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第七十四話  呪いのその先

お読みいただきありがとうございます!残酷なシーンがあるのでご注意ください。よろしくお願いします。

 大神官ヘルマニュスが鐘塔から落下した後、轟くような雷鳴が世界を揺るがすように鳴り響いた。

「レオン様!」

 耳を塞ぎしゃがみ続けていたレオンの肩を、

「レオン様!レオン様!」

 上級神官の一人がレオンの肩を揺さぶりながら声をかけてきた。


「大変です!見てください!空が!」

「なんだって?」

 よろけながらも何とか立ち上がったレオンが鐘塔の柵から乗り出すようにして空を見上げると、今まで晴れていたのが嘘だったように、漆黒の雲がトグロを巻くようにして無数の渦を作り出している。


「きゃああ!」

「大神官様!大神官様が!」

 落下した大神官の死体に気が付いた様子の信者や修道女たちが悲鳴をあげている。明らかに異常だと思われる事態に神殿を訪れた人々が混乱しているのを上から眺めると、

「今すぐ事態を収集しないと大変なことになるぞ」

 と、言い出したレオンはよろけながらも鐘塔の階段の方へと駆け出していく。

「レオン様!この布で鼻を拭ってくださいませ!」

「鼻?」

 差し出された布で鼻を押さえると、真っ赤な血がベッタリと付着した。どうやら鼻血が流れていたようなのだが全く気が付かなかったのだ。今後、スムーズに大神官の地位に就くためには信者を混乱させてはならないとばかり考えていた為、頭の中がいっぱいになっていた。


 鐘塔の上から大神官が落下してくる様を見ていた信者もいたようであり、レオンは鐘塔から落ちた大神官の遺体に縋り付きながら、

「ああああ!大神官様!なんということでしょう!あなた様のお力でも女神の怒りを解くことが出来なかったなんて!」

 と、叫んだ後に、身も世もなく泣き出すふりをした。自分たちが鐘塔の上に居たのは間違いない事実のため、大神官を突き落としたと思われないように先手を打つことにしたのだった。


 神殿の上で渦を巻く黒雲からはやがてポツポツと雨が降り、無数の雷が地上へと降り注ぎ、変わらず雷鳴は轟くように響き渡っている。

「女神の怒り?」

「どういうことだ?」

「そういえば、この雷はなんなんだ?」

「これが女神様の怒り?」


 集まった人々はレオンの言葉に驚き慌てて居たのだが、その中の一人が至極当然の疑問を言い出した。


「なんで女神様は怒り出してしまったんだ?」

「確かに」

「なんで女神様がお怒りに?」

「それはヘンリエッタ様の実の妹であるアンシェリーク様が・・」

 レオンは悲壮感をたっぷりに周りの信者に訴えた。

「アンシェリーク様がヘンリエッタ様をエーデの岬から突き落として殺そうとしたのです!」


 ヘンリエッタは今日、妹のアンシェリークをエーデの岬から突き落として殺すとレオンに言っていた。民衆から聖なる巫女として持て囃されるヘンリエッタにとって本物の巫女であるアンシェリークは邪魔な存在だったし、コルリネリス王がそんなアンシェリークに強い興味を持っていることも気に食わなかった。


 コルネリス王がアンシェリークに子供を産ませて、その産んだ子をヘンリエッタが産んだ子供として自分の後継にすることを望んでいるという噂もあったため、邪魔な妹を排除するのだという話を事前にレオンは聞いていた。

「聖なる巫女を殺されそうになった女神様はお怒りになりました!その怒りを解こうと大神官様は努力されたのですが・・」

 集まった民衆は、アンシェリークの所為で努力虚しく大神官ヘルマニュスは死ぬことになったのだと察することになったに違いない。


 黒雲は大粒の雨を地上に降らし始めているのだが、この大粒の雨は自分を泣いているように見せてくれることだろう。

「大神官様は我々のために天にも近い鐘塔の上で祈りを捧げていたのですが、ああ・・何ということでしょう!」

 レオンは毒を盛って殺そうとしたヘルマニュスが鐘塔の上まで駆けのぼったことに激しい怒りを感じていたのだが、鐘塔の上から大神官が落下してつくづく良かったものだと民衆の悲しみの中で実感していた。


 上級神官が集まった会議の場で大神官が絶命していれば、そのことに疑いを持つ者も出てきたかもしれないが、彼は民衆の目の前で、塔の上から落下して絶命してしまったのだ。大神官の死に顔は満足そうに微笑んでいた為、誰もレオンが手を下したとは思いもしないだろう。


