第五十話 エレスヘデンの王
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エレスヘデンの王コルネリスは若くて美しい女性が大好きだ。
ここ数年は妾妃アンネリーンを溺愛し、彼女の望みは何でも叶えて来たのだが、大神官の破門宣言によって家が没落することになり、王はお気に入りの妾妃を手放すことになってしまったのだ。
その結果、後宮の勢力図が大きく変わることになり、コルネリス王の癒しの場所は、より大きな権力を求める姦しい女たちによって殺伐とした空間に変貌することになったのだ。
側妃が産んだベルナール王子が王太子として決まってはいたものの、ベルナールの後ろ盾となっていたカウペルスとダンメルスが消えたお陰で、盤石だと思われた彼の立場も大きく揺らぎ始めてしまった。
国を出ることになったとはいえ、ベルナールが王位を継承するための手伝いが出来れば、カウペルス家とダンメルス家は大手を振って祖国に帰ることが出来るだろう。忠臣だった両家をコルネリス王は見捨てるつもりもなく、人を使ってメヘレン王国への亡命を勧めたのも、いつまでもエレスヘデンに固執するメヘレンに一撃を与えるための作戦の一つだったのだ。
「まさか、ベルナールの最側近となるブラム・ベイエルが大陸の神にそこまで傾倒しているとは思いもしなかったのだ。そのブラム・ベイエルがアリーダ・ブラリュネと手を組んでナルヴェ王国に利する形で動こうとしているとは・・はあ・・これではベルナールが即位をする道が断たれることになってしまうぞ」
「まあ!まあ!」
コルネリス王の腕の中で甘えた声をあげていたヘンリエッタは、王の胸に頬擦りをしながらはしゃいだように声をあげた。
「我が国を付け狙うメヘレン王国には密使をお送りになって、ナルヴェ王国が背後から狙っているのだとお教えになったのでしょう?であるのなら、メヘレンもエレスヘデンに目を向けている場合ではなくなると思うのですけれど?」
「残念ながらメヘレンでは王位の継承争いが佳境となっている。メヘレンの王はエレスヘデンを落とした者にこそ王位を授けてやると豪語しているようなのだ」
「エレスヘデンと戦っている間に、自国の領土を征服されてしまうかもしれないのに?メヘレンの王は自分の国などいらないものと考えているのでしょうか?」
「そこは周辺諸国との話し合いが済んでいるのかもしれないな。大陸人は、採掘済みの宝石が山ほどエレスヘデンに貯蔵されていると思い込んでいるから、その宝石を山分けにするのを条件として取り入れているのかもしれないな」
コルネリス王は敵の海軍など蹴散らす自信があるし、エレスヘデンが占領されることはないという確信を持っている。
だからこそ、のこのこ海に出て来たメヘレンを打ち倒して戦争の賠償金をせしめるつもりでいたのだが、肝心のメヘレン王国がナルヴェ王国に落とされてしまえば賠償金の要求など出来なくなってしまう。
「メヘレン王国など滅びてしまえば良いではないですか」
ヘンリエッタはくすくすと笑いながら言い出した。
「我が国の海軍が負けることはないと言ったのはコルネリス様ですわよね?」
「ああ、我が国の海軍が負けるわけがない。何しろ、我が国には女神リールの加護がついているからな」
「私もコルネリス様の御代が盤石なまま続くことを、毎日、女神様にお祈りしておりますのよ?」
「巫女たるヘンリエッタが祈ってくれているのなら何の問題もないだろう」
コルネリス王はそう言ってヘンリエッタを組み敷きながら、執拗な愛撫を彼女に与え続けたのだった。ヘンリエッタは女神リールのように美しい。彼女の両親であるシャリエール夫妻も、ヘンリエッタこそが女神の加護を持つ巫女であると信じ切っていた。
だがしかし、シャリエール伯爵家の令嬢ヘンリエッタは女神の加護を与えられた巫女ではない。ただ、ただ、輝くばかりの容姿に生まれただけの野心ばかりが大きい普通の女だということをコルネリス王は知っている。
