第六十八話 悪辣な私の姉
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「母は悪魔の使いとして断罪されましたが、私の母に悪の誘いをかけたのは妹のアンシェリーク。私の妹こそが悪の使いだったのです」
はあ?何を言っているのかしらと思ってしまうわよね?
邪魔な妹を排除するために妹を毒で殺そうと考えた癖に、全ての責任を自分の血の繋がった母に被せ、結果、毒を賜って死のうとも後悔ひとつしないのが私の姉なのよ。自分自身が悪の使いそのものだっていうのに、よくもまあ、そんなことが言えるわよね?
男の人が女を容姿でしか判断しないとか、見た目でしか判断しないとか、美しければ何であれ許されてしまうということは骨身に染みて良く分かっているのだけれど、だとしても、こんな性悪女に夢中になってしまうコルネリス王は、王者たる資格がないんじゃないかしら?
「さあ!思う存分!この女を聖なる行為で戒めてやりなさい!」
あらまあ、あらまあ。こういうことを姉は平気でやるような女のだけれど、本当に、悪魔の使いのような女なのよ。女神様は女性や子供を傷つける行為をすることを許さないとしているのだけれど、聖なる巫女と呼ばれている割には、そういったことは丸ごと無視するような女なのよね。
「いや、これ、狂人の嫁じゃないですか!冗談じゃあねえですよ、狂人の嫁を俺たちで手籠にするですって?そんなこと、どれだけ金を積まれたって出来るわけがありませんや!」
あらまあ、あらまあ。
処刑場で別れた後の夫が、まずは港の方へと移動をしたという話は聞いてはいたのだけれど、太々しく、逞しく、生きていたっていうことなのでしょうね。海の荒くれ者にも認知されているのだから、さすがファルマの英雄と言われるだけあるでしょう。
「ヘンリエッタ様、腰抜けどもにやる気がないのなら我らの方でやりましょうか?」
「聖なる巫女様の望むままに」
「我々が協力を致しますが?」
私は失神したふりをしたままの状態で岩肌の上に転がされていたのだけれど、ガヤガヤした騒ぎの中で聞き捨てならない言葉が降ってくる。
「ただ、海に投げ込むだけでは駄目なのですよね?」
「我々による浄化が必要ということでしょう?」
はあ?本気で頭に来るんだけど。
浄化とか何とか言っているけれど、その声にもいやらしさが滲み出しているのが気持ち悪い。声からして巫女候補の護衛をしていた神殿騎士だと思うのだけれど、こいつら、王子様に命令されたらさっさと守るべき令嬢たちを差し出してしまうような男たちなのですもの。倫理観ゼロ、クソ溜めの集まり。
ロッテばあさんなら、
「はあ?てめえら全員、その脳みそを耳の穴から引き摺り出してこねくり回してやらなきゃわからねえみてえだな?女神様の意思っていうものがどういうものなのか、理解できねえのなら死んでしまえ、このアホクズどもが!」
とでも言いそうだわ。
だって、ロッテばあさんは実際に上級神官様たちに向かって言っていたもの。棒でぐるぐる掻き回し続けて疲れていたのかもしれないけれど、ロッテばあさんなら絶対に言うわ!
海の荒くれ者どもの騒動でみんなが私から離れていたのだけれど、こちらの方へと向かって来ることにしたみたい。怖い!本当に怖い!無理!無理!無理!
「じょ・・冗談じゃないわよー!」
飛び上がって起きた私は、神殿騎士やお姉様から逃れるために走り出したのだけれど、そうしたら崖っぷちに到達してしまったわ!
ここは何処?ここは何処?あらまあ、ここはエーデの岬のようで、断崖絶壁が何処までも続いている壮大な光景が眼下に広がっているわ!
「アンシェリーク様!俺たちと楽しいことをするだけですから!」
「こっちに来てくださいよ〜!」
神殿騎士たちは追い詰めた獲物を見るような眼差しでニヤニヤ笑いながらこちらに向かって来るのだけれど、垢じみた無頼漢たちはその場から逃げることを選んだみたい。
「アンシェリーク!危ないからお姉様の方にいらっしゃい!本当に危ないから!」
お姉様はニヤニヤ笑いながら手招きするのだけれど、危ない、危ないと言いながら男たちに陵辱させた後に海に突き落とすとか何とか言っていましたよね?
「それ以上近づいて来ないで!でないと私!本当の本当にここから落ちますから!」
崖っぷちに立っていると下から吹き上げる風で体がグラグラするのね!怖いわ!
「ほら!危ないから!」
「こっちにいらっしゃい!」
「フィルベルトよりも満足させてやりますから!」
「こわっ!」
こいつら、本当にこんな崖っぷちの吹き晒しの場所で陵辱する気まんまんみたい!
「ほら!アンシェリークったら!こっちにいらっしゃい!」
美しい顔に美しい笑みを浮かべながら手招きする。
「お姉様は聖なる巫女なのでしょう?であるのなら、こんなことをして女神様が許されると思っていらっしゃるのかしら?」
お姉様はニタリと笑いながら言い出した。
「お許しになるに決まっているじゃない!」
「女神様は女性や子供を庇護する神様なんです!傷つけることを許さないとされているじゃないですか!」
「全てを許さないわけじゃないもの。そもそも、アンシェリークは悪魔の使いなのですもの、女神様だって痛めつけることを望んでいらっしゃるわ!」
「痛めつけるとか言っちゃった!巫女様らしくない!」
「巫女様らしいとか、らしくないとか関係ないの。私が私らしくいられればそれで良いのだと何で分からないのかしら?」
自己中が過ぎる人だとは思っていたけれど、ここまでだったとは思いませんでしたわ。
「神殿騎士の方々は覚悟が出来ているのですか?私の夫は海の荒くれどもが恐れるほどの人ですし、神殿では巫女様、巫女様言っていますけれど、本物の巫女は私だと大神官様だって言っているのですよ?」
その言葉でお姉様は憤怒の怒りをその美しい顔に浮かべたのだけれど、そんなお姉様の周りにいる騎士たちは全く動じる様子がない。
本当は皆さん、巫女だ、巫女だと騒ぎながら女神様が加護を与えた巫女なんて存在しないと思っているのよね。女神様というものは象徴のようなものなので、誰がなろうが一緒だと思っている。
「もう私!本気で怒りましたから!」
私は右手の指二本を開いて横に向けると、左手の人差し指でそれを貫くように添えながら言いましたとも。
「こんな大勢でたった一人の女性を手籠にしようだなんて!死んだら女神様に告訴させていただきます!こいつらは本当に最悪な奴らだから天罰を降すようにって!」
そう言って後ろ歩きに歩きながら言ってやったのよ。
「お前ら全員に!天罰よくだれ!」
エーデの岬は昔、罪を犯した聖人が海に放り込まれた場所だと言われているんだけど、落ちたら最後、絶対に死ぬと言われる場所とも言われているのよ。なにしろ、ゴツゴツとした岩が海からいくつも突き出しているのだもの。そりゃ死ぬわ、絶対に死ぬわよ。
そのままの勢いで崖から落下した私は途中で岩にぶつかることもなく海に落っこちたのだけれど、それと同時に世界が轟音で包まれたような気がしたのよね。まるで雷鳴だと海に沈みながら考えていたのだけれど、そういえば両手で作るこのサインは落雷を意味するとロッテばあさんが言っていたような気もするのよ。姉や神殿騎士どもの頭の上に雷が落ちていれば良いのにとも思うのだけれど、無理よね〜。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!




