第四十八話 浮気夫の対処方法
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思えば私ときたら、誰かにきちんと面倒をみてもらったことがないのかもしれない。三歳の時に乳母がクビになって以降、誰かが専属で私の面倒をみるなんてこともなかったし、伯爵夫妻が関心を持たない子供に気を遣ったところで、使用人たちにとっては何の得にもならないものね。
世界は姉のヘンリエッタを中心に回っていて、私はその一番外側をコロコロと転がる小石みたいなものかしら。どうでも良いような存在で、いつ無くなったってどうでも良い存在。価値のない私の中身は空っぽで、姉のヘンリエッタは私の中身が増えることを絶対に許さないような人だった。
だからこそ、姉は私の夫であるフィルベルトに手を出したのよ。女神の化身と言われる姉であれば簡単に奪えるものだとは思うけれど、まさか、私の夫だからという理由で平民騎士にまで手を伸ばすとは思いもしなかったわ。
世の中の多くの女性が浮気を経験しているとは思うのだけれど、相手の浮気を渋々許せる女性と、一度の浮気でも絶対に許せない女性に分かれると私は思うのよね。シャリエール伯爵家の使用人たちも言っていたもの。
「私は浮気されたら絶対に許せない〜、二度と信用できないもの〜別れる!別れる〜!」
「私も一度でも浮気されたら無理、即別れる!」
「でもね、とっても良い人だし、本当に好きなのは私だって言ってくれたしね?魔が差したって本人も言っているし!」
「彼はちょっと間違えちゃっただけなのよ、私のことが本当に好きって言っているし、私は彼のことを信じることにするわ!」
ええ〜っと、私だったらどうするのかな?私の場合はお姉様が奪っていくような形になるのだから、許すとか許さないとか、そんな発想は必要ないのかもしれないわよね。
本当はさっさと離婚をしてフィルベルトを解放してあげたいのだけれど、結婚した夫婦は一年間、離婚出来ないとされている。ベルナール王子から逃れたい私としては殿下が結婚するまでは既婚者扱いの方が都合が良いのは確かなのよ。
そもそも、お互いに好き合って結婚したわけでなし。ベルナール王子から逃れるためにこちらの都合で結婚に踏み切らせてしまったのだから、姉との交際をどうのこうのと言える身分ではないのよね。
「アン様よ、夫が逢引きしている現場に出会したというのなら、なんでその場に踏み込まなかったんだね?」
「辛かったらうちに来ても良いのよ?」
「嫌なことがあったらいつでもうちに来い!」
と、ロッテばあさんと娘さんは言ってくれるのだけれど、そんな理由で大神官様が用意してくれた一軒家を出て行くのも違うんじゃないかなと思うのよね。
「そもそも、無理やりこちらの都合に付き合わせる形で結婚して貰っているので、何か文句を言える立場でもないと思うのです」
普通の新婚夫婦だったら夫の不倫に激怒して家を出て行くこともあるとは思うのだけれど、うちの場合は普通とは違うからな〜。
「とにかく、期限付きの結婚生活なので、お互いに無理せず、干渉せずにいければそれで良いのではないかしら?」
ある程度の距離を取って、お互いを尊重しながら生活が出来ればそれで良いんじゃないのかしら?結婚生活は思いの外楽しくて、空っぽだった自分に何かよくわからないものが満たされていくような感覚を覚えたのだけれど、あれが愛情というものだったのかしら?親からも愛情を貰ったことがない私は、その感情がどういったものかも分からないのだけれど、短い期間だけでも、普通の『家族』みたいなものを経験出来たのは良かったのかもしれない。
ベルナール王子から逃れるために子供が欲しいと思った時もあったのだけれど、私にとってはすぎた望みだということが分かっただけでも良かったわ。
悲しくなると抱きしめてくれる腕も、頭や背中を撫でてくれる大きな手も、私には贅沢過ぎるものなのよ。責任を感じてわざわざ森の家に帰って来るフィルベルトに対して申し訳なさが先に立って、距離を取るようにしている時に、
「アンシェリーク様、戦争が本格化するので、森の家から神殿の方まで戻って来ましょうか」
と、大神官様が言い出したの。
最近、没落することになったカウペルス家とダンメルス家がメヘレン王国に亡命をして、エレスヘデンの軍備の情報を売り渡したということで、メヘレンは我が国に宣戦布告をして来たというの。
「実はわしの息子たちも戦いに出ることになっているんだ」
ロッテばあさんが言うには、今回の戦いを有利に進めるために、大神官様が森の民の協力を仰ぐことにしたみたいなの。
もちろん、神殿騎士であるフィルベルトも前線に出ることになったみたいなのだけれど、
「敵の海軍と本格的な戦闘が始まるし、しばらくの間は帰って来ることも出来ないけれど、きちんとご飯を食べて、あまり心配せずに、心豊かに過ごして欲しい」
と、フィルベルトは言ってくれたの。こんな時に、私の生活の心配をしてくれるだなんて!私なんか放置して姉のところにすぐさま行きたいでしょうに、彼は本当に人間が出来た人だわ!
浮気する男は最低のろくでなしと言うみたいだけれど、フィルベルトは私の自己保身に巻き込まれただけなのだもの。形ばかりの妻など無視したって良いのに、こうしてご挨拶もしてくれるなんて、ご両親からきちんと躾を受けて来た証だわ!
「大神官様のところへ移動するので、何の心配もいらないですよ」
だから、時間があるうちに姉のところに行ってきたら良いと思うわ。
王子様たちも出陣の準備で忙しいみたいだし、重要人物は誰も会いに来ないはずだから、十分に時間を取れるはずだものね。
「私のことは心配いりませんから」
「アン、俺のアン」
「フィルも怪我しないように気をつけてね」
引き寄せるようにして抱きしめて来たフィルベルトの腕の中はとっても安心出来る場所でした。今まで誰も私のことなど見てくれませんでしたが、彼だけが、私のことをいつでも探すようにして見つけてくれました。
フィルベルトの心はすでに女神の化身とも言われる姉の元に行ってしまっているでしょうが、それでも、私のことを彼が邪険にすることは一度としてなかったのです。
「フィル、無事でいてね」
「アン、愛している」
嘘ばっかり。リップサービスが凄すぎるわ。本当に、こういった嘘は私の心を深く抉るのでやめて欲しいと常々思ってしまうのよね。
当初は神殿騎士としてベルナール王子の傘下の部隊に入る予定のフィルベルトでしたが、彼を後陣に置くのは勿体無いということで、最前線に配備されるシュトルベルク公爵家の海軍に身を置くことになるそうです。
世の中には浮気をされたら即終了、一緒の空気を吸うのも嫌になるという人も一定数いるわけですが、私の場合は裏切られた怒りを感じるよりも、姉に心が移っていても今まで通りに対応してくれることが有難いなと思うのです。なにしろ、今まで関わって来た人はクルリと態度を変えて来たし、明確な憎悪を向けて来る人も多かったので、フィルベルトが態度を変えないように努力をしてくれるだけで嬉しかったのだけど・・
「帰ったら子供、絶対に作ろう!」
と、言い出した時には、それはないな〜と思ったのよね。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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