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第七十三話  アリーダの呪い

お読みいただきありがとうございます!この回は残酷な表現が多くなります。よろしくお願いします。

 リェージュ大陸の南岸に位置するメヘレン王国の港湾を手に入れるのがナルヴェ王国の望みだったのだが、今まで存在感が全くなかった第二王子の台頭によってメヘレンの国境の守りが固くなってしまった。メヘレンの東に位置するナミュール王国が動くはずだったのだが、ナミュール王国からの連絡が途絶えたという。


 ナミュール王国とメヘレン王国は親密な間柄だったのだが、第二王子はナミュールが裏切ることを事前に知っていたようで、ナミュール王国を狙う帝国に対して秘密裏に交渉を持ちかけていたようなのだ。エレスヘデンに居るアリーダ・ブラリュネには大陸にある国同士の戦いがどうなったのかは分からないが、自分の祖父が居るナルヴェ王国は健在なままだと信じていた。


 だからこそ大陸に向けて密書を送り続けていたのだが、

「アリーダ様!無理です!船を出すことが出来ません!」

 ブラリュネ子爵家の侍従が真っ青な顔でアリーダの元へと飛び込んで来たのだ。

「なあに?船が出せないってどういうことなの?」

「海流が変化をして、とても船を出航できるような状態ではないのです」

「海流を動かしているのは神殿でしょう?神殿には使いの者を送ったのよね?」

「神殿に人を送ってはいるのですが、どうも海流の流れがおかしいのです。今まで大陸に向けて送り出した船も全て戻って来ていますし、何かおかしなことが起こっているように思えるのです」

「おかしなことってなんなのよ?」

 アリーダがそう言って立ち上がったところで、天をも貫くような轟音が世界に響き渡ったのだった。

「キャーーーッ!」

 突然、世界を覆い尽くすかのように轟きわたる無数の雷鳴がグラグラと地表を揺らしているような錯覚を覚えた。

「なんなのよ?なんなのよ?一体何があったのよ?」

「アリーダ様!空がおかしいです!」

「はあ?空がどうしたっていうのよ?」

 神殿から子爵家の邸宅に戻っていたアリーダが執務室の窓から外を眺めて見れば、女神を祀る中央神殿の建物の一部を確認することが出来るのだ。その神殿の上空には黒々とした渦を巻く雲が広がり出しており、神殿の鐘塔からカランカランと狂ったように鐘が鳴り響いている。

「ああ・・」

 窓から外を眺めていたアリーダは、自分の鼻から生温かい何かが流れ落ちていることに気が付いた。その液体を拭ってみれば、真っ赤な血液が手の甲に付いた。

「何これ・・」

 鼻血がポタポタと流れる中、怯えたようにアリーダが窓から離れると、激痛と共に床に尻餅をつくことになったのだ。

「アリーダ様!大丈夫ですか!」

「ああああ・・足が・・足が・・」

 スカートの中から自分のほっそりとした足が覗いていたのだが、二本のアリーダの足があらぬ方角に向かって折れている。

「いや・・いやー!足が!私の足が!」

 すると屋敷の方々中から絶叫や悲鳴が轟きわたることになり、

「は・・な・・まさか・・呪い・・」

 怯えたように侍従がアリーダから離れていく。

「の・・呪いってなんなのよ!」

 両足が想像も出来ない方向へ折れ曲がっているというのに、それほどの痛みを感じていないことが恐ろしかった。鼻血は止まることなく流れていくため、口の中に血の味が広がっていく。

「女神様の怒りに触れたんだ!」

 侍従の言葉がアリーダに届くまで、ずいぶんと時間がかかったのは間違いない。

「女神様がお怒りになったから、足が変な方向に折れたんですよ!」

 その後も、何度も何度も落雷が降り注ぎ、雷鳴が地上を揺るがすことになり、屋敷の中の悲鳴はより一層大きくなっていく。

「女神なんてこの世にいる訳がないじゃない!」

 エレスヘデン王国では女神リールを讃えているが、大陸ではそれこそ星の数ほど神がいる。人々は神を選んで祈りを捧げるようなことを行うが、自分の気持ちを宥めるための一つの方法というだけのものなのだ。

