第六十五話 騎士団長と護衛騎士
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騎士ブロウスは聖なる巫女ヘンリエッタの専属護衛騎士をしているのだが、この度、ヘンリエッタがコルネリス王の元へ輿入れするということが決まり、ブロウスも神殿騎士から王宮の騎士へと転属することが決定。誰が見ても分かるほどの大出世をすることになったのだ。
「まさかこんなことになろうとは思いもしなかったな〜」
神殿騎士団長であるラウレンスがつくづく羨ましい表情を浮かべながらブロウスを見た。シャリエール伯爵夫人が悪魔の使いとして断罪を受けた時に、その娘であるヘンリエッタはいくら美しい容姿をしていても起死回生は無理だろうと考えた。
その後、苦肉の策で国王陛下に自分の体を差し出していたが、そうしたことで、肝心のベルナール王子の心がヘンリエッタから離れてしまったのだ。今の王はコルネリスではあるが、永遠にコルネリスが王で居られるわけもなく、いずれ王位は継承されることになる。だからこそヘンリエッタはベルナール王子の心を掴み続けるべきであったのに、コルネリスを選んだのだ。
騎士団長であるラウレンスはコルネリス王と同じ世代であるため、彼が女に飽きっぽいということは十分に理解している。最近でこそ妾妃アンネリーンを溺愛して女神の泉を潰すという大惨事を引き起こしていたが、実家が没落すれば容赦無く捨てるような酷薄さを持っている。だからこそ今は気に入っていたとしてもヘンリエッタはすぐに飽きられることになると思っていたのだが、
「まさかこんなことになろうとはな〜」
と、言って騎士団長は呆れ返ってしまうのだった。
「ヘンリエッタ様がお前を連れて行くと言い出した時には大いに驚いたが、お前みたいな奴は神殿騎士ではなく王宮で働いたほうが良いだろうな」
メヘレン王国との戦いで、森の住民が大いに活躍することになったのだ。彼らは大陸から移動してきた魔術師の子孫たちということになるのだが、風や水、炎を自由に操る不思議な力を持っている。
今まで神殿の森は大神官様の管理下に置かれることになり、大神官以外の者が手を出すことは禁忌とされていた。神殿の森の管理を別の者が担当するという噂もあり、森の住民たちが激しく抵抗するのは目に見えている。そのため、神殿騎士たちは指示があり次第、森に残された女子供を制圧することにもなっていた。
だからこそ、真っ直ぐすぎるブロウスは王宮に移動するほうが良いと考えた。神殿騎士にしては信仰心が高く、真っ直ぐで善良過ぎる彼は女子供を傷つけることを決して許さないところがあるため、王宮に移動してくれるのならそれに越したことがないだろう。
「ヘンリエッタ様について王宮に移動するのは良いのですが、心残りが一つだけあるのです」
「なんだ?お前が心残りなんて珍しいな?誰かに借りた金をまだ返してないと言うのなら、私が代わりに払っておいてやっても構わないが」
「そういうことではないのです。実は、ヘンリエッタ様の妹様であるアンシェリーク様なのですが」
「うん?」
「アンシェリーク様は狂人フィルベルトと結婚したままの状態なのです」
「ううん?」
「私はあの狂人とアンシェリーク様との結婚生活が長引けば、狂人から暴力を振るわれる時間もそれだけ長くなるものと考えているのです」
「はい?」
「ヘンリエッタ様もそのことに対して大変心配しておりまして、妹様が夫に向ける愛情を失わせるために、あの狂人が浮気をしているという噂を流したり、私がフィルベルトを装って浮気をしているように見せかけたりもしたのですが、ちっとも効果はなかったのです」
「はあ」
「今はまだ狂人は戦争から帰って来ていないので大丈夫ですが、奴が帰って来たらアンシェリーク様にどんな暴力を振るうことになるか分かったものではありません」
シュトルベルク公爵を後見人とした状態で神殿騎士となった平民フィルベルトは本当に危ない奴だった。髪色は漆黒でも顔だけは乙女のように可憐な男だったので、神殿騎士の中にはイタズラを働いてやろうという奴が湧き出るように現れることになったのだが、その全ては完膚なきまでに、目も当てられないような残虐な方法でやられることになったのだ。
それこそ騎士団長であるラウレンスが思い出したくもないほどの残酷な方法が実施されることになったのだが、フィルベルトの後ろ盾はシュトルベルク公爵なのである。だからこそ、全てはうやむやにして処分することにしたのだが、
