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第六十四話  神雷降る

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 大陸式の身分制度をエレスヘデン王国が取り入れたのは五代前の王からで、島々を統治する族長やその親族たちにまずは爵位というものが与えられることになったのだ。レオンの家もそうやって爵位を与えられた家になるのだが、貴族だというのに貧乏子沢山な家だった為、五男のレオンは口減しのため神殿に送られることになったのだった。


 多くの貴族たちが多額の持参金を積んで子供を神殿に送り込んでいる中、レオンは持参金など用意されない状態で送り込まれた。レオンは貴族の子弟たちから馬鹿にされて仲間はずれにされたし、平民の子供たちからは貴族だからという理由で嫌厭されることになったのだ。


 何処からも弾き出されて居場所を見失ったレオンは、神殿に参拝に来た家族に泣いて縋りつき、自分を連れて帰って欲しいと願ったものの、

「我らのことは忘れて女神様に仕えることだけを考えなさい」

 と言ってレオンを突き飛ばすと、さっさと神殿から帰ってしまったのだった。


「わーーーーんっ!」

 多くの信徒が祈りを捧げる祭殿の間でレオンは大泣きをしたが、金がないレオンなど構ったところで何の特にもならないとして貴族出身の神官たちは見向きもしないし、慈悲深い平民出身の神官たちはレオンが貴族出身だからという理由で遠くから見守ることしか出来ない状態に陥った。


 冷たい床に転がるようにして大泣きするレオンはひたすら放置されることになったのだが、そんなレオンを抱き上げてくれたのが、当時、上級神官だったヘルマニュスであり、

「世の中、金のあるなしだけが重要で、ひたすら無慈悲に回っていくように見えるかもしれないが、必ずしもそういうわけではないということをお前は学ばなければならないだろう」

 と、言い出した。貴族身分のレオンがひたすら放置されるのは金がないからだけど、全ては金で回っているわけではないとヘルマニュスは言いたかったらしい。その後、ヘルマニュスは放置され続けるレオンを気に掛け、親代わりのように育ててくれることになったのだが、

「馬鹿みたい、本当に馬鹿みたいな人だ」

 と、レオンはヘルマニュスを軽蔑していたのだった。


 ヘルマニュスは貴族出身のくせにレオンだけでなく、平民身分の人間に対しても惜しむこともなく慈悲を与える。そうして自分がいくら損をしたとしても笑って終わらせるのが彼の性分で、

「あの方は女神様に愛された人だから」

 と、良く言われているのだが、そもそも女神様とは一体なんなのだろうとレオンはつくづく思うのだった。


 エレスヘデンの国民が信じる女神リールは大陸の神々に追われて海に逃げて来た神様だった。だとするのなら大陸の神々よりも遥かに地位が低い、大したことのない神様ということになるのだろう。


 女神は加護を与えた巫女を民衆の救済のために遣わすとは言われているけれど、巫女と呼ばれる女たちは大陸の魔術師のように特別な力を発揮するという訳ではない。ただ、ただ、女神に愛されたというだけの巫女を神殿は取りこぼさないようにするために探している。


 それも神殿に貴族たちが関わるようになってから形骸化しているというのに、

「各島にある修道院と孤児院は絶対に維持し続けなければならない。子供たちが安全に安心して暮らせるようにするために、たとえ貴族たちに頭を下げなければならないとしても、我々は続けていかなければならないのだ」

 と、平気で意味不明なことをヘルマニュスは言うのだ。


 ヘルマニュスはその後もどんどんと出世して大神官の地位に上り詰めることになるのだが、彼は大神官になっても甘い汁を吸うことをしない。貴族と平民の間に挟まれて苦しむ姿を見るのはいつものことだし、彼の苦悩を身近で見ながら、

