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第五十九話  公爵のため息

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 シュトルベルク公爵がフィルベルトに命を救われたのは七年ほど前のことだった。当時、海賊たちがエレスヘデン王国の外郭の島に目をつけて侵入をしようと企んでいた時のことで、奇襲を受けた公爵があわや海の藻屑となるところだったのをフィルベルトに救われることになったのだ。


 当時、まだ十歳だったフィルベルトは傭兵として船に乗り込んでいたのだが、彼は傭兵団の団長からも一目置かれる存在だった。彼は当時から祖母譲りの魔術師としての卓越した技と、父から教わったという剣の妙技を使いこなしており、

「フィルベルト!やめてくれ!ギャーーーッ!」

 舐めた態度で接してくる大人という大人を血祭りにあげていた。


 血祭りとはまさしく血が飛び散るようなもので、殴る蹴るの暴行を加えるなんていう軽々しい制裁では決してない。彼にナイフを一本持たせればあらゆる皮が剥ぎ取られていくということで、傭兵団の中でも恐怖の象徴のような扱いを受けていた。


 そんな世にも恐ろしい少年が胡乱な眼差しを公爵に向けて、

「貴方は今の王家に対して相当な恨みを持っているの?」

 と、際どいことを問いかけてきた。


 代を重ねるごとに愚かさに拍車がかかるエレスヘデン王家は、女神リールに特別愛された一族なのだ。女神に愛されているからこそ王位に就いているというのに、呆れることに王家は女神信仰を蔑ろにしていた。一時期は大陸の神を信じることを貴族たちに推奨し、女神を信仰する神殿を窮地に追い込むようなことまでやってのけたほどで、女神の愛の上に胡座をかいている状態だと言えるだろう。


 何をやったって決して見捨てられることなどないと信じきっているエレスヘデンの王家は、この世の春を満喫していた。彼らは女神が与える豊かさを当たり前のものだと考え、女神に感謝することも忘れ、女性を蔑ろにするような行為をしても心を痛めることもない。


 挙げ句の果てにはコルネリス王によって公爵は自分の愛する妹を壊された。

 自分の命を助けてくれたフィルベルトは、コルネリス王が溺愛する妾妃のせいで母と妹が死に、父親は王家によって処刑された。


 双方、コルネリス王に対して並々ならぬ恨みを抱えているのは間違いないため、強烈な親近感を感じるようにもなったのだ。


 性質上危ないことこの上ないフィルベルトを神殿騎士として送り込んだのは、ベルナール王子のために巫女候補が集められることになり、再び、王家の身勝手によって何か大きな問題が起きるのではないかと考えたから。


 公爵は平民身分のフィルベルトが巫女候補の専属護衛に抜擢されるとは思いもしなかったし、護衛することになった巫女候補と結婚することになるとは思いもしない。


 そもそも、神殿に潜り込んだ途端にボルスト商会の次期会頭と手を組んで、王家の懐で甘い汁を貪り続けていたカウペルス家とダンメルス家という二大貴族を没落にまで追い込むとは思いもしなかったのだ。


 一体何をやらかすか分からないというのがフィルベルトという男なのだ。巷に流れる噂でヘンリエッタとフィルベルトが恋仲だという話を聞きつけた公爵は、

「絶対にフィルベルトには知らせるな。奴が知ったら戦争どころの騒ぎではなくなるのは目に見えているからな」

 と、厳命を下した。こんな噂を知ったら、船に乗るのもやめてヘンリエッタを殺しに行くに違いないと判断したからだ。


 船に乗る前から妻の姉との浮気話が広まっていたのだが、そんなことを知る由もなくフィルベルトは戦地へと赴くことになったのだが、

「子供がなかなか出来なくて・・」

 最近の彼の悩みは非常に平和なものだった。

 このまま例の噂については知ることもなく、戦争を終わらせて家に帰って妻の誤解を解いて欲しいものだと公爵は切に願い続けることになったのだ。


 万が一にも浮気の噂がフィルベルトの耳に入れば、彼はヘンリエッタ嬢を抹殺しに向かうことになるだろう。ヘンリエッタが聖なる巫女と民衆に崇め奉られているとか、コルネリス王がヘンリエッタを愛するあまり後宮にいる女たちを全員宿下りさせたとか、そんなことは一切気にすることなどないだろう。

