第五十二話 ベルナール王子と側近
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ベルナール王子は未だかつてない危機に直面していた。
無理に艦隊を率いてメヘレン王国の海軍とぶつかり合いをしたわけでもなく、敵の船と接触したわけでもない。国王陛下はシュトルベルク公爵家の戦力を削り取るために前線を任せる形にすると言っていたし、
「殿下はお世継ぎなのですから」
「殿下にもしものことがあれば大変ですからな」
と、将軍たちも言い出すものだから、皆の意見に従って戦っていないだけなのだ。
「嘘だろう?私を王太子から外すだって?父上は何をとち狂ったことを言っているんだ?」
「ですが、本島へ届くのは英雄フィルベルトの戦勝報告ばかりであり、殿下が活躍した話は一つたりとも届かないので、コルネリス王も殿下に対して見切りをつけることになったのかもしれません」
「ブラム・ベイエル!不敬だぞ!」
「ですが殿下、本当に活躍一つしていないのだから仕方がないではありませんか」
王宮に戻っていたベルナールの側近であるブラムは、胸ポケットから一通の封書を取り出した。
「シルヴィア様からの密書です。陛下は一時的に後宮を閉鎖することを決定され、シルヴィア様自身も生家となる伯爵家へとお戻りになっております。カウペウルス家とダンメルス家が健在であればまだ抵抗もできたのでしょうが、女神様の啓示により後宮を閉めると言われれば、成す術もなかったようでございます」
「父上は私や母上を捨てて、ヘンリエッタを正妃として迎え入れるつもりでいるだと?」
母からの手紙に目を通したベルナールは、思わず自分の唇を血が出るほどに噛み締めた。
ベルナールのために神殿には巫女候補となる令嬢たちが集められ、女神の化身と言われるほどに美しいヘンリエッタこそが正妃となるべき巫女だろうという意見は多かった。ベルナール自身もヘンリエッタを好んでベッドに呼んでいたのだが、まさかあの売女が国王に手を出すことになるとは思いもしない。
嫌悪感だけが先に立ってヘンリエッタのことはそのまま放置し続けていたのだが、まさか、父王はヘンリエッタを正妃として迎え入れることを考えるようになるなんて・・
「父上は、正妃の座は巫女アルベルティナのものなのだと豪語されていたではないか!」
あれほど溺愛していた妾妃アンネリーンが正妃の座を求めた時でさえ、首を縦に振るようなことはしなかったのだ。正妃の座は死んだアルベルティナの物だからこそ、どれだけ愛妾を抱えたとしても、ベルナールを産んだ母シルヴィアの地位は盤石だったのだ。
「母上を正妃にするのならまだしも、ヘンリエッタを正妃にするだって?」
「シルヴィア様はご自身が巫女候補だった時に、自らの意思で辞退をしております」
「まさか、ヘンリエッタに巫女になる見込みがあるから、自分の正妃にするということか?」
「本島ではヘンリエッタ様こそが聖なる巫女であると讃えられているのですよ」
「はあああ?」
「本島には連日のように戦勝報告が届けられているのですが、戦勝祈願をし続けるヘンリエッタ様のお力が後押しとなってこそだと民は騒いでいるのです。しかも、国王陛下は中央神殿にお渡りとなって、ヘンリエッタ様と共に民衆の前で祈りを捧げているのです」
メヘレン王国の第一王子と第三王子がそれぞれ艦隊を率いて出発し、シュトルベルク公爵軍を挟撃にかけようとして大規模な戦闘が起こしたのだが、後にファルマの海戦と呼ばれるこの戦いで、圧倒的な劣勢の中で戦うことになった公爵軍は敵の大破に成功をした。
ファルマ海戦の英雄フィルベルト、平民出身の彼は過去にシュトルベルク公爵の命を救ったことがあり、以降、公爵家が後ろ盾となる異端。大陸の血を引く彼は祖母譲りの魔術の腕と圧倒的な戦闘スキルによって、鬼神の如き活躍をすることになったのだ。
「英雄フィルベルトに女神の加護を与えているのが、彼の義理の姉となるヘンリエッタ様なのだと実しやかに民衆の間で囁かれているのです」