「なんて馬鹿な奴だろう」

 と、レオンはつくづく思うのだった。


 三歳で神殿に放り込まれたけれど、レオンが貴族出身なのは何処に行っても変わらないが、ヘルマニュスが出世をすればするほどレオンにも注目が集まるようになり、

「息子たちは何かと問題を起こすことも多いとは思うが、大神官ヘルマニュスの懐刀とも呼ばれる君には息子たちのフォローを頼みたい」

 と、有力貴族であるカウペルス家とダンメルス家の当主たちから言われて、大金を受け取ることにもなったのだ。


「貴族は貴族同士で支え合わなければならないからね、その点で言うなら大神官様はあまりにも頭が硬すぎる」

「君が大神官になる日を心待ちにしているよ」

「今の神殿は古すぎる」

「下賎な子供のために金を消費するなど愚の骨頂」

「君の時代になったら是非とも改善をしてもらいたいものだ」


 ヘルマニュスの側近として立ち回ることになったレオンは、力がある貴族たちの都合の良いように立ち回り、手に入れた金は神殿に突っ込んだ。

「レオン、お前が神殿のために金を入れてくれるのは私も常に感謝をしているが、女神様はいつだって我々のことを見ているのだ。そのことだけは忘れないでおくれ」

 金がないことでいつでも頭を悩ませているヘルマニュスは飛び上がって喜ぶでもなく、葛藤を隠しきれないような様子でレオンを見る。だからこそ、レオンは朗らかに笑って言うのだった。


「貴族たちの寄進が私を通じて行われていると思えば良いのですよ、それに私は女神様がお怒りになるようなことなどやってはおりません」

 女神様のお怒りになるような行為をするのは有力貴族の子弟たちであり、自分は尻拭いをするだけのことなのだ。


「レオン、いつだって女神様は見ているのだ」

「レオン、女神様の慈愛を当たり前のように考えてはいけない」


 何度も何度も繰り返される言葉に生返事を返しながら、レオンは神殿のために金を稼いでいく。金に困っているヘルマニュスのために、溢れるほど金を蓄えた貴族から引っ張り出してくるだけのことなのに、いつだってヘルマニュスはレオンを褒めるでもなく、女神様を持ち出してくるのだ。

「はあ〜」

 馬鹿なヘルマニュスのために自分が動いているというのに、ヘルマニュスはレオンの働きを心の底から認めることはない。自分だって有力貴族や王家に対して忖度をしているというのに、いつだってレオンがやることを認めることはないのだ。


 挙げ句の果てにヘルマニュスはカウペルス家とダンメルス家を切り捨てた。破門処分された両家は大陸に亡命することになったのだが、

「もっとやりようはあっただろうよ〜」

 この結果にレオンはつくづくうんざりしてしまったのだった。


 王家は教会の勢力を削ごうと躍起になっているけれど、結局、森に隔離された魔術師たちの戦力と海流を動かす神事を教会が持ち続ける限り神殿が潰れることはないのだ。今までは平民たちにも安寧をという理念の元、無駄に金を費やしてきたが、その部分を削減するようにすれば神殿の力はより強大なものに変わるだろう。幸いにも欲の塊のようなヘンリエッタは国民から聖なる巫女として認められ、コルネリス王の正妃に迎え入れられるのは確実だと言われるようになった。


 海流を動かす神事は巫女を使わず神官たちで自由に行うことが出来るということが確認出来たし、森の民たちは残された女子供を捕まえて脅迫をすれば、戦争から戻って来た男たちを従わせることが出来るだろう。


 シャリエール夫人が悪魔の使いとして断罪された後もヘンリエッタを聖なる巫女として支え続けたレオンをコルネリス王は大いに気に入り、次の大神官はレオンがなるべきだとまで言っている。であるのなら、障害にしかならないヘルマニュスは排除をして、間違った方向に進み続けている神殿を正しい道に導くほうが良いのではないだろうか?


 だからこそ、強硬に反対するだろうと判断した二人の上級神官は殺した。ヘルマニュスに毒を与えたのは今まで育ててもらった者に対するレオンなりの慈悲だ。猛毒は一瞬でヘルマニュスの命を刈り取るはずだったのに、

「ΩπββΔνΩ!」

 会議の間から飛び出したヘルマニュスは中央神殿にある鐘塔に登りあがると、彼は柵に取りすがりながら空に向かって何事かを叫び続けた。


 異様な騒ぎを聞きつけた人々が鐘塔を見上げている中、ヘルマニュスを捕まえようとして飛び出したのだが、ヘルマニュスは人差し指と中指だけを広げて横に向けると、左手の人差し指でこれを貫くように添え、口から真っ赤な血を吐き出しながら笑みを浮かべる。


 そうしてヘルマニュスは柵を背にひっくり返るようにして塔から落ちて行ったのだ。大神官の落下を目の当たりにした人々が集まって来るし、その姿を鐘塔の上から茫然と眺めたレオンは、

「わああっ!」

 悲鳴をあげてその場にしゃがみ込んでしまった。

 それは何故かというのなら、空は雲ひとつない状態だというのに無数の雷が降り注いだから。その轟音を聞いて、レオンの耳から真っ赤な血が流れ出した。



過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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