第五十一話 女神の差配
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エレスヘデン王家を太陽とするのなら、シュトルベルク公爵家は月と比喩されることが多いのは、王家の人間に太陽を溶かし込んだような金色の髪が多いのと同じように、公爵家の人間には月光を溶かし込んだような銀色の髪が多いから。
現公爵の妹であるフレデリークは月光の神の化身と呼ばれるほどに美しい令嬢であり、当時、コルネリスは一目で彼女のことを気に入ってしまったのだが、
「殿下、今日はエレスヘデンの歴史について学んだのですが・・」
「殿下、大陸との交易についてどのようにお考えですか?私はこの前、父と話していて・・」
成長するに従い、彼女の賢しらな会話を聞いていくうちに嫌気が差してしまったのだ。
弟たちがなかなか生まれることがなかったこともあり、たった一人の王太子として甘やかされて育つことになったコルネリスは、フレデリークとの会話で劣等感を刺激されながらも、なかなか彼女を手放そうとはしなかった。
フレデリークは王家に次ぐ勢いがある公爵家の令嬢であるし、自分の治世を盤石なものとするには公爵家と強固な結びつきが絶対に必要だと考えていたから。島国を統治する王として大陸の国々と渡り合っていくためにも、国内で争っている場合ではないと考えていたのだが、周りの側近はそんな都合など気にせずにコルネリスの耳元で囁いた。
「殿下、そんなことを言っていても女神様は決してお許しにはなりませんよ」
「そうですよ。結局、殿下が結婚するのは女神様がお決めになった巫女様なのですから、たとえ公爵家の令嬢だったとしても選ばれなければ精々が側妃止まりです」
五代前の王の時代より、大陸式の身分制度を王国に取り入れたところ、女神の加護が目に見えて少なくなるという現象が起こることになったのだ。以降、エレスヘデンの王太子は女神の加護を持つ巫女と結婚をすることが決められた。
王太子が伴侶を決める際には巫女候補が神殿に集められ、その中から王子が巫女を見つけなければならないという。その巫女候補の中にはもちろん公爵令嬢であるフレデリークも加わることになるのだが、
「フレデリーク様が巫女になるかはわからないではないですか?」
と、側近たちは言うのだった。
今のエレスヘデンで一番の後ろ盾を持つ、令嬢の中でも一番の美しさを誇るのはフレデリークなのだ。頭が良さそうな発言は気に触るものの、コルネリスはフレデリークを捨てるつもりはさらさらなかったし、自分は絶対にフレデリークを伴侶にするという覚悟の元で、彼女の体を無理やり暴くようなことも行った。
神殿で巫女候補たちが集められ、巫女としての神事の手伝いが始まる頃にフレデリークの妊娠は発覚することになったのだが、その時にはすでに、コルネリスは本物の巫女を見つけていた。
自分の治世を盤石なものとするために、島国の王として大陸の国々と渡り合っていくために、美しいフレデリークとの結婚は絶対に必要なものだと分かっていたけれど、コルネリスは子爵令嬢であるアルベルティナに夢中になってしまったのだ。
王太子は巫女と結婚しなければないとされても、王子の伴侶となっても問題がない令嬢を集められている時点で巫女選びは形骸化してしまったに違いない。だからこそ、コルネリスはフレデリークを妊娠させてまで身近に置き続けて、自分の妃にしようと考えていたのだが、その思いはあっという間に霧散をして、コルネリスは巫女アルベルティナに夢中になってしまったのだ。
そんなコルネリスの姿を見てフレデリークはさぞや失望しただろう。そうして、アルベルティナに対して激しく嫉妬したことだろう。腹に子を孕む母の悪意は鋭い刃となってアルベルティナを襲い、コルネリスが愛するアルベルティナは一時期、生死を彷徨うことにもなったのだ。
そんな時、
「アルベルティナ様の安全を図るためにも、フレデリーク様は神殿から追放させておしまいなさい」
巫女候補をすでに辞退している伯爵令嬢が、コルネリスの耳元で囁いた。
「巫女が決まるまでは、私のように辞退をしても神殿に居残らなければならないのですが、同じ神殿の管轄内、遠い島にある神殿に送り込んで隔離するということは可能なのです。何処の男の子供を孕んでいるかも分からない女をこれ以上、側近くに置いておく必要もないでしょう?」
後にベルナールの母となる伯爵令嬢に唆されたコルネリスは、我が子を身籠るフレデリークをアルメロの島にある修道院に送りこもうとした。アルメロ島はフレデリークの姉が嫁いだ島でもあるため、慈悲を授けたつもりだったのだが・・
「殿下、フレデリーク様なのですが、アルメロまで船で移動中に体調を崩され、子は流れてしまったそうです」
