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第六十話  コルネリス王とヘンリエッタ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 女神に愛されているエレスヘデン王国はいつでも女神の力で守られている。だからこそ、コルネリス王の思う通り、メヘレン王国は船を引き返すことになったのだ。


 女神の守人とも呼ばれるシュトルベルク家は外敵から国を守らなければならないし、女神から庇護を受ける神殿は海流を変化させて敵の船を沈めなければならない。そうやってみんなで協力をして国を守るのは当たり前のことであり、女神に代わって褒美の品を与えるのが王家の役割だとも言えるだろう。


 勝利の報告が来てからというもの、公爵が戻るのを今か今かと待ち続けることになったコルネリス王は、側近からの報告を聞いて思わず眉間に深い皺を刻み込む。そうしてしばらくの間、黙りこんだ後、

「今すぐベルナールを連れて来い!今すぐにだ!」

 と、大声をあげたのだった。


 巫女アルベルティナを正妃として迎え入れ、なかなか子宝に恵まれなかったコルネリスは側妃や妾妃を娶ることになったのだが、ベルナールはそんなコルネリスの元に生まれた一人目の愛すべき王子だ。産んだのは正妃ではなく側妃ではあったが、自分の血を受け継いだ息子だ。その息子が巫女の候補者たちと神殿で顔合わせをするようになった時に、

「殿下は巫女候補となる令嬢たちに次々手を出しているようで、ブラリュネ子爵令嬢はショックから部屋に引きこもっているようです」

 という報告を受けた時には、心の底からうんざりしてしまったのだ。


「確かに巫女選びというものが形骸化しているのは間違いない事実だが、神殿としては神聖力を持っている令嬢たちを集め、その中でも特に力がある者が選ばれるように差配しているところがある。私の時だって最初の方でこそフレデリークを選ぶのだと決意をしていたというのに、最終的には一番神聖力があるアルベルティナを選んだのだ。エレスヘデンは女神に愛された国なのだから、なるべく女神に気に入られるように本物の巫女を選ぶべきなのだ。だというのにあいつはまた節操のないことをするものだな」


 今でこそ多くの側妃や妾妃を抱えているコルネリス王であっても、巫女選びの時には誰彼構わず手を出すようなことはしなかったし、巫女候補として集められた令嬢たちを尊重するようにもした。そういったことがベルナール王子には欠如しているということになるのだろうが、

「たった一人の王子と周りが甘やかし過ぎるからこんなことになってしまうのだ」

 確かに、ベルナールは甘やかされた王子だった。


 メヘレン王国が艦隊を率いてエレスヘデンを侵略するために大海原を進んできていると言うのに、軍の最後尾に位置する船に王子は何の罪悪感もなく乗り込んだ。確かに王族が最前線まで出て戦う必要はないと忠言はしたが、全く戦うこともせずに終わらせようとしているのだから呆れるほかない。そんなベルナールが、戦線から離脱をしてアルメロ島へと向かったというのだ。


 アルメロ島とはエレスヘデンの外郭に位置する島になるため、敵船の奇襲を考えて出発したのかとも考えたが、そういう訳では決してなく、ただ、ただ、シュトルベルク公爵の妹フレデリークの見舞いを理由に訪れたという。


 フレデリークは元々コルネリスの婚約者であり、コルネリスの子供を身籠ったまま追放処分を受け、船の上で流産することになったのだ。そうして心を壊したままアルメロ島で養生をして今に至るのである。そのフレデリークを側妃の息子であるベルナール王子が見舞いに行ったというだけでも公爵家に対して顰蹙を買う行為だというのに、ベルナール王子が見舞いに訪れた後にフレデリークが行方不明になったという。


 公爵家側はベルナール王子がフレデリークを拐かしたのではないかと考えているし、メヘレン王国が負けた腹いせに公爵の妹を連れ去った恐れもあると考えている。どちらにしも居なくなった妹を探さなければならないため、シュトルベルク公爵はアルンヘム本島に戻ることはないという連絡が国王の元まで届いたのだが、

