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第四十七話  公爵と救国の英雄

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 エトとヘイスという悪徳神官が理由となって神殿から破門を喰らうことになったカウペルス家とダンメルス家が、亡命先となるメヘレン王国で我が国の情報を売ったということになるのだが、

「これは偽の情報だから、貴殿はそれほど心配する必要はない」

 と、シュトルベルク公爵はコルネリス王に豪語されたのだが、

「あのクソみたいなアホの極みに達している王は、口で発する言葉の反対の方向へ物事を進めていく天才だから、我々はそれを十分に理解した上で行動をしなければならないだろう」

 と、公爵は自分の部下に向かって言い出した。


 王太子時代のコルネリスは、

「今のような時代だからこそ、シュトルベルク公爵家と王家には強力な結ぶ付きが必要なのだ!」

 と言って妹のフレデリークに自ら求婚をしたというのに、

「掟として王太子は巫女と結婚しなければならないのだから仕方がないのだ!」

 と言って、あっさりとフレデリークを捨てて子爵令嬢だったアルベルティナを自分の正妃として迎え入れた。


 妹の心を壊してまで子爵令嬢を妃として迎え入れながら、顔だけは美しいという側妃にあっという間に傾倒し、その側妃が巫女である正妃を毒殺してしまっても、

「正妃は流行病で亡くなってしまったが、妃の地位は永遠にアルベルティナのもの。私は今後、正妃を持つことはしない!」

 一見、巫女アルベルティーナに最大の配慮したように見せながら、正妃を毒殺した黒幕を積極的に探そうとはしなかった。


 美しい側妃に夢中になる国王は顔が美しい女が大好きで、最近では息子と結婚予定だった巫女候補にも手を出したという。エレスヘデン王家は女神リールによって選ばれた一族だとされているのだが、

「女性というものは、クズだ、クズだと言いながらも、情が残ってなかなか捨てられないようなところがあるものなのです。それは女神リール様も同じことで、今はまだ情が残っているからこそ、エレスヘデン王家の存在を許しているのです」

 と、大神官ヘルマニュスは言っていた。


 斥候として漁師たちの船を近海にまで侵入をさせているメヘレン王国のやり口は十分に熟知しているシュトルベルク公爵が、船上から不審な船影が見えないものかと視線を走らせていると、後ろの方からアルメロ領の跡取り息子の声が聞こえてきた。


「お前は確かに色々とたりないろくでなしだが、女というのは情が深い生き物なのだよ。お前がいくら最低のクズだとしても、生活を送る中でまともに見える面がちょっとでも見えれば、女というものは情がどんどんと膨らんでいく。それはもう捨ててしまったら良いんじゃないの?という状況になっても、なかなか捨てることが出来ない生き物なんだよ」


 エレスヘデン王家が二十七の島を統治する王でいられるのは、女神リールから認められているからに他ならない。大陸の神々がどれだけ地上の人々に対して力を発揮しているのか知らないが、女神リールは無尽蔵に宝石を採掘させる程度には今の王家を気に入っているし、女神の加護があるからこそ家臣は王家に仕えているのだ。


 妹の心が壊された時には、今の王家など捨ててしまえ!と、女神リールに公爵は祈り続けることになったのだが、大神官曰く、

「情が残っているから」

 という理由で、王家は我が世の春を満喫し続けることになったのだ。


「それにろくでなしのお前が捨てられるその理由が『子供が出来ない』だろ?お前、結婚して数ヶ月じゃなかったか?実は子供って簡単に出来るものでもないらしいぞ?」


 確かに、子供というものは望んで、ハイ、どうぞという形で出来るものではないということを公爵も知っている。ちなみに公爵は妻との間に子供を授かるまでに六年の歳月がかかったため、何度、妻を代えたらどうかと周りから言われたかわからない。


「それは俺も分かっているんだが、アンは子供が欲しくて仕方がないみたいなんだ。その気持ちは俺としても十分に分かっているんだが、そうこうしているうちに、俺みたいな男が親としてどうなんだろうとか、俺みたいな男が親になって恨まれたらどうしようという不安がどんどんと膨らんでいくし、アンに月のものが来たら来たで、安堵する自分と、いや、待てよ、俺に問題があるのか?という新しい不安が芽生えてきて、最近では腹まで痛くなってくるほどなんだ」