という侍従からの言葉を聞いて、冷や汗が背中から流れ落ちた。
「しかも、子が流れたことでフレデリーク様のお心は壊れておしまいになりました。このことでシュトルベルク公爵家は抗議をしており、王家との絶縁も示唆されております」
その日から、シュトルベルク公爵家はコルネリスに対して激しい憎悪を燃やすようになったのだ。シュトルベルク公爵家の令嬢フレデリークの心を壊してまで正妃として迎え入れた巫女アルベルティナは、常に心休まる暇もなく、挙句の果てには毒で死んだ。
「おそらくシュトルベルク公爵家に殺されたのでしょう」
と、言い出したのも、後にベルナールの母となる伯爵令嬢だったのだ。
「王家を恨むシュトルベルク公爵家が何をするか分かったものではありません。もしかしたら私の命も狙われるかもしれません!このお腹の中に居る命のことを知れば、公爵家はただでは置かないでしょう」
コルネリスの勝手な行いが原因で、シュトルベルク公爵家は決して消えることのない憎悪の炎を燃やし続けている。伯爵令嬢の腹の中に居るのがコルネリスの子供であると知れば、どんな手を使っても殺すのに違いない。だからこそ、コルネリスは伯爵令嬢を側妃として迎え入れた。
ベルナールの母を側妃とした後は、何人も側妃や妾妃を抱え込んだ。正妃の座はあけたままで置いたが、そろそろその座に妃を置いても良いかも知れない。
神殿から宮殿へ帰宅したコルネリス王は、しばらくの間は足を踏み入れることがなかった後宮へと出向くと、ベルナール王子の産みの母である側妃シルヴィアを呼び出して命じたのだった。
「後宮にいる側妃や妾妃のその全てを一度、宮から下げることとする。そうして、このような時だからこそ正妃を正式に迎えることにしよう」
シルヴィアのその時の喜びようといったらなかった。王太子はベルナールで決定しているし、自分が国母となるのは決まったようなものだが、側妃と正妃では立場に雲泥の差があるのだ。
「それでは遂に私を正妃としてくださるのですね?」
「巫女候補を辞退した時点で貴様が正妃となる道は断たれているではないか?」
シルヴィアは狡猾な女だった。
子爵令嬢であるアルベルティナがコルネリスから溺愛をされれば、公爵令嬢であるフレデリークが仕掛けたように見せかけながら徹底的に虐めを行い、自分は早々に巫女候補の座を辞退することで容疑者となることから免れた。
そうして、傷心のフレデリークが船で移動をするように計らい、船上で腹の中の子が流れるように仕向けたうえで、正妃となったアルベルティナを心神耗弱状態にしながら毒殺し、毒を盛った黒幕はシュトルベルク公爵のようだと示唆をした。
正妃が毒で殺されても、子が流れた上に心まで壊れたフレデリークを慮り、公爵家に大きな罪悪感を抱いているコルネリスがこれ以上深追いしないように仕向けたのがシルヴィアなのだ。
「正妃として聖なる巫女ヘンリエッタを迎え、ベルナールは王太子から外すことにする」
「な・・何故?何故ですか?」
「何故かと問うか?」
狡猾なシルヴィアが驚愕をあらわにする姿を針で刺すような眼差しとなって見下ろしたコルネリス王は言い出した。
「我が国がメヘレンとの戦争を始めている中、ベルナールは後陣に引っ込んだまま動こうともしないではないか?国も守れない王子に国王になる資格があるとは到底思えないし、今、国民が誰を一番に求めていると思う?戦を勝利へと導く女神の巫女ヘンリエッタはベルナール以上に価値があるみたいだぞ?」
「そんな・・そんな!あの娘は巫女などではありません!陛下!どうぞ正気に戻ってくださいませ!」
「ハハハ、私は至って正気だよ。私の気に入る女に毒を盛ってまわり続けるお前よりか遥かに正気だと言えるだろう」
「陛下!お待ちください!陛下!」
神殿に通い、ヘンリエッタを抱きながら王はどうすれば自分に都合が良いかと考えに考えていたのだ。側近が他国と通じているベルナールをエレスヘデンの王太子から外すとして、それでは次に誰を王太子にしようかと考えた時に、
「新しく作れば良いのではないのか・・」
と、思い付いたのだ。本来、エレスヘデンの王は女神に選ばれた巫女を正妃として迎え入れるのだが、人々から聖なる巫女として敬われるヘンリエッタを自分が迎え入れたら良いのではないのかと。
背中に側妃の絶叫を聞きながら、コルネリスは機嫌よく鼻歌を歌い出す。後宮の女どもが姦しくうるさいと言うのなら、叩き出してしまえば良いのだ。何か都合が悪いことでも生じれば、全ては女神様の差配とやらで言い訳は成り立つことになるだろう。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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