1 いざオフ会へ!
(き、気まずい…)
今日は大好きなオンラインゲームのオフ会に初参戦!
ということでとても楽しみにしていたのだが——
席について早1時間、ずっとイケメンにガンを飛ばされている。
いや、見つめられているだけだろうか。
心当たりはある。
私にはオンラインゲームに相棒と呼べるくらい仲のいい奴がいた。
オフ会の初めの自己紹介てきな挨拶で、その相棒のキャラ名をイケメンが名乗っていたから、たぶんあいつが相棒なんだろうな~とは思っている。
だが……私にとっては、にわかには信じがたい事実であった。
何せ私は正真正銘の陰キャなのだ。あんな陽に満ちた相棒を私は知らない。
ゆえに目を合わせないように努力しているところだった。
「ねぇ、焼け野原さん。冷ややっこくんとゲーム内ですごく仲がいいって話だけど!リアルでは初対面なんだ?」
隣の席の、ゲーム内でアタッカーとして活躍しているにゃっちさん(ゲーム名)が
好奇心に満ちた目で話しかけてきた。
焼け野原というのは私のゲーム内の名前だが、リアルで呼ばれるとなんとも羞恥心が爆発しそうで身もだえするな。
「あ~、はい、そうですね?初対面です。
本当にあの相棒なのか信じがたいですが、キャラ名は一緒でしたね?」
混乱を隠し切れない私を見てくすくすと笑うにゃっちさん。
「両脇女の子に陣取られて、今もすごい話しかけられてるね。顔がいいと大変だなぁ、これがイケメンパワーかぁ!」
「はは…。ゲーム内だけじゃ想像もつかなかったや。……なんか遠く感じちゃうな」
丁度運ばれてきた白身魚を、もそもそと箸でつついて食べる。
「ま、せっかくのコース料理と飲み放題!!しっかり元とってこうね!」
といってバシバシと私の背中を叩くにゃっちさん。
結構力が強くて背中がひりついた。
さてはリアルでもアタッカーをやっているんじゃないか?
おかげで少し元気が湧いてきて、にゃっちさんと一緒にビールのおかわりを頼んだ。
相棒の視線をいまだに感じるが無視をして、とりあえず楽しく食って飲むことを決意した。
「「かんぱ~い!!」」
——
店を出る頃には外は真っ暗だった。
「や~今日はすごい楽しかったね!また一緒に遊びたいから連絡先交換しようよ!」
そういってスマホを取り出しSNSのIDを教えあった。
「よろしくにゃっちさん!」
「よろしく~!ゲーム内でも遊ぼうね~!」
と手を振りあって解散した。
にゃっちさんは一緒にいてとても楽しい人だった。
目的は相棒とリアルでも友達になることだったが
想わぬ収穫に、つい顔がほころぶ。
他の人たちも各自、散り散りに解散していった。
そんな中、とうとうイケメン(冷ややっこくん)と一瞬だが目が合ってしまう。
(や、やばい…!!!)
慌てて帰路へ足を向ける、がこちらに近づくような足音が背後から聞こえてくる。
(やばいやばいやばいやばい!!!)
あからさまにはなるが、ここは仕方ないと駆け出すが、足音は遠くなるどころかさらに迫っていた。
「ねぇ!!」
あっという間に左手をつかまれてしまい振り返ると、イケメン(冷ややっこくん)が怒ったような顔でこちらを見ていた。
思わずまた、初手と同様に目をそらす。
「や、やあ。どうしたのかな??」
としらを切ってみた。
「君、ゲーム内で俺の相棒だった焼け野原さんだよね?
自己紹介のとき、もしかして俺のキャラ名聞こえてなかった?」
「え?…えっと、き、聞こえなかったかな~」
動機が激しくて心臓が今にも口から飛び出そうだったが、どうにかして嘘をつく。
「君の相棒の冷ややっこだけど、もしかして俺のこと避けてる?」
ド直球の質問、ひしひしと伝わる苛立ちの声に、ドッと汗が噴き出した。
もうこれ以上嘘をついても逃げることはできそうにない。
「ごごご、ごめん!!!こんなにキラキラした人だとは思わなくて!
自分とは違う…ていうか、なんか遠いな~って感じがして?近寄りがたくて」
思わず謝罪と本音が口からこぼれ出ていた。
「……、見た目がどうだって中身は変わらないでしょ。
俺は焼け野原さんのことリアルで見たってゲーム内の相棒の時と変わらない気持ちでいるけど、焼け野原さんは見た目で判断する人だったんだ?」
最後の言葉がぐさりと胸につき刺さる。
なにやってんだ私は。
「ごめんなさい!冷ややっこくんがどんな外見だって相棒は相棒だ。
確かに中身は変わらない!
そんな当たり前のことに気づけず、陰キャな自分と比べて勝手に落ち込んで…
ほんとごめん!」
自分が恥ずかしくなった。誰だって外見だけで判断されたら腹が立つよな。
私だってこの垢ぬけない見た目で何度嫌な目にあったことか。
勝手に引け目を感じて遠い存在だと決めつけてしまったことを深く反省した。
「いいよ。わかってくれれば」
申し訳なくて、顔があげられない。
「まあ?俺は相棒だからな!こんなことくらいで嫌になったりしないよ。
っていうか、穴埋めに期待~」
もう怒ってないのかと顔をあげると、いたずら気に笑う顔がこっちを見ていた。
わかってはいてもまぶしくて陽キャの顔は、直視できない。
だが、もう失礼な態度はとるまい!
「わかった!山ができるくらいこんもり穴埋めしてやる!!!仕切り直しだ~!」
ぐっと拳を握り、天にかかげると冷ややっこくんも嬉しそうに笑った。
「やった~!じゃあ、さっそくだけど来週いけそう?」
「まかせろ、予定はない!」
「おっけー!またデスコードで連絡するわ!」
「うん!じゃあね!!」
こうして初めてのオフ会は無事に?幕を閉じた。
家についてからやっとさっきの約束の内容に頭が追い付き、私は愕然とした。
「あれ?来週のオフ会ってもしかして2人きりなのか?」
人生ではじめて男性と2人きりで出かけなければいけないという事実にたどり着き
さっきとは違う汗が、全身からどばっと噴き出した。
「ど、どどどどどうしよう……!!!」
体もメンタルも疲労を感じていたが、それでも一睡もできずに朝を迎えたのだった。