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第七十話  フレデリークという女

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 フレデリークは確かにコルネリス王の正妃になる予定だったのだ。


 王太子だったコルネリスは確かにフレデリークを愛していたし、巫女候補の中から妃となる令嬢を選ぶ際には、絶対にフレデリークを選ぶとコルネリスは断言をした。だからこそ、フレデリークの父は公爵家に代々仕える影の護衛を彼女につけることを決意した。女神に愛されたエレスヘデンの王の妃となる人は、代々、不幸になる人が多かったから、娘が不幸な目に遭ってもなんとか生き残れるようにと先代の公爵はフレデリークに影の護衛をつけたのだ。


 まさかその影の護衛が今も尚、フレデリークを守り続けているとは思いもしなかったアーノルドが、

「もう一度お尋ねします。おばさまは本気で、その人形を王にしようと言うのですか?」

 と、問いかけると、フレデリークはコロコロと笑いながら言い出した。

「人形とは一体何のことを言っているのでしょう?この子はアーサー、私とコルネリス様の子よ」

 そう言って、愛おしげにフレデリークは人形に頬ずりをする。

「若様、一つよろしいでしょうか?」


 フレデリークのすぐ隣に控えていた壮年の男はアーノルドも良く知っている男だった。幼い時にアーノルドに剣術を教えた師範であり、時々、母の護衛をしていた男でもある。


「ベルナール殿下はコルネリス王を引退させるとフレデリーク様に断言なさったのです。コルネリス王は今、後宮にいる女たち全てに宿下りを命じました。聖なる巫女と持て囃されているヘンリエッタ嬢をコルネリス王は正妃に迎え、シュトルベルク公爵家に対しては謀反を企てた罪を理由に処分するつもりでいるようなのです」


「公爵家が謀反とはどういうことだ!我らはフレデリーク様を足蹴にされた後もエレスヘデン王家に反抗することもなく敬い続けてきたではないか!」


「その男を使うようなのです」

 剣術の師はアーノルドの隣に立つフィルベルトを指差しながら言い出した。

「ヘンリエッタ嬢の妹の夫であり、女神が認めた正式な巫女の夫となるフィルベルトを国王陛下は邪魔に思い、排除しようと考えているのです」

「はあ?」

「それに、その男自身、自分の妻の姉であるヘンリエッタ嬢を殺したいほど憎んでいる。彼がヘンリエッタ嬢を殺せば、後ろ盾となっている我が公爵家もただでは済みません!」


 自分のことを言われているというのに、フィルベルトはエーデの岬ばかりを眺めていて、男たちに取り囲まれていることにも頓着しているようには見えなかった。


「その男の首をベルナール殿下の前に差し出せば、引退したコルネリス王をフレデリーク様に下げ渡すとまで言っているのです」

「だけど、おばさまはその腕の中の人形をエレスヘデンの王にすると言っているようだが?」

「残念ながらフレデリーク様は夢の中でお暮らしになっているのです」

 男は首を横に振ると、

「平民の男の命一つで公爵家の災いを取り除き、フレデリーク様の心の安寧を保てると言うのなら、我々はいくらでも残忍になれるのです」

 そう言って、甲板に集まる影の男たちが全員、その場で抜刀をしたのだった。


「ファルマの海戦の英雄はみんなの嫌われ者ということか」

 エレスヘデンの王は民のために戦うなんてことは特にしない。いつだって他人任せにしているし、その他人に任せた戦いが大きな勝利を掴む形となれば、いつだって子供じみた嫉妬心を起こすのだ。


「我らが生き残るためには、ベルナール王子を信じてその男の亡骸を差し出すより他ないのです!」

「公爵家を救う道は他にはありません!」

「アーノルド様!どうか身をお引きください!」


 以前としてぼんやりと崖の上の方を眺め続けているフィルベルトは、目の前で繰り広げられる会話に一切の興味がないらしい。そんな親友を守るような形で前へ出たアーノルドが剣を引き抜くと、

