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第六十九話  公爵の妹

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ナミュール王国の王宮に問答無用で火を放ったフィルベルトは確かにろくでなしの男かもしれない。炎があっという間に広がるように仕向けているし、なかなか消火が進まないようにするために祖母譲りの呪文を幾つも重ねがけしているのだから、確かにフィルベルトはろくでもない男なのだ。


 そんな男の頭の中は、自分の妻のことでいっぱいになっている。実の父親から除籍処分を受けることになったアンシェリークは、シャリエール伯爵家の籍から抜けてただの平民になってしまったのだが、

「そんなことに耐えられるわけがないんですよ!」

 と、貴族の庶子として生まれたマルクが強く言う。

「貴族の血というものは特別なのです。それが否定されるということは、とてつもなく大きな悲劇だと言えるでしょう」


 平民出身のフィルベルトには、特別な血とか、貴族としての矜持なんてものはカケラも理解出来ないのだが、

「貴族として戻ることが出来るのですか?本当に?」

 と、言って妻に喜んで貰えたらこの上なく嬉しいかもしれない。

 丁度良いことに海戦もあるようだし、そこで目立った活躍をすれば陞爵も夢ではないと周りの人間も言うし、アンシェリークの姉だって妹の身分を取り戻すために協力をすると言っていた。


 アンシェリークの姉は確実に自分の妹のことを殺したいほど憎んでいるのだが、

「私が今まで間違っていたのです。妹が幸せにならないと、私だって幸せになれないのに」

 だからこそ、フィルベルトが陞爵するために協力をするのだと言っていたのだ。本当にヘンリエッタが協力をするのかどうかは分からないが、彼女は王家に寵愛されている令嬢だから、切断した指で輪っかを作って脅迫を行いながら、たまには妹のために働いてもらおうと考えた。


 美しい美しいと誉めそやされるヘンリエッタは、ただただ、卑しい女なだけだ。心根が卑しいから満足することを知らず、人を傷つけ、突き落とすことで自分の価値を底上げするような女。そんな女には恐怖を与えると都合が良い。自分だけは傷付きたくないという思いからフィルベルトの思う方向に動いてくれるはずであるし、もしも動かない場合は残虐な方法で殺してやろう。


 これは生きるか死ぬかの話なのだ。

 フィルベルトは大したことは望んでいない、爵位が貰えるように働きかけることを望んでいるだけのことだ。そんな簡単なことも出来ないのであれば、今までアンシェリークへ行った行為を大いに後悔した上で死ねばいい。


 生きるか死ぬかで考えれば、絶対に生き残る方に舵を切る女だからと安易に考えたのが間違いだったのだ。まさか、真っ青な顔となって怯え切っていたあの女が、フィルベルトと溺愛状態なのだと噂にして流すとは思いもしない。帰ったら早急に妻の誤解を解いた上で、妻の姉は、二度と妻の目の前に現れることがないように処分しなければならないだろう。


 だからこそ、ナミュール王国から大型船に乗ってエレスヘデンを目指していたフィルベルトは、シュトルベルク公爵家が用意した高速船が横付けにされた時点ですぐさま飛び乗る判断をした。公爵家が用意した特別な船だったため、森の民は乗り込むことは出来なかったものの、公爵の甥であり、アルメロ島の領主の息子でもあるアーノルドも高速船に飛び乗った。


 エレスヘデン王国を征服しようと企んだメヘレン王国をシュトルベルク公爵は追い返すことに成功し、戦いに勝利することが出来たのだが、海流の流れが通常とは全く異なる動きをしていることに疑問を感じてはいたのだ。そもそも、コルネリス王は自分と同年代であるシュトルベルク公爵が大嫌いなのだ。敵を撃退した褒美を神殿と公爵家に対して与えるのが王家の役目とも言えるのだが、本当に褒美など賜ることになるのかどうかが分からない。


 公爵家から見ても、神殿から見ても、最近の王家は常軌を逸しているというようにしか見えない。それはアルンヘム西方に位置する女神の泉を愛妾アンネリーンのおねだりで壊したあたりからで、コルネリス王の思考はおかしな方向に変化しているように感じられるのだ。何が起こるか分からない、何とも表現のつかない不安感が公爵の甥であるアーノルドにも付き纏い続けている。


 高速で移動をする船は純白の帆を広げてあっという間に風に乗ると、飛沫を上げながら王宮があるアルンヘム本島へと向かって行ったのだが、そのまま港に向かわずに入江を回り込むような形で進んでいくのは、神殿の森と呼ばれる島の東岸を目指しているからだろう。


 きりだった崖が続くエーデの岬の下を船は進むことになったのだが、岩礁が多く突き出ていることからここまで船が近づくことは異常だった。

「何をしている!もっと沿岸に移動しろ!座礁することになるぞ!」

 アーノルドが命令するように叫ぶと、船室の扉が開いて、

「大丈夫、公爵家の舵取りを甘く見ないでくださいませ」

 と、白髪の女が甲板に出て来て言い出したのだった。


 白髪の女は老婆ではなく四十代前後に見える女で、腕の中には衣に包んだ何かを大事そうに抱えている。その女性の顔をまじまじと見つめたアーノルドは、

「おばさま!フレデリークおばさまではないですか!」

 と、驚きの声を上げたのだった。


 フレデリークはシュトルベルク公爵の妹であり、コルネリス王が自分の妃となる巫女を見つける際に、手酷い裏切りを受けて心を壊してしまった人でもある。アーノルドの母はフレデリークの姉であり、哀れな妹の面倒を今まで見続けてきたのだが、そのフレデリークが行方不明になったと聞いて公爵は国王への戦勝の報告にも向かわずに、アルメロ島に向かっているはずだ。


「今までどこにいらっしゃったのですか?心配していたのですよ!」

「仲間たちと一緒に今まで居ましたよ」

 嫣然と笑ったフレデリークが後ろを振り返ると、公爵家の影の護衛が続々と現れて、アーノルドとフィルベルトを取り囲んでしまったのだ。

「アーノルド、ちょっと見ぬ間に随分と大きくなったのね?」

「ちょっと見ぬ間にって、数ヶ月前にも顔を合わせているではないですか?」

「あら、そう?随分と小さい時に会ったのが最後だったようにも思うのだけど」


 フレデリークは月の精霊と言われるほどに美しい人で、コルネリスの心を虜にした人だった。結局、コルネリスは巫女アルベルティナを正妃として選ぶことになったのだが、そのアルベルティナも不幸な亡くなり方をしている。


「おばさま、ベルナール王子がおばさまの見舞いに来たと聞きましたが、一体どんな話をされたのですか?」

「この子を次のエレスヘデンの王にするという話をしたのよ」


 フレデリークは輝くような笑みを浮かべながら、腕に抱えた布に包まれたものをアーノルドに見せたのだ。フレデリークが抱えていたのは、おくるみに包まれた赤子の人形だったため、

「おばさま・・その人形を王にしようというのですか?」

 と、疑問の声を上げてしまった。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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