 雷が落ちたのも、今、雨が降っているのもいっときのもの。この時期は天候が不安定になりやすくにわか雨も多い季節なのだ。たまたまタイミングよく雨が降りだしたということになるだろう。


 大神官の遺体を取り囲み、嘆き悲しむ人々を見回しながら、大神官ヘルマニュスの意思を継ぐのは長年仕え続けてきた自分だと宣言しようとしたレオンは、

「カッ」

 民衆から背を背けて、真っ赤な血を口から吐き出したのだった。


「レオン様、大丈夫ですか?」

「・・・」

「レオン様、あの・・」

 レオンを支えていた上級神官が怯えた様子でレオンを見る。

「あなた様の目と鼻と口から真っ赤な血が流れております」

「なんだって?」


 レオンが慌てて自分の目頭を抑えると、真っ赤な血液が付着した。

「なんだ・・これはなんなんだ?」

 恐ろしいことに、真っ赤な血が目や鼻、口、耳からも流れ出しているというのに、全く痛みを感じない。


「なんだ・・これは一体・・なんなんだ・・」

 くらりと目眩を感じて膝をつくと、目の前に持ってきた自分の両手の指の骨が、ポキポキと音を立てて折れていく。



      ◇◇◇



 王の執務室で書類にサインをしていたコルネリス王は、世界を揺るがすような雷鳴が無数に轟くのを聞いて、その場で身動きが取れなくなってしまった。


 エレスヘデンの王宮は小高い丘の上に建っているのだが、そこからは王都や神殿の森を一望することが出来るのだ。そんな王宮に立ち働く人々は驚き慌てるようにして窓に飛びつき、驚きの声をあげているのがよく分かる。


「何があった?報告しろ」

 椅子に腰掛けたままコルネリスが苛立ちの声をあげると、侍従の一人が窓の方から戻って来て言い出した。

「中央神殿の上空に渦を巻くような黒雲が発生しており、無数の雷が落ちているようです。神殿に居る信者たちの悲鳴が王宮にまで届いているようで、大きな混乱が伺えます」


「ヘンリエッタは今日、神殿から移動して来るのだったな?」

「さようにございます」

「そうか・・であればヘンリエッタに急使を送り、引き続き神殿で女神に祈りを捧げるようにと指示を出せ」

 激しく痛み出した頭を抱えながらコルネリスが侍従に命令をすると、王のすぐ背後から、

『あんな小娘の祈りなんて必要ないね』

 という老婆の声が響いたのだった。


 王の執務室には官吏の者も出入りしている関係で、六人から七人ほどの人間が護衛も含めて常に居るような状況なのだが、その誰もがこの異常な事態に気が付いていない。


『お前は自分の父親がどうなったのかを忘れたのかえ?』

 冷たい女の手がコルネリスの頬を後ろからひたひたと触りだす。

『てめえの勝手でてめえの親父がおっちんで、一時期は改心したようにも見えたもんだが、クズはやっぱりクズのまま、実に面白いし愉快な話だねえ〜』

 女の手がコルネリス王の頬から首へ、肩から腕へ、そうして無骨な王の手の甲に触れると、王の両手に亀裂が入るようにして無数の傷が浮かび上がる。


 小さく裂けた皮膚から真っ赤な肉が覗いたかと思うと、濁った緑色の液体が滲み出すように溢れてくる。


『お前には数々の呪いをかけたんだが、バカだからかちっとも気が付かねえな。アルベルティナを毒で殺した時点で、てめえの子種は死滅させた。だというのに、ち〜っとも気が付かずに他人の種で出来た子供を自分の子だとして喜んでいるんだからよ〜』


 女の人差し指が王の腹の下に指さきを向けながらクックッと笑い声が響くと、下腹部に激しい激痛が走り出す。


『女神様お気に入りの泉をアンネリーンのために潰しちまったのは忘れたのかい?その所為で大勢が死んだというのに、平民男一人に全ての罪をかぶせて殺したってことをこっちが知らないとでも思っているのかい?』


 クックックという笑い声が耳元で響いていると、突然止まったように見えていた周囲の時間が流れ出し、部屋に駆け込んできた侍従の一人が、

「ベルナール殿下が到着いたしました!」

 と、言い出すのと同時に、コルネリス王は執務机から崩れ落ちるようにして床の上へと転がってしまったのだった。


過去編は明日の回で決着が着き、少し休憩を挟んで未来編が始まります。

明日から噂〜私はいつでも一妻多夫を応援します(改題 貴婦人たちの噂は今日も楽しい)の番外編連載も始まりますので、ご興味ある方は覗いて頂けたら嬉しいです!!もし宜しければ

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