「ぐぬぬぬぬぬ」

 額の血管を浮き上がらせた王が真っ赤な顔で唸り声をあげていると、

「あらあら、コルネリス様ったらいったいどうなさったの?」

 と、聖なる巫女であるヘンリエッタが声をかけて来たのだった。


 メヘレン王国との海戦が始まってからというもの、ヘンリエッタは民衆の前で毎日のように戦勝祈願を行っていたのだが、エレスヘデン王国の勝利の知らせが届いて以降、民の前での祈りは三日に一回に減らしている。自由な時間が出来るようになったヘンリエッタは時々、こっそりと王宮まで訪れて王の寵愛を受けているのだった。


 そろそろ公爵が帰国をするという報告を聞いて、聖なる巫女の祭司服を特別に仕立てたヘンリエッタは王宮を訪問したのだが、肝心の公爵がアルメロ本島には戻ってこないという。公爵だけでなく、公爵の指揮下に入る海軍の船は本島ではなく公爵が所有する島の港に帰港をした。これは本島にそっぽを向いたと判断されてもおかしくない行動になる。


「結局、公爵様は国王陛下に挨拶もなく自分の島に戻ってしまったのでしょう?不敬で訴えられてもおかしくない行いをしておりますけれど、このまま放っておいても良いのですか?」

「どうやらベルナールが公爵の妹を連れ出したようなのだ。公爵は自分の妹を探さなければならないため、本島に寄ることは出来ないと言ってきた。ベルナールが絡んでいるだけに我らが強く言い出す訳にもいかないのだよ」


「まあ!まあ!なんてことでしょう!」

 ヘンリエッタはその美しい頬にホロホロと涙をこぼしながら言い出したのだ。

「遂にベルナール殿下は謀反を起こすつもりなのですね」

「はあ?なんだって?」

「ベルナール殿下は陛下に対して謀反を起こすつもりなのです!」

 純白の祭司服の袂で自分の涙を拭いながら、ヘンリエッタは悲嘆も露わに言い出した。

「ベルナール殿下の側近であるブラム・ベイエル様とアリーダ・ブラリュネ子爵令嬢は非常に懇意な間柄であり、ブラム様は大陸の宗教を、アリーダ様はナルヴェ王国の支配をエレスヘデン王国に持ち込もうと企んでいるのです」


 突然の話にコルネリス王が行然と固まると、そんなことには頓着せずにヘンリエッタはどうやったら自分が美しく見えるのかを意識しながら涙ながらに訴える。


「上級神官であるレオン様が教えてくださいましたわ。大陸を追放された女神様が統治するエレスヘデンの宗教をブラム・ベイエル様は塗り替えるつもりだって。大神官様はちっとも当てにならないため、レオン様はわざわざ私に相談に来たのです」


 ヘンリエッタはコルネリスに対していかに健気に見えるのかを意識しながら、唇を震わせて言い出した。

「アリーダ様のお祖父様がいるナルヴェ王国は昔からメヘレン王国の港湾を手中に収めようと企んでおり、そのナルヴェ王国とシュトルベルク公爵が手を組んでいるからこそ、艦隊を率いてやってきたメヘレン王国をあっという間に蹴散らすことが出来たのです」


 ヘンリエッタは悔しげに涙を拭って言い出した。

「ベルナール殿下は最初でこそ私を寵愛してくださいましたが、そのうちに飽きたのか、私のことを見向きもしなくなりました。そんな捨てた女である私が今は陛下に愛されているのです、苦々しい思いになったのは間違いありません。そして、強い危機感をも抱いたに違いありません。だからこそ、殿下はシュトルベルク公爵と手を組むために、わざわざ遠いアルメロ島へと向かったのでしょう」


「では、フレデリークが行方不明だということは・・」

「それは」


 ヘンリエッタが次の言葉を発しようとした時に、侍従の一人が慌てた様子で王の元に駆け寄って、

「ベルナール殿下は現在、行方不明となっているようでございます!」

 と、言い出したのだった。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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