「フィルベルトが帰って来たらアンシェリーク様には地獄が訪れることとなりましょう!離婚は結婚してから一年経たないと出来ないということは知っておりますが、正式に離婚が出来るまではアンシェリーク様を王宮へ隔離したほうが良いと思うのです」
と、ブロウスは真面目な顔で言い出したのだ。
フィルベルトは確かに狂人と言われるほどのイかれた奴だが、ファルマの海戦で大活躍をした英雄でもある。陞爵も噂される英雄に対してあまりにも不敬にとれるような発言だが、ブロウスは本気でアンシェリークを心配して発言しているのだろう。
「ですので、狂人が戻って来ない今が最後のチャンスなのです。本日、ヘンリエッタ様はアンシェリーク様と話し合いをして、恐ろしい男から逃れるために王宮への移動を勧めるそうなのですが、それが上手くいくとは断言出来ません。フィルベルトは顔だけは良い男なので、女たちは夢中になってしまうものですし、アンシェリーク様も奴に対する情から踏ん切りがつけられないかもしれません」
ブロウスは本気でフィルベルトがアンシェリークへ暴力を振るうことを恐れているようだが、騎士団長であるラウレンスからすれば余計なお世話のようにしか感じられない。確かにフィルベルトは残虐になろうと思えば何処までも残虐になれる男だが、彼は全方位に対して暴力的だというわけでは決してない。
人としての礼儀を持って接していれば反抗することもないし、至って真面目に働く男なのだ。ただし、自分に害をなそうと考える人間が近づけば、こちらが驚くほどに容赦をしないというだけなのだ。
「それでは今日、ヘンリエッタ様はアンシェリーク様と話し合いをするということなのか」
「姉妹二人で話し合いをしたいということなのです。コルネリウス王によって護衛もつけられているからということで、私は挨拶回りに行ってくると良いと言われました。ですので、ラウレンス様にアンシェリーク様が王宮へ移動しなかった場合、気にして頂けるようお願いしたく思いまして」
「それはあんまり良くない展開だな」
「え?どういうことでしょうか?」
一応、これでも神殿騎士団長という役職に就いているだけあって、ラウレンスの元には様々な情報が流れて来るようになっている。多くの民から聖なる巫女と持て囃されているヘンリエッタだが、聖域にある泉で秘事とも言われる女神の神事に呼ばれることになったのはアンシェリークだった。つまりは、女神が認めた本物の巫女はアンシェリーク嬢ということになるだろう。
ラウレンスがヘンリエッタに神殿騎士としては真面目過ぎるほどに真面目なブロウスを付けたのは、妹のアンシェリークに大怪我を負わせるような事態に陥らせないため。妹に対して悪意を持ち続けるヘンリエッタを牽制する意味でブロウスを配属したのだ。
ブロウスはヘンリエッタとアンシェリーク、二人の姉妹の護衛騎士となったものの、ヘンリエッタが思う通り、妹のアンシェリークからは離れて、ヘンリエッタをベッタリ護衛することになってしまった。
ヘンリエッタはブロウスを独占することで優越感に浸ることになったし、ブロウスはベッタリとヘンリエッタに張り付いて、アンシェリークが大きな怪我をするような事態を招くようなことにはしなかった。彼は善意の人なので、わざわざ漆黒のカツラをかぶってヘンリエッタとイチャイチャしているフリまでしていたが、それもまた、アンシェリークの安全を思ってのことだったのだ。
本物の巫女が神殿に上がったら、何があっても大怪我をするような事態に陥ってはいけない。だからこそ、フィルベルトをアンシェリークの専属護衛騎士にすると大神官が言い出した時にも二つ返事で了承したのだ。
それは何故かというのなら、結局、神殿に仕える自分達はいつだって女神様の監視下に置かれているからだ。
「「「「キャーーーーーーッ!」」」」
「「「「大神官様―――――――っ!」」」」
外が俄かにうるさくなったかと思うと、無数の雷が一斉に落ちたような轟音が轟き渡る。神殿騎士の詰所は神殿内に設けられているのだが、外が大騒ぎになっているのが執務室の中にいても良くわかる。そのうち、慌てた様子の騎士が執務室に駆け込んできて、
「大神官様が鐘塔の上から落下されました!」
と、大声で叫んだのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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