「アンシェリークがいる」

 と、フィルベルトが言い出したのだった。

「あんなところにアンシェリークがいる、何故だ?あれもお前らの仕業か?」

 フィルベルトの周囲に火花がバチバチと音を立てて弾けていく。

「エーデ岬は罪人を海に放り投げる場所であり、お前らはそんな罪人を投げ入れる海域をわざわざ通ってやって来た。そして今、海の上には俺、崖の上には俺の妻が居るようだが、それは全てわざとやっているのか?」


 すると、キャハハハッと笑ったフレデリークが嬉しそうに言い出したのだ。

「だって、正式な巫女を殺すと言っているのだもの!」

 弾けるように笑いながらフレデリークは、まるで空を突き刺すようにして伸び上がる崖の上の方を指差しながら言い出した。


「聖人を殺すとなればこの場所だと相場が決まっているのよ。何故、この場所が選ばれるのかというと、この場所で聖人を殺せば呪いが降りかかることがないから。アルベルティーナは王宮で毒を盛られて死んだから王家に呪いが降りかかることになったけれど、本来なら毒を盛った後にあの岬から突き落とすべきだったのよ!」

「アンシェリークを傷つける者は殺す」

 一瞬で移動をしたフィルベルトがフレデリークの白い喉元に剣を突きつけると、フレデリークは朗らかに笑いながら言い出した。

「巫女の守り人よ、貴方はどうせ自分の巫女を守れない。だとしたら、巫女と共に死ねるようにと配慮をしてわざわざここまで連れて来ただけなのよ。ほら見なさい、もうすぐあの娘は死ぬわ!」


 見れば確かに崖の上には人がいるようで、令嬢が一人、後ろ歩きとなって崖の端へと向かって来る姿が船の上からでもよく見えた。

「アーノルド!船を可能な限り岬に近づけてくれ!」

 フィルベルトの叫びと共に、アーノルドが舵取りの方へ向かって声をあげる。その行動をフレデリークは邪魔をするつもりはないようで、船は帆に風をはらませながら岬へ向かって突き進んでいく。


「あああ!やっぱり落ちちゃったわね!」

 フレデリークの言う通り、崖の上に立つ令嬢は真っ逆さまに落ちていく。崖の上では何事か騒いでいるようにも見えたが、突然起こった雷鳴による轟音で耳が激しく痛くなったアーノルドは目を瞑った。


 次に目を開けた時にはフィルベルトが船から海に飛び込んだ後のことであり、周りを取り囲んでいた影の護衛たちは全員が何処かしらを殴りつけられた様子で倒れ込んでいた。

「あらまあ!あらまあ!」

 フレデリークは興奮した様子で船縁を掴むと、前に乗り出しながら、

「巫女の守り人は助けに行ったけれど、果たして無事に見つけることが出来るのかしら?」

 と、呑気な様子で疑問の声をあげている。


 そんな彼女の足元にはあれほど大事に抱えていた人形が転がったままだったため、それを拾い上げたアーノルドが、

「おばさま、大事な人形ではないのですか?」

 と、問いかけると、

「もうそれは捨てちゃっていいわよ」

 と、フレデリークはカラカラ笑いながら言い出した。


 空は晴天だと言うのに、その後も落雷が続いたため、

「あははははっ!最高じゃない!」

 と、フレデリークは言い出した。


「な・・何故最高なんですか!僕らは巫女様とフィルベルトを助けに行かなくちゃ!」

「無理よ!無理!これ以上、船を先に進めたら座礁してしまうもの!」

「だけど!」

「それよりもあの落雷を見てごらんなさい、遂に女神様がお怒りになったのよ」


 見れば、神殿がある方角の空に渦を巻くようにして真っ黒な雲が広がり始めている。それは海から眺めていても異様な光景であり、アーノルドが思わず口を開けたまま見上げていると、

「早いところ森の民を救出してアルメロ島へと向かうわよ」

 と、フレデリークは言い出した。


 見れば、公爵家が所有する船が幾艘も近くを航行している。

「アルンヘム本島はもう終わり、近付くのもこれが最後よ」

 そう言って、神殿の森がある東岸を目指して船は一気に加速していくことになるのだが、アーノルドはいつまでもフィルベルトが飛び込んだ海の方角を見つめ続けていたのだった。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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