第六十七話 暴漢たちの騒ぎ
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ヘンリエッタの進む道は順風満帆のように見えながら、決してそうではないということが彼女には良く分かっていた。いつでも嵐の中心地に居るのは妹のアンシェリークであり、この妹の所為で母は毒杯を賜る形で死に、父は自分の娘が国王の正妃になるという話に耳も傾けず、完全に自暴自棄に陥っている。
ヘンリエッタは苦労の末に国王の妃の座を手に入れることになったが、そのことを喜んでくれるのはいつだって他人で、家に閉じこもった父は怯えたような表情を浮かべるばかりだ。
「ヘンリエッタ、いつだって女神様は我々のことを見ているのだよ」
と、父は言うのだが、だったらヘンリエッタのやることに非難の目を向けずにもっと喜んだら良いじゃないかと思うのだ。ヘンリエッタは民衆も認めた聖なる巫女であり、コルネリス王の正妃になろうとしている尊い存在なのだ。
「本物の巫女はやはりアンシェリーク様らしい」
と、言っている人間が居ることを知っているし、
「陛下はアンシェリーク嬢に産ませた子供をヘンリエッタ様が産んだ子供として自分の後継者にするつもりらしいぞ」
と言っている人間が居ることも知っている。
「本当に、あの娘はいつだって邪魔をするのよ」
世界はいつだって自分を中心に回っていくというのに、アンシェリークはいつだって目の前に現れて邪魔をするのだ。
だからこそ、今度こそアンシェリークを排除する。
王宮に移動する前に自分の妹の始末はきちんとしてしまいたかったヘンリエッタは、粗末な馬車と共にエーデの崖で待ち構えることになったのだが、
「ヘンリエッタ様!すみません!森から連れ出すのに時間が掛かってしまいました」
崖上にまで馬車を走らせて来た神官見習いのマルクは、慌てた様子で御者席から飛び降りた。
巫女候補たちが神殿から帰ることになり、役割を終えることになった護衛騎士たちをヘンリエッタは連れていた。
ヘンリエッタを今まで守り続けてくれた護衛のブロウスは信仰心も厚く、曲がったことが大嫌い。だからこそブロウスには挨拶回りに向かわせて、金と権力を見せつければ何でも言うことを聞く高位の神殿騎士だけを選んで連れて来ていた。
コルネリス王はヘンリエッタの護衛のために王宮騎士を遣わしてくれたのだが、王宮の騎士たちをアンシェリークの殺害に関わらせるわけにはいかない。だからこそ、
「王宮に移動をする前に神聖なる地にて祈りを捧げたく思います。ですので、護衛は神殿騎士だけで結構ですわ」
と言って神殿を抜け出して来たのだった。
「アリーダ・ブラリュネ嬢にばかりおもねって、私の言うことなど何も聞きやしないかと思ったのだけれど?」
「とんでもございません!僕はいつだってヘンリエッタ様第一で考えております!」
「あら、本当にそうなのかしら?」
馬車の扉が開かれると、頭から血を流したままぐったりと倒れているアンシェリークが現れた。ヘンリエッタは舌なめずりするような目で自分の妹を眺めると、
「今すぐ、ボロ馬車に居る男たちを連れて来てちょうだい」
と、後ろに居る騎士に指示を出したのだった。
アルンヘム本島にある女神リールを祀る中央神殿の近くには、エーデの岬と呼ばれる場所がある。ここは断崖絶壁となっており、過去には女神リールの意思に背いたという罪で聖人エーデが海に放り込まれたと伝えられている場所である。
罪人の罪を償う場所として有名ではあっても、あまり人が訪れることはない。紺碧の海が泡立つ姿が崖の上からは良く見えており、海の中からゴツゴツとした岩が隆起しているような場所でもある。ここから落ちてしまえばひとたまりもないだろう。
失神しているアンシェリークを護衛の騎士に担がせて、崖の上から放り投げればそれで終わりということにもなるのだが、それでは面白くないとヘンリエッタは考えてしまうのだ。だからこそ、自分がここまで乗って来た豪奢な馬車の他に、粗末な馬車を用意した。この中には港にいる荒くれ者が何人も詰め込まれており、失神する妹を陵辱させてやろうと考えて用意した。
「母は悪魔の使いとして断罪されましたが、母に悪の誘いをかけたのは妹のアンシェリーク、私の妹こそが悪の使いだったのです」
馬車の床に転がる妹を眺めながらヘンリエッタはそう宣言すると、
「悪魔の使徒である妹は、今度はコルネリス王を魅了し、悪魔の血を引く自分の子を王位に据えようと企んでいるのです」
そう言って、気を失ったアンシェリークを馬車の外に出すように指示を出す。
崖の上はゴツゴツとした岩肌で覆われており、その上へアンシェリークは寝かされると、粗末な馬車から降り立った屈強な男たちがアンシェリークの元へと連れて来られた。
「妹の魂を浄化するには男たちに快楽の限りを尽くされないとならないのです」
悲しげな表情でヘンリエッタは失神する自分の妹を見下ろしたが、心の中は弾けるような狂喜でどうにかなりそうになっていた。
女神の化身とも呼ばれるヘンリエッタはいつだって自分が一番でないと納得できないため、気に入らない令嬢は策略に嵌めて二度と社交界には戻って来れないようにしていたのだ。やはり一番効果的なのは暴漢に襲わせるというやり方で、ターゲットになった令嬢は誰もが家に閉じこもるようになってしまう。
男性に襲わせるということは女性の魂を傷つける行為、尊厳を深く傷つける行為なだけあって、ヘンリエッタは好んでこのやり方を使い続けていた。だからこそ、伯爵邸から出て神殿にあがることになったアンシェリークにエトとヘイスという二人の神官を差し向けるようなこともしたのだが、悪徳神官たちはアンシェリークを襲う前に天罰が降ることとなってしまったのだ。
「さあ!思う存分!この女を聖なる行為で戒めてやりなさい!」
目の前でアンシェリークが暴力を受ける様を舌なめずりしながらヘンリエッタは待ち構えることになったのだが、無頼漢そのものの男たちは真っ青な顔で固まったままだった。それだけでなく、
「いや、これ、狂人の嫁じゃないですか!」
と、一番大柄で人相の悪い男が震え上がりながら言い出した。
「冗談じゃあねえですよ、狂人の嫁を俺たちで手籠にするですって?そんなこと、どれだけ金を積まれたって出来るわけがありませんや!」
「そ・そ・そ・そうですよ!」
樽のようにでっぷりと太った男は、自分の腕の大きな傷を掲げながら言い出した。
「あの野郎に俺は生皮を引っ剥がされたことがあるんですよ!次は大事な息子の生皮をひっぱがしてみじん切りにするぞと脅迫されているんですよ!無理!無理!無理!」
すると他の男たちまで、
「え?フィルベルトの嫁?」
「冗談じゃねえぜ!話が違う!」
「俺はまだ死にたくねえんだよ!」
と、大騒ぎをし始めた。
護衛の騎士たちが剣を抜いても騒ぎを止めようともせず、走って逃げ出そうとする者まで出て来る始末。
「ああ〜!もう!なんでいつも上手くいかないのよ〜!」
いつだって妹を痛めつける寸前までことは進むのだが、最後の最後で頓挫することになる。今だって剣を引き抜いて騎士たちが脅迫をしているというのに、
「こんな状況じゃあ、どんな猛者だって役立ちませんやあ!」
と言って、アンシェリークに近づこうともしないのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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