第六十一話 大神官と上級神官
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「シュトルベルク公爵はアルンヘム本島には帰って来ない?」
「ええ、そうなのです。公爵様の妹であるフレデリーク様がベルナール殿下がお見舞いに伺った後、行方不明になったのだそうで、フレデリーク様を捜索するために公爵ご自身はアルメロ島へと向かったのだそうです」
「何故、ベルナール殿下はフレデリーク様の見舞いになど行ったのだろうか?」
「メヘレン王国との戦いの全てをシュトルベルク公爵に任せて後ろに引っ込み続けた殿下ですから、公爵との仲介をフレデリーク様に頼もうとしたのではないでしょうか?」
「なんということを・・」
上級神官であるレオンから報告を受けた大神官ヘルマニュスは思わず絶句した。コルネリス王が原因でフレデリークは心を壊す結果になったというのに、その元凶の息子が自分の保身のためにのこのことフレデリークの元へ訪れるとは、
「誰も殿下を止めようとはしなかったのか?」
あまりの怒りにヘルマニュスがブルブルと震えると、レオンはため息を吐き出しながら言い出した。
「前の巫女選びの際に起こったことは箝口令が敷かれることになりましたから、殿下も周りの人間も、フレデリーク様が自分の父に捨てられて心を壊したなどとは知らなかったのかもしれません」
「それにしても、最近の王家のやり方には納得がいかないことが多すぎる」
女神の守人であるシュトルベルク公爵家が直接メヘレンの艦隊と戦い、神殿は敵が上陸しないように神事によって海流を動かしていたというのに、それを当たり前のこととしているようで感謝の一言すら出てこない。
王家は女神の代理人として褒美を授ける必要があるのだが、その褒美だって一体どういう形になるのか想像もつかないところがある。今代の王であるコルネリスは神殿のことも嫌いなら、自分よりも遥かに優秀なシュトルベルク公爵のことは大嫌いなのだ。何かしらの難癖をつけて謀反の疑いをかけられる恐れもあるため、妹のフレデリークが行方不明となったのは女神様による差配なのではないかと考えてしまうほどなのだ。
「それにしても神殿の森が随分と静かなように思えますが、大神官様は何かご存じですか?」
レオンが心配げに森の方角を眺めながら言い出したため、
「ロッテ様がお体を壊されたのよ」
と、大神官は答えた。
「流石にあの年齢で神事を行うのは無理があったのだろう」
「それにしても、森から神殿に出向く者が目に見えて減ったようにも思えるのですが」
「レオンは自分が大神官にでもなったものと考えているのかな?」
神殿の森には大陸から移動して来た魔術師たちが住み暮らしている。神殿の森自体に強い女神の加護がかけられているため、森の中で魔術の力を使うことは出来ないが、外に出れば歴とした戦力になる。そのことを今回の戦いは証明することにもなったのだろう。
「大神官となれば森の全てのことを任されることになる。神殿の森は女神様の加護の元、守られているからな。お前も森が随分と気になるようだが」
「私が大神官だなんて、とんでもありません!」
レオンは慌てた様子で首を横に振ると言い出した。
「ただ、森の住民が神殿に働きに来なくなっているので、どうしているのかと疑問に思っただけでして」
「彼らの父や兄、祖父は公爵と共にメヘレンとの戦いに出発したからな。彼らが無事に帰って来た時の出迎えの準備でもしているんじゃないのかな?」
「ですが、神殿の仕事を無断で休んでいる者も居るようでして」
「レオン」
ヘルマニュスは上級神官であるレオンをじろりと睨みつけながら言い出した。
「彼らが神殿で働くのは善意からなのだ」
「ですが、その善意に給料を払っておりますよね?」
「レオン、もう一度問うがお前はいつの間に大神官になったのか?」
数回、瞬きをしたレオンは、
「あははははっ!まさか!冗談でもそんなことを言わないでくださいよ〜!ただ、ただ、何故現れないのかと疑問に思っただけなんですから〜!」
カラカラと笑いながら言い出したものの、大神官は憮然とした表情を崩すことはなかった。
「もう〜!そんな怖い顔しないでくださいよ〜!分かりました!ただ心配していただけなんですが、森の民についてはもう言いません!それで、明日の上級神官を集めた会議は予定通り行うということで宜しいのでしょうか?」
大きなため息を吐き出したヘルマニュスは、
「会議は変更せず、予定通りに行おう」
と答えて立ち上がった。
民衆から絶大な支持を得るヘンリエッタを女神の加護を持つ巫女として認めるかどうかという話し合いをするために七人の上級神官と大神官であるヘルマニュスが中央神殿に集まることになったのだが、実はこの会議ではもう一つ、重大な議題を上げようと大神官は考えている。
女神リールを祀る神殿では周辺の海流を変える神事が秘匿されているのだが、その神事を穢した者が居るようなのだ。
女神の守人と神殿は協力する形でエレスヘデンの島々を守ることになるのだが、海上を移動する公爵軍と神殿は、互いに離れた場所に居ながら連携をして敵を打ち倒していくことになる。だからこそ、島の周囲を流れる海流は必ず決まった形で変化をさせなければならないのだが、それを勝手に弄った者が確実に居る。
「上級神官レオンよ」
執務室から出て行こうとしていたヘルマニュスは書類の整理をするレオンの方を振り返りながら声をかけると、そのまま黙り込んでしまったのだった。
神殿には多くの貴族が神官として入り込み、王家の悪意に従って動くなんていうことはいつものことだ。破門処分となったエトとヘイスという二人の神官は飛び抜けて悪さをしていたが、神殿を食い物にする者など山ほどいる。
「神殿は女神の慈悲深い愛を伝える場所、身分に差別なく多くの人々に庇護を与える場所だということは理解しているな?」
書類から顔を上げたレオンはキョトンとした表情を浮かべると、
「そんなの当たり前のことではないですか!」
と、言い出した。
レオンは三歳の時に神殿に預けられたため、ヘルマニュスが親代わりとなってレオンを育てたようなものなのだ。
「神殿の森に興味を持つのも良いだろう、上級神官以外の仕事に興味を持つのも良いだろう。だがな、ここは女神様が作り出した聖域なのだ。いつだって女神様は我々を見ているということを忘れてはいけない」
そう言って大神官は部屋の外に出たのだが、書類を手に持つレオンがどんな表情を浮かべているのかまでは分からないままだったのだ。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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