「女神なんていない!いる訳がないのよ!」

「だったら何故、お嬢様の足の骨が折れているのですか?」

「これは何かの間違いなのよ!間違い!」

 アリーダが従者に向かって両手を伸ばすと、その両手が同時にボキリと音を立てて折れた。

「キャーーーーーッ!」

 両手が折れてもそれほど痛くないというのが恐ろしい。

「助けて!助けて!誰か助けてー!」

 アリーダは絶叫するように叫び続けたのだが、アリーダの声に気が付いた様子で、

「アリーダ?君なの?」

 従者が逃げ出して行った扉を開けたのはベルナール王子だったのだ。


 両手足が折れてしまった状態のアリーダは床に尻餅をついたままの状態で座り込んでいたのだが、

「殿下!助けてください!殿下!殿下!」

 アリーダは必死の声を上げたのだが、ベルナール王子は扉から部屋の中を覗くばかりで入ってこようともしなかった。

「アリーダ嬢、一体どうしたの?何があったの?」

「雷が!雷が落ちたと思ったら足の骨が折れて!」

「それって天罰が降ったんじゃないの?」

 ベルナール王子は扉から顔を覗かせたままの状態で言い出した。

「女神の怒りに触れた人間は必ず足がポキポキ折れていくことになったじゃないか?君、大陸の神を王国に持ち込むことを僕の側近のブラムなんかと約束しているから、女神様の怒りを買っちゃったんじゃないの?」

「怒りを買ったじゃないですよ?」

 両手と両足の骨がボッキリと折れているというのに、痛みがそれほどではないというところが恐ろしすぎる。

「殿下、助けてください!お願いですから!」

「いや、これから王位を継承に行くから無理だよ」

 ベルナール王子はアリーダに近づきもせずに言い出した。

「君が言う通りにアルメロ島まで行ってフレデリーク嬢に対して交渉をしてきたけど、あの人完全に頭がおかしい感じだったよ?あんな人に王位の簒奪に協力をしてくれって言いに行った訳だけれど、そんな必要はなかったみたいだよ」

 ベルナール王子はアリーダに視線を向けもせずに、

「国王陛下が倒れたんだ」

 と、言い出した。

「どうやら重症みたいなんだよ。だから、早々に王位を継承することになりそうなんだ」

「なっ・・」

「一応、今まで世話になったから君に声を掛けに来たんだけど、まさか女神の天罰を受けているとは思いもしなかったよ」

「女神の天罰だなんて!違います!」

「違わないよ、だって君の足、ボッキリ折れているじゃないか」


 呆れた表情を浮かべながら床に転がるアリーダを見下ろしたベルナール王子は、大きなため息を吐き出した。

「大陸の後ろ盾を得るためには君と結婚した方が良いだろうという話もあったけれど、女神のお怒りを買うようじゃ完全に無理だね」

「これは女神の怒りなんかじゃありません!」

「いいよ、いいよ、大陸の神なんかを島に持ち込もうとしたのが悪いんだもん」

「違います!殿下違います!待って!殿下!待ってください!」

 アリーダは泣きながら呼び止めたものの、ベルナール王子はあっさりと部屋を後にしてしまったのだった。


「嘘でしょう!女神様なんて今のこの世の中にいるわけがないじゃない!これは夢よ!全部夢!夢よ!夢!」


 床に転がるアリーダはいつまでも叫び続けていたのだが、手も足も折れてしまったアリーダには部屋から出ていくことが出来ないのだ。そのうち、目の前があっという間に暗くなった。もしかしたら首の骨が折れしまったのかもしれない。



過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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