そのヘンリエッタに何故、コルネリス王が手を出したのかと言えば、後宮の女の争いに辟易としていたからに他ならない。ここ数年、コルネリス王の心を癒やし続けた妾妃アンネリーンを手放したから、アンネリーンの代用品としてヘンリエッタに手を付けただけのことなのだが、戦争となれば有効的に使える容姿と立場をヘンリエッタは持っている。
「ああ・・コルネリス様・・我が王よ・・愛しています・・愛しています」
甘え声で愛を囁くヘンリエッタは、コルネリスから子を授かることを望んでいるのは間違いない。愚直な護衛騎士を常に身近に置いて、今のこの時期にコルネリス以外に誰もヘンリエッタと褥を共にしていない証明を作ろうとしているのだ。
戦勝祈願のためにヘンリエッタは毎日、神殿に足を運んで民と共に女神に祈りを捧げているのだが、こうやって時間がある時にはコルネリスもヘンリエッタと共に祈りを捧げるようにしている。
ヘンリエッタは女神の化身と言われるほどに美しい容姿をしているため、エレスヘデンの危機だからこそ女神が遣わした巫女だという噂をばら撒けば、愚かな民はすぐさまその噂を信じ切ってしまうのだ。
もちろん、ヘンリエッタが偽物の巫女であろうが、女神に愛されるエレスヘデンが他国から侵略されるようなことはない。
女神への正式な祈りは奥の聖域で行われるものであり、そこでは大神官と七人の上級神官が特別な祈りを捧げ、二十七ある島の周辺の海流を変化させるため、敵に打撃を与えるために祈りの言葉を捧げていることだろう。
もし、その祈りの場に巫女候補の一人が招かれていたならば、その令嬢こそが女神が自ら選んだ巫女ということになるのだろうが、正直に言って、コルネリス王は本物の巫女というものに興味が湧くことがない。
かつては自分の子を身籠った女を捨てて、本物の巫女とやらと結婚までしたのだが、何か特別な恩恵が起こるわけでもなく、無駄に時間を費やすだけのことだった。確かにこの世には女神が遣わす巫女とやらがいるかもしれないが、コルネリス王は自分の望む通りに巫女というものは作り出せることを知っている。
平民たちは、毎日自分たちの前に現れて祈りを捧げるヘンリエッタこそが女神が愛する聖なる巫女であると信じ切っている。その聖なる巫女ヘンリエッタがコルネリスの子を身籠もれば、ベルナール王子を廃してその子を次代の王としても良い。そうなった時には後宮の姦しい女どもはどんな顔をするだろうか?
「クックックッ」
エレスヘデン王家は神殿を蔑ろにしてきたが、結局神殿は、王家を見捨てることなど出来ないし、無辜の民が血を流すことも許容できない。
確かに女神の怒りで宝石や真珠は採れなくなったが、王宮の地下には今まで採掘した宝石が山のように溜め込まれている。コルネリス王の御代では財政で困ることなどないのだ。
だからこそ、たとえメヘレン王国がナルヴェ王国に侵略されて、最終的に賠償金をせしめることが出来なくても周りの貴族たちが困るだけで、宝石を溜め込んでいるコルネリス王は痛くも痒くもないのだ。
「メヘレンは海軍を引く気はないようだし、シュトルベルク公爵家の海軍の損耗が大きくなればそれで奴の戦力を減らすことに繋がるのだし・・」
コルネリス王はシュトルベルク公爵家に恨まれているのは十分に承知していることなので、ここで一気に公爵家の戦力を削り取れるところまで削り取ろうと考えているのだった。
過去編となりまして、登場人物が多くなってきましたので人物紹介を載せています!誰、それ?となりましたら見ていただけましたら幸いです!
裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!!
もし宜しければ
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