第五十四話 ままならないフィルベルト
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コルネリス王の妾妃アンネリーンが、
「ここでボート遊びをしたいわ!」
と、女神の泉の前で血迷ったことを言い出して、聖なる泉に手を加えて湖に造り変えた。その結果、突貫工事で行われた湖は決壊をして、周辺の村々が呑み込まれることになってしまったのだ。
フィルベルトの母と妹は土砂の下に生き埋めとなり、都合が悪いことは湖が決壊しそうだと宮殿に陳情に訪れたフィルベルトの父の所為ということになり、公開処刑されることになってしまった。
フィルベルトには祖母譲りの魔術師としての才能があったため、処刑処分となる父を助けることが出来ると思っていたのだが、処刑が行われる中央広場には女神の加護が強くかかっている関係で、何の抵抗もすることが出来なかったのだ。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
炎で周囲を焼き尽くすことも出来ないフィルベルトが興奮した民衆に巻き込まれて踏み潰されそうになった時に、
「危ないわよ!こっちに来て!」
フィルベルトの手を掴んで助けてくれたのがアンシェリークだったのだ。
両親や実の姉から疎まれているアンシェリークは、貴族の義務ということで処刑場まで家族と共に来ていたのだが、いつの間にか家族とは逸れてしまったらしいのだが、
「歩いて帰れば良いんだから別に何の問題もないわよ」
と、粗末な外套を頭からかぶった姿でアンシェリークは言い出した。
あっという間に家族を失うことになったフィルベルトと、家族が居ても居ないのも同然のアンシェリーク。
「なあ、良かったら俺と一緒に行かないか?」
そう声をかけたのは自分には魔術の技術があるため、金を稼ぐのに困ることなどないと考えたから。
「いいえ、行かないわ」
あの時のアンシェリークにそう応じられたフィルベルトは、世の中には思う通りにいかないことが結構あるんだなと悟りの境地に至ったような気分を味わうことになったのだった。
金は他人から奪えば良いし、自分を守りたいと思うのなら権力がありそうな人間の命を助けてやれば良い。人を傷つけることも、人を殺すことに対しても罪悪感を持つことがないフィルベルトとしては、祖母譲りの魔術の腕と、父譲りの剣術の腕を使って、大概のことはやり遂げることが出来るという確信を持っていた。
「妻がエトとヘイスという二人の神官に穢された、俺はカウペルス家とダンメルス家を滅ぼしたい」
そんなことをボルスト商会の次期会頭であるエルチェに言われた時にも、
「間違いなく滅ぼすことは出来るだろう」
と、フィルベルトは確信を持って答えることが出来たのだ。
フィルベルトには祖母譲りの魔術の腕があるため、まるで天罰でも降ったように見せかけて二つの邸宅を全焼させることは可能だったから、
「お前の計画に俺を加えるのなら、俺は幾らでも手伝うことが出来るだろう」
と、言って、エルチェから高額の報酬をせしめることに成功したのだった。
シュトルベルク公爵家が後ろ盾になるフィルベルトは簡単に神殿騎士として潜り込むことに成功したのだが、
「ああ・・アンシェリーク、俺が不甲斐ないばっかりに・・」
ほぼ、勢いでアンシェリークと結婚することになって、世の中には思う通りにいかないことが結構あるんだなと、再び悟りに近い境地に達することになったのだった。
新妻となったアンシェリークはフィルベルトの子供を産むことを望んだのだが、子供というものはなかなか思う通りに出来るものでもないらしい。
「南の島には子供が作りやすくなるハーブがあるっていうんだよ。根の部分を乾燥させて煎じて飲むらしいんだが、俺、この戦争が終わったら南の島に行って、そのハーブの根っこを購入しに行って来ようかな・・」
「フィルベルト、お前、ここに来てハーブがどうの、子作りがどうのと言っているんじゃねえよ」
「だけど、このまま帰って、また子供が出来なかったら・・」
「お前、まだ新婚だろ?焦りすぎだって!」
宝石の島とも呼ばれるエレスヘデンを征服したいメヘレンの王は、ナルヴェ王国に背後から狙われているという情報を手に入れた後も、エレスヘデンの征服を諦めることが出来なかった。だからこそ、二人の王子が艦隊を率いて祖国から出発することになったのだが、ファルマの海戦で第一王子の船はあっけなく沈んでしまったのだ。
味方が破れたというのに、そのことに第三王子が歓喜しないわけがない。最大のライバルを失うことになった第三王子は、
「弔い合戦だー!」
と、意気昂然に叫び、すぐさま兄の軍をまとめ上げたのだが、あっという間に小舟で敵の旗艦船に接近したフィルベルトとアルメロ島出身のアーノルドに拉致されてしまったのだ。
夜の闇に紛れた小舟にはロッテばあさんの孫であるニロが乗っており、
「風で音を遮断しているとはいえ、早く移動をした方が良いよ」
と言って、船の移動を開始する。
大陸には風の神や水の神、炎の神や山の神などがいるのだが、その神々の力を僅かばかり貸してもらう形で、特別な力を発揮するのが魔術師と呼ばれる人々になる。
長年の迫害ですっかり魔術師が少なくなった大陸とは違って、エレスヘデン王国の神殿の森には追放された魔術師や亡命してきた魔術師たちが脈々と血を繋いできたこともあって、こういった隠密行動を行うには優れた能力を発揮するのだ。
「早く戦争を終わらせるには、リーダーをさっさと殺した方が良いということはばあちゃんも良く言っていたけど、わざわざ生かしたまま連れて来る必要があったのかな?」
ニロが不安そうに言い出すと、アルメロ島出身のアーノルドが、
「とりあえず殺すか、交渉の材料とするかは伯父様が判断するから良いんだよ」
と、言い出した。
こうして、誘拐された第三王子はシュトルベルク公爵の前に引き出されることになったのだが、
「フィルベルト、ここまでやってもらってなんだが、お前が爵位を得るのは無理かもしれない」
第三王子の首根っこを掴んだままのフィルベルトは、公爵から容赦ない言葉を浴びせられることになったのだ。
「え・・嘘でしょう?」
フィルベルトは妻が望む通りに子供を授けることが出来なかったので、せめて、爵位だけでも彼女に与えてやろうと考えていたのだ。
子供は女神様からの授かり物だというけれど、爵位だったら女神を頼らずに自分の力で得ることが出来るだろう。
だからこそ、船を燃やして、時には敵の戦艦に飛び移って、敵兵を蹴散らして殺しまくりながら、メヘレンの兵士たちを恐怖のどん底に落とすようなこともやってのけたのだ。圧倒的に不利な状況から勝利をしたのは自分の活躍あってこそだと思っているし、駄目押しとなるように、夜陰に紛れてメヘレンの第三王子まで攫ってきたのだ。
「え?本当に爵位は駄目なんですか?駄目押しとして王子まで用意したのに?」
「無理だろうな、何せ王家は英雄となったお前を邪魔に思っているようなのだから」
「えええ!子供も駄目なのに!まさかのまさかで、爵位までも駄目なのか!」
世の中はやっぱり思う通りにいかないのだなと、フィルベルトは再び悟りの境地に至ることになるのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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