第五十七話 大陸の熱風
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ロッテばあさんの孫であるニロは風の魔術に長けているため、今回の遠征に参加することになったのだが、
「もっと熱風を巻き上げろ!もっと!もっと!もっと!」
という、フィルベルトの無茶な要求に半泣き状態となっていた。
「無理だよ!これ以上風を強くするなんて無理!無理!無理!」
「根性だよ!根性!やろうと思えばいくらでもやれる!」
「出たよ根性論!やろうと思えば出来るとかいらないって!無理なものは無理なんだよ!」
大陸の南方に位置するメヘレン王国と国境を接するナミュール公国という国がある。両国は婚姻政策を続けることで強固な結びつきを持ち続けていたのだが、ナミュールの公王がメヘレンから嫁いだ妃を処分にしたことで、内陸に位置するナルヴェ王国と手を組み、メヘレンを裏切る道を選ぶことになったのだ。メヘレンの港湾を手に入れたいナルヴェ王国はメヘレンの侵略を企んだのだが、
「メヘレンが征服されたら困るから、まずは裏切り者のナミュールを混乱の渦に巻き込んで来て欲しい」
と、甲板の上でシュトルベルク公爵に命令されることになったのだ。
海に残ったメヘレンの残党と公爵が戦っている間に、小型船に乗りかえたフィルベルトはナミュール王国へと向かうことになったのだが、公爵の甥であり、目付け役でもアーノルドは悲鳴に近い声をあげていた。
「なんてことをしているんだよ!今すぐ宮殿を燃やす必要があったのか?って、マジか!マジでやってんのか!おまっ、すげー燃えてんぞ!」
アーノルドは炎に包まれたナミュール宮殿の尖塔が焼けて崩れ落ちていく様をしばらく眺めた後に、
「ああああああ!」
と、雄叫びを上げたのだった。
長年、宝石の島とも呼ばれるエレスヘデン王国を占領したいと企むメヘレンの王は、エレスヘデンを堕とした者に王位を継承させると宣言した。争い続けていた第一王子と第三王子がそれぞれ艦隊を率いて出発することになったのだが、第一王子は海の藻屑となって消え、第三王子は身代金目的でシュトルベルク公爵に捕えられているような状態だ。
メヘレンの第二王子は母親が身分が低いといこともあって後継者争いには参加しないと宣言していたため、国から動くことはなかったのだが、実はこの第二王子、シュトルベルク公爵と手を組んでいる。シュトルベルク公爵は第二王子をメヘレンの王に据えることを約束しているし、第二王子はエレスヘデンを狙う大陸の国々の防波堤になることを約束しているのだった。
豊かなエレスヘデンを狙う国は多く、そんな国々にとって大きな障害になっていたメヘレン王国がうっかり滅びてしまっては困るということで、公爵によってフィルベルトと森の民が大陸まで送り込まれることになったのだが、
「そうは言っても、早く国に帰らないとだろ!」
と、フィルベルトは目を血走らせながら叫んだのだった。最近、義理の姉と自分が恋人関係だという噂を耳にしたフィルベルトは妻の元に帰りたくて仕方がない状態に陥っているのだ。
フィルベルトは爵位だったら努力次第で手に入れられるだろうと考え、自分の妻の姉であるヘンリエッタといくつかの話し合いをした。その時の姿を誰かに見られて誤解をされたのか、知らぬまにフィルベルトは、自分の妻の姉に夢中になっているろくでなしの男だと噂されるようになってしまったのだ。
ベルナール王子に蛇蝎の如く嫌われているフィルベルトが海戦でどれだけ活躍したとしても、出世や陞爵に結びつかないのではないかと考えたのだが、そんな時に、
「そこは私が何とかしてあげるから安心してちょうだい!」
と、ヘンリエッタが言い出した。
ヘンリエッタとアンシェリークの姉妹仲は決して良いものではなく、姉のヘンリエッタは妹を亡き者にしようと暗殺者を送り込んでくるようなイカレタ人間なのは間違いないのだが、
「爵位については私に任せてちょうだい!」
と言っていたし、暗殺者の切断した指で作った腕輪を見て相当怯えていたので、下手なことはしないだろうとフィルベルトは判断することにした。
最初は何の問題もなかったのだ。
平民身分のフィルベルトの活躍など闇の中に葬られるのが関の山だったというのに、ヘンリエッタがいちいち義理の弟の活躍を喧伝するようなことを行った為、フィルベルトは貴族騎士からも英雄と呼ばれるようになったのだ。
戦いへの貢献が隠蔽されることもなく、フィルベルトの戦績がそのまま誰かの手柄になることもない。ここまでは良かった。このまま帰れば間違いなく、フィルベルトはコルネリス王から爵位をもらうことが出来るだろう。
女神のように美しいと言われるヘンリエッタは毎日のように民衆の前で戦勝祈願を行い、ヘンリエッタの祈りがあるからこそ、フィルベルトが鬼神の如き戦いをすることが出来たのだと言われることにも妥協した。
フィルベルトはあくまで義理の弟で、妹の夫を姉が応援するというのはごくごく普通のことだと言えるだろう。ここまでは良かったのだが、そのうちに、フィルベルトとヘンリエッタの秘密の恋とやらが民衆の間で囁かれるようになり、コルネリス王の心中が決して穏やかなものではないと噂されるようになったのだ。
「俺はヘンリエッタ様と恋仲な訳でもなく、義理の弟として少々脅迫まがいのことは姉に対して確かに行ったが、決して愛を囁いたことなど一度としてないのだからな?」
嫁に誤解されることを恐れているフィルベルトは一刻も早くエレスヘデンに帰りたいのだが、彼は妻から浮気者のクソ野郎扱いをされていることを全く知らないのだ。
「伯父上から連絡があったのだが、コルネリス王はヘンリエッタ様を正妃に、お前の妻を妾妃にするために、お前を殺すつもりでいるらしい」
燃え上がり、崩れる宮殿を眺めながらアーノルドが言うと、炎から逃れた奥の宮殿にボッと大きな炎が燃え上がった。
「今すぐの離婚が無理ならお前を殺してしまえば良いという判断らしい。伯父上と大神官様が手を組んでお前の嫁を密かに逃す手筈を進めているし、二人はシュトルベルク公爵家が命をかけてでも守るから、そこまで心配しなくても大丈夫だって」
女神リールに仕える大神官は巫女の意志を尊重する。
アンシェリークがコルネリス王の妾妃になることを望むはずもないから、公爵と手を組んで本島から逃げ出す手筈を整えてくれるに違いないのだが、
「だけど、やっぱり心配過ぎる!おちおち他国の宮殿を燃やしている場合じゃないって!」
自分の妻が心配で心配で仕方がないフィルベルトなのだ。
「ニロ!もっと熱風をよこせ!お前はロッテばあさんの自慢の孫なんだろ!大魔術師の孫なんだからもっと炎を巻き上げろ」
「無理!無理!これが限界だって!もう十分に燃えてる!十分に燃えてるって!」
突然、宮殿が炎に包まれた為、外に飛び出して来た人々が混乱状態になっている。最初でこそ火をつけた不審人物を探している騎士が走り回っていたのだが、今ではそんな余裕もないほどに炎が巻き上がるようにして空を真紅に染めている。
本来なら公爵と共に凱旋帰国をするはずだったフィルベルトは、大陸の南方に位置するナミュール公国で宮殿を燃え上がらせていたのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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