「腹まで痛くなるって、それ、相当のストレスだぞ?」

「かもしれない、たまに目の前が真っ暗になるんだ」


 わかる!わかる!と耳を側立たせながら公爵は心の中で叫んでいた。周りは妻に問題があるのではないかと言い出すのだが、ふと、自分に時間が出来た時に、

「私に問題があるのではないのか?」

 という疑問が浮かび上がって来るものなのだ。問題があるかないかを調べてくれる人がいるわけでなし。だったら妻以外の人間と子作りをして、自分に問題があるかないかを確認するという手段があるかもしれないが、

「そこまでしたくない」

 という思いばかりが大きくなっていく。地獄だ。


「そうこうするうちに、なんか、距離が出来てきて、え、俺たち最初からこんな関係だったっけとか思いだすんだよ。確かに、大神官様の前で結婚をして、夫婦となって、あれほど幸せな日々はないっていう時間を過ごしていたはずなのに、気が付けば、あれ、なんか違くない?って思うんだけど、その原因をアンに問いかける手段が俺にはないっていうか・・結局、子供が出来ないのが原因だったら、それ・・俺のせいだし・・」


「いやいやいやいや!お前の所為だと断言するべき話でもないだろう!そもそも、お前らまだ新婚だろ!これからだって!これから!」


「確かに新婚だし、俺はいつだってアンと一緒に居たいんだよ!だけど、普段通りに過ごしているアンが俺と心の距離を取ろうとしているのはよく分かっていて、え?俺、どうすれば良いんだ?と考えると、訳わかんなくって。こんな暗中模索の状態で苦しむくらいなら船に乗って人殺しをしている方が全然マシだって思っちゃって」


「「「左舷45度に船影確認!船影確認!現在、近海にわが国の漁船は出ていないので、敵軍の斥候だと思われます」」」


 船橋からの声は船首に居るシュトルベルク公爵にかけられた言葉だと思うのだが、黒髪の男は大弓を即座に構えると、先端に炎を纏った矢を構え、敵の斥候と見られる船に向かって矢を放った。その炎は空中を移動中にどんどんと大きな塊へと成長し、敵船の帆に命中したかと思いきや、あっという間に小さな漁船全体が燃え上がる。


 黒髪の男が二本目の矢、三本目の矢を射る間に、敵の漁船はあっという間に燃えながら海の中へと沈没していく。


「フィルベルト、良くやった」


 シュトルベルク公爵が声をかけると、そこでようやっと公爵の存在に気が付いた様子で、平民騎士のフィルベルトとアルメロの次期当主アーノルドが、恭しく辞儀をした。


 大陸の魔術師の血を引くフィルベルトは祖母譲りの魔力と炎を操る技術を持つ。彼がまだ少年の時に公爵は命を救われたのだが、以降、公爵はフィルベルトの後見人になっている。

「フィルベルト、お前に一つだけ訊きたいことがある」

 公爵は針のように鋭い眼差しとなって、中身はどうであれ乙女のように整った顔の黒髪の男を見つめると言い出した。

「お前、まさか、妻が思う通りに子供を授けてやれないという罪悪感から、妻に貴族としての立場を取り戻してやろうという考えに至ったのではないだろうな?」


 爵位を得るための便宜を図ってもらうために、フィルベルトは王家と太い繋がりを持つヘンリエッタと接触をしているのだ。

「お前の妻は貴族の身分に戻りたいと日々嘆いてでもいるのか?本当にお前の妻は貴族の身分を取り戻したいと言っていたのか?」


 公爵も子供を授けてやれない罪悪感から、豪華な宝石やらドレスやらを妻に買っていたことがあるのだ。

「子供が出来る、出来ないで悩んでいるという話が聞こえてきたが、心悩ませる妻が求めるのは爵位でも宝石でもドレスでもなく、本当に必要なものは、結局、目には見えないものなのだ」

 本当に必要なものは、不安で仕方がない妻に寄り添う心、それ以外にはないということを公爵は知っている。


「それに子供は諦めた頃にやって来るというのは良く聞く話で、私のところも諦めたところで子供を授かった」

 自分の体験談も含めて目の前の黒髪に語って聞かせると、

「ロッテばあさんにも、最終的には自然に任せて、お互いを思い合いながらが大事なんだって言われたんですよ!」

 と、彼はブルブル小刻みに震えながら言い出した。


「でもね?なんかもう、距離が出来ているんですよ。説明するのも難しい距離なんですけど、これ、どうやって縮めればいいんですか?」


 そんなことは公爵も十分に体験済みなのではあるが、

「そんなことは自分で考えろ」

 と、面倒臭くなって答えると、

「それがどう考えても分からないんですよー!」

 後に救国の英雄と呼ばれることになる男は、船の上で絶叫することになるのだった。



過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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