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第七十一話  女神の呪い

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「おばさま!フレデリークおばさま!」

 海に飛び込んだフィルベルトをそのまま放置して船を移動させ始めたフレデリークに対して、

「アルンヘム本島はもう終わりってどういうことですか?」

 と、アーノルドは縋り付くようにして問いかけた。

 すでに船は二十艘近く集まっており、鬱蒼と木々が生い茂る神殿の森の東岸へと向かっているのだが、先頭を進むフレデリークは視線を前に向けたまま口を開いた。


「エレスヘデンの王太子が妃を娶る際には巫女候補たちが神殿に集められるのだけれど、候補として集められた令嬢たちは全員、神聖力という力を持っていた」


 巫女候補という名目で神殿に令嬢たちが集められることになり、コルネリス王の時代にはフレデリークも候補として参加したのをアーノルドだって知っている。


「聖なる力の量に大小はあるものの、王太子は集められた令嬢の中の誰を選んでも問題ない。コルネリス殿下に捨てられた私もまた巫女としての力を少ないながらも持っていたし、このお腹の中には王家の子が育っていた。この腹の子をエーデの岬から突き落とさずに毒で殺すという形にされたため私には呪いがかかり、先代の王は罰を受けて亡くなることになったってわけね」


 先王は突然流行病に罹って亡くなることになったのだが、それが女神から罰を受けたからだとは、アーノルドは知りもしなかった。


「私は長年、女神の呪いにかかっていた。本来なら死ぬ気でお腹の中の子供を守らなければならなかったというのに、私は早々に諦めてしまったから罰を受けたのね。そうして一番外郭に位置するアルメロ島に隔離されることになったのだけれど、そんな場所までベルナール王子がわざわざ会いに来て、彼は私に対して謝罪の言葉を吐き出したのよ」


 ベルナール王子は自分の父の所為でフレデリークの心が壊れたことを謝罪し、その罪を償うためにコルネリス王を王位から退かせて、余生はコルネリス王をフレデリークと共に過ごせるように手配すると言い出した。


「呪いがかかった私は公爵家の影の護衛に守られていたのだけれど、その私に王子を接触させたのは影の護衛だったのよ。長年、影の護衛の者の中には王家の間者が混ざっていたのだけれど、巫女の守人は影の者のうちの一人だけを殺しているでしょう?」


 見れば、多くの者は失神されている中、幼い時にアーノルドに剣を教えてくれた男だけが首を深く斬りつけられて絶命していた。


「女神はね、クズ男が好きで、頭に来たり腹が立ったりしながらもズルズルと付き合ってしまうような神様なのよ。一度は愛したエレスヘデンの王家の男たちだけれど、最近は流石の女神様も頭に来ることばかりだったのでしょうね」

 確かに、最近の王家は女神の愛を当たり前のように感じていたのは間違いない事実だ。


「だからこそ、本当に加護を与えた本物の巫女を、女神様はこの地上へと遣わした。本物の巫女への待遇を見て王家がどういうつもりなのか判断するつもりだったのでしょうけれど、結局、エーデ岬からの死の追放ですもの。女神様は王家や王家に連なる者に対して激怒していると思うのよ」

 先ほどから雷がなん度も地上に降り注いでいるような状態であり、本島の上に広がる漆黒の雲が不穏な渦を巻いている。


「あああ、だけど、本当にせいせいしたわ」

 クズ男ばかりの王家に対する女神の情はそれは、それは厚いものだったのだが、その女神の情にも限界が来ているのは間違いない。

「ベルナール王子が私の頭がおかしくなっていると思い込んでいるから、随分と適当なことを色々と言っていたのだけれど、要するに、彼は公爵家の武力を使って王位を簒奪することを考えているみたいなの。そうして王位を簒奪した後には、神殿の森に住む魔術師たちを利用して公爵家を窮地に追い込むつもりでいるみたい。それに、王子の後ろにいるアリーダ・ブラリュネもまた、王家の簒奪を利用して、大陸の力をエレスヘデンに導こうと考えている」


 ブラリュネ子爵夫人はマレーグ王国の要人の娘だったので、大陸に憧れるエレスヘデンの貴族たちを扇動して植民地化を進めるつもりでいるのだろう。


「大陸の何処の国も宝石の国を手に入れられるのなら、お飾りに出来るベルナール王子にいくらでも協力すると言うでしょう」

 それだけエレスヘデンは豊富に宝石が採掘される島だったのだ。

「だけどね、女神リールは大陸の神々が大嫌いなのよ」

 フレデリークはすっかり真っ白になってしまった自分の髪の毛を掻き上げながら言い出した。

「だからこそ、呪いから解放された私に女神様はこうおっしゃったのよ。大陸の神を島に持ち込もうとする奴らにギャフンと言わせてやれって」

「女神様がおばさまにそんなことを言ったのですか?」

「私はこれでも一応巫女候補よ?しかも長年呪いに侵されていたから、女神様との繋がりが太くなっているのよ」


 エレスヘデンの島々は女神リールが作り出したとされており、王国には女神が残した逸話がそれこそ山のように残されている。その女神が今、アルンヘム本島の上に渦のような黒雲を発生させているというのなら、本当にフレデリークに対してギャフンと言わせろと言ったのかもしれない。


