第六十六話 神官見習いマルク
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国王陛下が私の姉を正妃として迎えるという話は本当のようで、近々、姉は神殿から王宮へ移動をする予定みたいなの。私の夫ときたら姉の魅力にやられて、美しい姉のために戦争に参戦し、美しい姉に勝利を捧げようとしたのでしょうけれど、自分が命懸けで戦っている間に、コロッと他所の男と結婚決定状態なのです。
やりそう、やりそう、あの姉なのですもの、余裕でそういう嫌〜なことをやってしまうような人なのよ。姉の行動原理としては、私の持っているものは何でも奪い取らなければ気が済まないので、私と結婚することになったフィルベルトはある意味被害者よ。
姉にとっては男を転がすなんて非常に簡単なことなので、私の夫もコロコロ姉の手の平の上で転がることになったのでしょう。なにしろ私の夫は姉のために戦って、戦って、戦って英雄にまでなったのですもの。さぞかしお姉様は鼻高々となったことでしょうね。
だけど、メヘレン王国が我が国を侵略しようとやって来る中、王様は巫女であるお姉様と一緒になって女神様に祈りを捧げなくちゃならないし、こんな美味しい機会をお姉様が逃すわけがないのよね。
まんまと民衆はお姉様に魅了され、戦に勝てているのはお姉様のお陰だと大騒ぎ。その騒ぎを利用して、上昇気流に乗って何処までも行ってやろうとするところが相変わらずだし、それを可能とするのがお姉様という人間なのよ。
お姉様はフィルベルトではなく、ベルナール王子でもなく、コルネリス王の手を取ることを選んだので、二人はすでに用無し状態になっている。傷心となったフィルベルトはお姉様と顔を合わせたくないため本島に戻ってきていないみたいだけれど、このまま戻って来ない方が良いと思うわ。だって、帰って来たって嫌な思いをするだけだもの。
問題は、夫のフィルベルトが本島に帰って来ないのは別に良いのだけれど、
「彼の荷物はこのまま放置の状態で良いのかしら・・どうしようかしら」
という解決出来そうにない悩みで悶々とすることになってしまったの。
森の中の一軒家に私たちは共に住み始め、それなりに私物を持ち込んでいるとは思うのだけれど、妻として不在の夫の衣服くらいまとめておくべきなのかしら?だけど、そんな夫は私の姉に夢中なのでしょう?
「マジであいつ、俺の荷物勝手にいじってんだけど?ムカつく〜!」
と、言われたら嫌よ!嫌!だけど反対に、
「なんで自分の荷物はまとめて俺の荷物は放置なわけ?マジで萎えるわ〜」
と、言われるのも癪なのよ。
「はあ〜、どうしたら良いのかしら〜」
私は自分の家には戻らずにロッテばあさんの家で世話になっていたのだけれど、だからこそ家に寄る暇もなかったという言い訳が立つかしら?だけど、だったら自分の荷物は何で用意しているんだと追求されても困るわよね。
「はあ〜、面倒くさい〜」
引越し準備で大忙しということで、邪魔になる子供たちがロッテばあさんの家に集められていたのだけれど、無法状態で大騒ぎの状態よ。
「アン様よお、子供たちの面倒は頼んだぞ」
と、ロッテばあさんに言われたけれど、私、今まで子供の面倒なんかみたことないのよ?
そんな訳で子供たちが大騒ぎする部屋の中で一人だけ椅子に座って頭を抱えていたのだけれど、幼い女の子が私のスカートの裾を引っ張りながら言い出したのよ。
「アンさま〜、森の中に居る子がアンさまを呼んでくれって言ってるよ〜」
「子供?」
「大神官様のところで働いている神官見習い様なんだって!」
女の子のお姉さんと思われる子がそう言うと、その後の言葉を引き継ぐようにして妹の方がはしゃいだように言い出したのよ。
「大神官様が呼んでいるからアン様を呼んでくれだって!」
そういえば今日、上級神官を呼んで会議をするとか何とか言っていたものね。
女神様のお力を使って王国の周囲の海流を変化させることが出来るのだけれど、これは大神官様の指示の元、巫女と神官が協力をして行う神事だというの。これを神官たちだけで勝手に行っていたという疑いがあるため、今回、上級神官たちにこのことを問い詰めるとは言っていたのだけれど、神事に関わった私にも発言を求めるのかもしれないわね。
幼い姉妹に手を引かれた私は神官見習いが待っているという森の中へと移動したのだけれど、待っていたのは神官見習いのマルクで、
「アンシェリーク様、申し訳ありません。大神官様が急遽、神殿の方までアンシェリーク様に来て欲しいと言っておりまして、今すぐ一緒に来て頂けますでしょうか?」
と、言い出したのよ。
十二歳の神官マルクが貴族の庶子だという噂は聞いたことがあるけれど、ちょこまかと良く働くことから巫女候補の専属侍女たちが重宝しているという話は聞いたことがある。
以前、奥の神殿に居る大神官様の元まで案内してくれたのもこの神官見習いだったため、上の人にも気に入られているのだろう。
「私は別に構わないのだけど・・」
子供たちの面倒をみるようにロッテばあさんには言われていたのよね〜。見ているだけの役立たずなのだけれど、ちょっと困ったことになったわね。すると、姉妹のうちのお姉さんの方が言い出したのよ。
「アン様!大神官様の用事だったら仕方ないですよ!ロッテおばあちゃまには私の方から言っておきますので、アン様は神官見習い様と一緒に神殿に行ってください!」
「そうだよ!きちんと伝えておくよ〜!」
手を繋いで胸を張ってそう答える姉妹の姿は非常に微笑ましいもので、
「うふふふっ」
そんな二人の姿を見ていると、本当に、貴族の姉妹関係ってクソほどどうしようもないものだわとつくづく思ってしまうのよね。庶民の平和さを目の当たりにしたわ。
ロッテばあさんの家に戻って行く姉妹を見送った後に、
「アンシェリーク様、エスコートさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
と、マルクが言い出したのよ。
この子が色々な場所で好かれている理由が分かるわ〜と思いながら森を移動することになったのだけれど、マルクはその間も色々な話をしてくれたの。
神殿の森は女神の加護の力が強い場所であり、魔術師たちはこの中で不思議な力を使うことは出来ないだけでなく、人の出入りを制限するように出来ているということ。出入り出来る人間は森の長であるロッテばあさんと大神官様が決めるのだそうで、大神官様の連絡係として森に出入りできる神官見習いは自分だけだということ。
巫女候補としてやって来た令嬢たちだけれど、彼女たちも家に帰る準備を始めているのでとっても寂しいということ。母親が平民で父親が貴族のマルクは、貴族とも平民とも仲良く出来る関係から色々な場所に出入りしているのだけれど、だからこそ、色々な発見が日々あるのだということを嬉しそうに言っているの。
確かに私だって彼が色々なところに出入りしているのを目撃していたわ。それこそ、神殿から姉が与えられた豪奢な部屋からだって出て来ていたもの。
だからこそ、
「アンシェリーク様、ごめんね」
森を出たところで後頭部を強かに殴りつけられた私は前のめりとなって倒れたのだけれど、そんな私の顔を覗き込みながらマルクが謝罪の言葉を発したの。だけど、彼はちっとも悪いなんて思っていないような顔で、ニヤニヤ笑っていたのよ。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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