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第五十三話  公爵とフィルベルト

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 シュトルベルク公爵家は女神の守人と呼ばれる一族であり、エレスヘデンが王となって島々を統治するようになった後も、国を守る要として存在していた。


 王家には言いたいことが山ほどあるが、メヘレン王国が侵略戦争を仕掛けてくるとなれば最前線で戦うことを命じられても文句ひとつ言わなかったし、周りの貴族たちも、

「シュトルベルク公爵家が戦うのは当たり前のことだろう?」

 という考えでいるのだった。


 武力を誇る公爵家との強い繋がりを作ることで王家の統治を盤石のものにすると言って公爵の妹フレデリークに手を出し、子を孕ませた上で簡単に捨ててしまったコルネリス王。フレデリークの心を壊しておいてよくもまあ、公爵家の忠誠をそこまで信じ切れるものだと呆れ返る思いでいたところ、

「公爵様、今回の戦いでは神殿から森の民を出しましょう」

 と、大神官ヘルマニュスが言い出した。


「女神様は無辜の民が血が流れることを良しとはしません。万が一にも敵の上陸を許すこととなれば、女や子供は奪われ、老人から殺されることとなりましょう」


 今まで王家から蔑ろにされてきた神殿としても、王家に対しては言いたいことは山ほどあるのだろうが、

「人の命以上に大切なものなどないのです」

 と、大神官は言って、今まで神殿を守るために存在した森の民をシュトルベルク公爵に預けたのだった。


 エレスヘデンの二十七ある島の中で、女神の加護が強い場所ほど大陸の魔術師の力が使えない。神殿の裏に広がる広大な森は特に加護の力が強いため、強力な魔術師の流刑地として長年利用され続けて来たのだが、後に異端の力とされることになった魔術師の力が大陸では迫害の対象となり、特別な力を持つ彼らは大陸を離れてエレスヘデンへ亡命するようになったのだ。


 特に力が強い者は神殿の森に集められ、教会の庇護を受ける代わりに女神の神殿を守ることを約束させられた。そうして長い年月が経過するうちに、大陸にはまともな魔術師がいなくなり、女神の島ではより強い魔術師が育てられることになったのだった。


 森で育てられたわけではないけれど、祖母が大陸の魔術師だったフィルベルトは魔術のセンスが一際優れた男だったのだ。コルネリス王は王家に背を向けたシュトルベルク公爵家の戦力を削ることを企んでいたのだろうが、フィルベルトの活躍によって公爵家の戦力はそれほど損耗せずに済むことになったのだ。


「フィルベルト、お前、本当に爵位を持つつもりでいるのか?」


 甲板の上を大股で歩いていたシュトルベルク公爵がふと足を止めてフィルベルトに声をかけると、

「ええ、もちろん。妻は元々貴族の女ですし、妻の地位を取り戻した方が良いのだと彼女の姉も言っています。俺自身も妻に肩身の狭い思いはさせたくないので、帰国後、可能であれば男爵位でも子爵位でも喜んで貰うつもりです」

 と、メヘレン王国の第三王子の首根っこを掴んだままの姿勢でフィルベルトは言い出した。


 溢れかえるほどの宝石が泉のように湧き出る夢の島。

 そんな風に大陸人からは思われているエレスヘデン王国を侵略して植民地としたいと考える大陸の国は多いのだが、メヘレン王国の思いは妄執の域にまで達していると言えるだろう。


 メヘレンの王には三人の息子が居るのだが、第一王子と第三王子が後継者争いを激化させているのは有名な話で、母親の身分が低い第二王子は完全に蚊帳の外の状態となっていた。


 亡命をしてきたエレスヘデンの貴族から貴重な情報を手に入れたメヘレンの王は息子たちに対して、

「エレスヘデンを手に入れたものに王位を継承させる!」

 と、言い出した。第一王子と第三王子はそれぞれ艦隊を率いて出発することになったのだが、自国に残った第二王子と公爵は密かに連絡を取り合い、第一王子と第三王子を密かに海に沈めてやると宣言。


 頭のおかしいメヘレンの王はさっさと殺して、背後から狙うナルヴェ王国に備えろと第二王子に忠告をしたのだが、

『そんなことを言っている暇があったら、まずは自分の国の王を廃するべきではないのか?』

 という返答が返ってきたのだった。


 シュトルベルク公爵だって、メヘレンの王と同じくらい、いや、それ以上に自分の国の王の頭がいかれていることには気が付いている。シュトルベルク公爵家の戦力を削るために敵国にわざわざ情報を売るように仕向けた上で、戦争に勝利した暁にはメヘレンから賠償金をせしめて、枯渇した宝石や真珠の損失分に当てようと考えているのだから呆れてしまう。


 公爵家の戦力を削り取るつもりのくせに、自国が勝利することを疑わない。エレスヘデン王国が女神に愛されているからと信じきり、国民を守ろうとする神殿と女神の守人である公爵家がいくら王家を嫌悪しても、島に住み暮らす民のために裏切ることはないと確信しきっているのだ。


「お前が言い出した時には絶対に不可能だと思ったが、まんまと第三王子を誘拐することに成功したか」

「そりゃもう、元貴族の妻のためには絶対に爵位を貰わなくてはならないので」

「はあー〜―」


 第三王子の首根っこを掴んだままのフィルベルトを見下ろして、公爵は長い長いため息を吐き出した。


 ファルマの海戦で第一王子が乗る船を完全に沈めることが出来たため、メヘレンの第一王子は海の藻屑となったのは間違いない。共闘を申し出ながら漁夫の利を得ようと企んでいた第三王子は第一王子の死に歓喜したに違いない。


 即座に戦列を組み直し、エレスヘデンの海軍(公爵家の海軍)を叩き潰そうとしたのだろうが、夜の闇に紛れて敵戦艦への侵入を果たしたフィルベルトがまんまと敵の大将の誘拐に成功。


 そうして現在、旗艦船の甲板で第三王子の首根っこを掴んで今殺すのか、交渉の材料とするのかの判断を公爵に仰ごうとしている。そこで公爵は一人、頭を抱えていたのだった。


「フィルベルト、ここまでやってもらってなんだが、お前が爵位を得るのは無理かもしれない」

「え?こうやって敵の大将だって捕まえて来たというのに駄目なんですか?」

「お前は英雄すぎるほどに活躍しているし、そのことに異論を唱える者は居ないだろう」

「じゃあ、なんで駄目なんですか?別に公爵にしてくれって言っているわけじゃないんです、爵位なら何だって良いんですよ?」


 フィルベルトは他人に一切の興味を持たないような男だ。そんなフィルベルトがシュトルベルク公爵に僅かながらに興味を持ったのも、自分と同じように王家に対して物凄い恨みを持っていたから。


 母と妹、そして親族たちの死を招くきっかけとなり、更には自分の父親を冤罪で捕まえて公開処刑とした王家に対して、共に恨みを晴らそうということで手を組んだのだが、そんなフィルベルトの頭の中は、現在、妻のことでいっぱいになっているような状態なのだ。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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