「神殿の森に住む住民を船で運び出すことがギャフンに繋がるのですか?」

「それは勿論よ。誰も彼もが森に住む人々を捕まえて都合の良い奴隷にしようと考えている。森の魔術師たちは海戦でその特異な力を発揮した。そんな彼らの家族を捕らえて脅迫し、自分たちの都合の良いように動かしたいと考えるのは王家だけでなく、多くの貴族も望んでいる。脅迫には魔術師たちの家族が必要になるのだけれど、それを我がシュトルベルク公爵家が先手を打って保護をする。これは大神官様も望んでいることなのよ」

 フレデリークはそこで黒雲が渦を巻いて発生した中央神殿がある方向を眺めながら、

「ヘルマニュス大神官は大丈夫なのかしら?」

 と、呟いた。


 神殿の頂点に立つヘルマニュスは上級神官レオンに毒を盛られ、神殿の鐘塔の上から神罰の印を指で組みながら落下して死んだのだが、同じ時にアンシェリークもまた神罰の印を組みながらエーデ岬から身を投げた。だからこそ無数の落雷が地上に降り注ぐことになったのだが、そんなことをフレデリークが知るわけもない。


「それじゃあ、フィルベルトをあの場に連れ出したのも女神様のご意思なのですか?」  

 アーノルドの問いにフレデリークは大きなため息を吐き出した。

「女神様はね、悲劇がとっても大好きなのよ。女同士の争いも大好きだし、様々な困難に打ち勝った末に幸せを手に入れるというドラマチックなショーが大好きなのよ」

 女性というものは悲劇的な話が大好きだし、会ったこともない他人の話だったとしても、喜んで最後まで聞くものだ。

「だからこそ、エレスヘデンの王と結婚をする正妃は不幸な目に遭うことが非常に多いの。結局、コルネリスに選ばれることになったアルベルティナでさえ、最後には毒を盛られて死んだそうだけれど、女神様はコルネリスとアルベルティナの愛を試されていたのよね?」

 女神が愛を試すような行為をするというのなら、フレデリークも女神に試されたということになるのだろう。


「聖人を殺すのならエーデ岬から突き落とさなければ呪いにかかるようになっている。アルベルティナは結局、エーデ岬から海に落とされるようなことにはならなかったので、私の時と同じように女神の呪いは発動した。知っているかしら?アルベルティナに毒を盛ったのはベルナール王子の母になるのだけれど、彼女の肉親という肉親は、女神の呪いで全て死んでいるのよ」

「えええ?そんな話は知らないんですけど?」


「彼女の家の寄親であるヴァーメル侯爵と王家が隠蔽しているから誰も知らないはずよ」

「だとしたら、他の人間も呪われているはずですよね?」

「アルベルティナが死んだ時点でコルネリスも呪われた」

「はい?」


「あの男の子種は全て死んでしまったので、彼の血を引く王子は実はベルナール王子だけなの。アルベルティナが死んで以降、生まれた王族は全て他の子種でできた子供なのよ」

「えええ?」


 コルネリス王は亡くなったアルベルティナだけが自分の正妃だと宣言し、沢山いる側妃や妾妃をどれだけ溺愛しても正妃にすることはなかったのだが、その多く抱えた側妃や妾妃との間には、二人の幼い王子と三人の王女がいた。それが全てコルネリス王の子供ではないとするのなら、後宮は閉めて宿下りさせてしまったのは良かったのかもしれない。


「あのバカはヘンリエッタというアホで派手な女を正妃として迎え入れて、本物の巫女であるアンシェリークに自分の子供を孕ませて、跡取りだと主張するつもりだったみたいだけど、そもそも種がないんだから無理なのよ」


 女神の呪いというものは意外なほどに怖いものなのかもしれない。


「そんなアホなコルネリスの事情なんて知らないバカ女は、自分の地位を侵害することになる実の妹を殺そうと考えるのは当たり前のことよ。聖人を殺すのならエーデ岬と相場が決まっているんだけど、神聖なる死に最後まであらがおうとするのなら、あのフィルベルトという男も本物の巫女も、女神の呪いでやられることになるわね」


「はあああ?女神の呪いでやられちゃうんですか?」

「そうよ、エーデ岬から落っことすのは聖人を殺す抜け道みたいなものなのだもの。わざわざ呪いがかからないように崖から落としているのに、それを邪魔するようなことをすれば呪いを浴びるようになっている」


「メチャクチャじゃないですか?」

「女神リールというのはめちゃくちゃな神様なのよ」

 そう答えたフレデリークは岬がある海の方を眺めたのだった。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

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