「姉が死んだら妻が悲しむだろうか?」

 と、疑問に思うことで少しでも踏み止まってくれたら御の字で、そんな考えにも至らない状態となればそれで終わりだ。


 フィルベルトはヘンリエッタ嬢を殺す。絶対に殺す。間違いなく殺す。それだけフィルベルトという男は常軌を逸した男なのだ。そうなったらフィルベルトの後ろ盾となるシュトルベルク公爵家は窮地に陥ることになり、王家は喜んで公爵家を謀反に問うことになるだろう。


 ファルマの英雄と持て囃されることになったフィルベルトは、本島からやってきた貴族騎士に例の噂を聞かされたようなのだが、考える暇も与えずにリエージュ大陸へと送り込むことには成功をした。周りは好奇心から聖なる巫女との恋物語について尋ねたのだろうが、命知らずにも程がある。


「ああ・・本当に、ようやっとメヘレンの海軍を追い返すことに成功したというのに、次々と問題が浮上するのは何故なんだろう・・おかしい・・本当におかしい・・平穏は何処に行ってしまったんだ」

 甲板の上でぶつぶつ言いながら公爵が頭を抱えていると、そんな公爵を見上げていた艦長が、

「本当に!本当に!おかしいんですよ!海流の変化が異常です!」

 と、興奮気味に言い出したのだった。


「大神官様たちがいつものように神事を行って島の周囲の海流を変化させて頂いたのは十分に理解しているのですが、こんなふうに海が渦を巻くのは異常ですよ!」

「何?渦だって?」


 二十七の郡島が集まるエレスヘデン王国は元々、島々の間を流れる海流の流れが激しく、船乗りには熟練の技が必要になるのだが、この海流の流れを操作する術を神殿が持っているため、他国からの侵略の恐れがある時には公爵家と決めた流れで敵の進行を阻止するように海流を動かしていくことになる。


 女神の力というものは神秘的なものであるのは間違いなく、大神官と巫女の差配によって変わっていく海流を利用して戦うのがシュトルベルク公爵家であり、公爵家と神殿は太い繋がりを昔から持っているのだ。


「あそこを見てください!通常であれば東に流れていく緩やかな海流が左右からぶつかり合う形で渦を巻き始めています。あの渦に巻き込まれないように船を操縦してはいますが、この渦が本島を中心に増えているという報告が届いておりまして」


 敵の艦隊は自国へ戻って行ったため、これ以上、島の周囲の海流を変化させる必要はない。そのことは伝書鳩を利用して大神官に知らせているし、大神官からも了承の連絡は受けている。


「なんでこんなことになっているんだ」

 船縁から海面を覗けば、白い飛沫をあげる渦が三つも四つも発生しており、船の舵を切らせるために船員たちが慌ただしく動いている。

「あり得るとしたら、中央神殿で神官の誰かが見様見真似で神事を勝手に行っているということですが」

「大神官様の目があるというのに、そんな勝手なことを行うと思うか?」


 最近の神殿は貴族出身の神官ばかりが増えているような状態だが、神殿とは女神の意思を尊重する場所でもある。そんな場所で勝手に神事を汚すようなことがあって良いわけがないのだが。


「公爵様!公爵様!」

 器用に渦の間を通り抜けた高速船が旗艦船に横付けにされると、縄梯子を登ってきた急使の一人が、公爵の前で土下座をしながら言い出したのだった。


「公爵様!フレデリーク様が!フレデリーク様がお姿を消してしまわれたようです!」

「なんだって!」

 心を壊したフレデリークはアルメロ島の領主館で養生をし続けていたのだが。

「妹が消えた?」


 仰天した公爵が慌てた様子で問いかけると、急使は公爵の前で跪きながら、

「ベルナール殿下が見舞いと称してアルメロ島までやって来たのです!その後、殿下は船に乗って本島へと帰って行ったのですが、その後にフレデリーク様は居なくなってしまったのです!」

 と、悲壮感たっぷりとなって言い出したため、公爵の口からはそれは長いため息が吐き出されることになったのだった。



過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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