馬鹿みたいに敵を屠り続け、船を沈め続けている狂人は、ヘンリエッタの妹アンシェリークと結婚の誓いを行った。まさかそのフィルベルトがヘンリエッタに利用されることになるとは思いもしなかったベルナールは、ワイングラスを船室の床に叩きつけた。
「クソッ!森の中に居る間に死んでしまえば良かったんだ!何故!誰もあいつを殺せないんだ!奴を殺せるのなら金に糸目はつけないと言っているではないか!」
「お怒りになる気持ちは良く分かります。ですが今は狂人を気にかけている場合ではございません、早急にベルナール様ご自身が、狂人を追い抜くほどの活躍をする必要があるのです」
「はあ?俺が狂人を追い抜くほど活躍するだって?まさか、俺に英雄になれと言っているのではないよな?」
今現在、コルネリス王がベルナールを見限ろうとしているのなら、父王が無視出来ないほどの活躍をベルナールが見せれば良いのだろう。国民が湧いて踊るような勇姿を見せつければ、自分は王太子としての地位を追われることにはならないだろうが・・
「私はあの狂人みたいに切断した指を連ねて輪っかにしたり、耳を連ねたネックレスなど作りたくもない。人だってなるべく殺したくもないし、平和に穏便に過ごしていきたいんだよ」
ベルナールは大きなため息を吐き出した。
「しかも、ファルマの海戦で敗北を喫したメヘレン王国軍は母国へ引き返そうとしているらしいではないか?何でも、ナルヴェ王国がナミュール王国の王妃を廃妃にすることに成功したとかなんとかで?メヘレンとの戦いは収束に向かうだろうと報告を受けたばかりではないか」
敵軍が去ろうとしている今、どうやって英雄になろうと言うのか?
うんざりした様子でベルナールが側近を見上げると、ブラム・ベイエルは意地の悪そうな笑みを浮かべながら言い出した。
「実は、アリーダ・ブラリュネ様から面白い話を仕入れることが出来たのです」
「なんだ?アリーダ・ブラリュネだって?」
ブラリュネ子爵家の令嬢アリーダは大陸人の母を持つため、エキゾチックな容姿をした美しい令嬢だった。ベルナールに組み敷かれた時には嬉しそうに鳴いていたというのに、ベルナールが何かの薬を盛られたのではないかと思うほどの暴力的な行為だったと言い出した、頭のおかしい女なのだ。
「私が薬の所為で子爵令嬢に暴力的な行為に及んだと、堂々と宣言したような女だろう?そのいかれた女がなんだというのだ?」
「アリーダ嬢が言うには、自分ならファルマ海戦の英雄を殺せるというのです」
「なんだって?」
「英雄はシュトルベルク公爵の懐に入っているような状態のため、我々は今まで手をこまねいて来たわけですが・・」
ブラム・ベイエルがコソコソと囁くと、ベルナールは何度も頷きながら最後には大笑いをして、
「なるほど、何も心を動かすのは公爵自身でなくても良いということか!」
自分の膝を叩きながら機嫌よく言い出した。
「しかも、アリーダ嬢が私の閨事が非常に暴力的だと言い出したのも、ヘンリエッタを私から遠ざけるための方便だったと。私の行為は天にも昇ような最高のものだったと言っているのか!」
女好きな王子は今まで何人もの女を抱いてきたが、アリーダに暴力的で下手くそだったと想像出来るような発言をされたことで、王子は王子なりにかなり気にしていたのだが、
「確かにヘンリエッタがあれほど狡猾な女だとは私も分からなかったのだから、アリーダ嬢はなかなか見る目があるということかもしれないな」
と、ベルナール王子にとって嫌悪の対象だった令嬢は、くるりと評価を変えることに成功した。
「それでは、海の英雄とやらは陸に上がる前に殺してしまって」
「ええ、そうして英雄の死を招いたのは偽物の巫女ヘンリエッタの責任とすれば、民の心も即座に離れることになりましょう」
そこまで上手くことを運ぶには、今すぐ自分自身が動かなければならないわけで、
「今すぐ船をアルメロ島に向け出発させろ」
船室から飛び出した王子は、船橋に向かってすぐさま命令を飛ばしたのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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