃい!来てくれてありがとう沙耶!」


そう言って玄関へ招く。


結華(ゆいか)から男の話題が出るなんて珍しいね~」


「な、成り行きで……」


廊下の突き当りにあるリビングに入り

さっき片付けた白いテーブルの前に案内する。


ソファーは置いていないので、クッションの上に座ってもらった。


先月購入したものだが、厚さが5センチほどあるモチっとした感触のクッションで

座り心地がよくて、結構気に入っている。


「帰りにケーキ買ったんだ!食べながらはなそ」


「え、嬉しい!結華ありがと~!」


冷蔵庫からケーキを取り出すと

用意していたお皿に取り分けてテーブルへと運んだ。


「わ~!ショートケーキじゃん!さすが結華、わかってる~」


満面の笑顔でこちらを見る沙耶は同性の私から見てもとてもかわいい。


「へへ。もう何年友達やってると思ってんの」


「だね~。うちら最強マブダチ~」


「いや……マブダチは死語だよー」


あははーと笑いながら沙耶に目を向ける。


余計な一言だったようだ。

はしゃいでいた可愛らしい姿が一瞬で鬼へと変わってしまっていた。

冷めた目で見つめてくるのがめちゃくちゃ怖い。


「た、食べようか!?」


「うん!食べよ食べよ~!」


恐る恐る促してみると案外あっさりと同意してくれた。

ケーキのおかげかな?助かったみたい。


「それで~?ゲーム内で相棒だった人とリアルでデートするんだって?」


——ガシャンッ!


手から滑り落ちたフォークが机に転がった。


「デ、デートじゃなくて! ふ、ふふ2人で遊びに行くってだけだから!」


慣れない色恋の話に顔が火照ったように熱くなる。


「え~?そうなんだ?」


こちらを見ながらにやにやと笑う沙耶の顔を見て理解した。


これはさっきの仕返しだ!

このままでは相談するどころではなくなってしまう。


「沙耶、ケーキの上の苺あげるから許して……」


「よろしい」


苺を沙耶のお皿に差し出すと、満足げな顔をしてそれを一口でぱくりと頬張った。

今度こそ機嫌を治してくれたようだ。


「それで~?この前のオフ会で相棒くんと会ったんだっけ?

確かリアルでも友達になるんだーって話してたよね」


当初の目的の話に会話を戻してくれた。


「うん、オフ会に行ったのはよかったんだけどさ

想像してた雰囲気の人じゃなくて……その、、」


オフ会での自己紹介を思い出しながらケーキを口へ運んだ。

まっすぐ私の目を見て話す相棒を無視し続けた罪悪感が、再び胸に貯まっていく。


「あ~、見た目の話?」


「うん。その……なんていうか、すごくキラキラした人だったから

びっくりして失礼な態度とっちゃって」


「あ~」と声を漏らしながら何かを想像する沙耶。


「ふふ、結華は陽キャな人としゃべるときいつも俯くかきょどるもんね」


「う~。陽キャは私にはまぶしすぎるんだよ!

……まぁ、最終的には仲直り?できたからよかったんだけど

その時の流れで2人でまた会うことになってさ」


ちょっと恥ずかしくなってもじもじとケーキを転がす。


「ふぅ~ん。じゃあ傷つけちゃった分、たっぷり笑顔にしてやんないとだね!」


そう言ってニカッと笑う沙耶を見てハッとなった。


そうだ……そうだった!!


あの時"山ができるくらいこんもり穴埋めしてやる"って相棒と約束したんだった。


2人きりなことに深い意味なんて全くもってないんだし

そんなことよりも早く当日の計画を立てなくちゃ!


「ありがとう、沙耶!そうだよね、最高に楽しい計画を立てて

今日はすごく楽しかったーって絶対言わせてやんないと!」


「うんうん。

よ~しそうと決まれば良さげな場所のリサーチとか私も手伝うよ~!」


スマホとメモ帳を取り出すと2人で楽しめそうな場所をピックアップしていったり

時間を調べたりして1日の計画を立てていった。


一人だったら当初の目的を思い出せずに、悩んだままだったかもしれない。

終電の時間までずっと一緒に考えてくれたし、沙耶に相談して本当によかった。


びっしりと書かれたメモ帳を眺めていたら

感謝とこの友情を大切にしたい気持ちとで胸がじんわり熱くなった。





お風呂に入り寝る準備を終えると

秋の夜の寒さから逃げるように、ベットへもぐりこむ。


土曜日は相棒にしっかりと楽しんでもらって、リアルでも相棒になってもらおう!


そしたら私のゲーム漬けな私生活も少しは潤うのでは!?

なんて考えていたら今朝までの気持ちが嘘のように

当日が楽しみでわくわくとしてきた。


「沙耶……、相棒……」


現実と思考の境がうやむやになるように、夢の世界へと意識が誘われていく。


この日の夜はとてもいい夢を見た気がした——。






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