第四十四話 公爵と大神官
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エレスヘデン王国で王家に次ぐ権力を持っている家といえばシュトルベルク公爵家になる。コルネリウス王が王太子だった時に、巫女候補の中から正妃を見つけるという段になって、公爵家の令嬢フレデリークはあっさりと王子に捨てられてしまったのだ。
子爵令嬢だった巫女アルベルティナが正妃として迎え入れられることになって以降、公爵家は王家とは距離を置くことになり、中央の政治からも離れることになったのだ。
中央の権力から遠ざかったとしても、シュトルベルク公爵家はアルンヘム本島に次ぐ島を所有しているし、五代前の王が大陸式の身分制度を取り入れるまでは群島一の武力を誇る部族として名を馳せてもいたのだ。
女神の守人の異名を持つシュトルベルク公爵家は、今回、国王直々にメヘレン王国の撃退を命令されることになったのだが・・
「大神官ヘルマニュス様、私は何も神殿騎士を辞めさせろとまでは言っていないのです。メヘレンとの戦ではフィルベルトをシュトルベルク傘下の兵士として戦わせたいのです」
「確かにフィルベルト殿は公爵様が後見人となっておりますが、他の神殿騎士と共にベルナール殿下の部隊に配属される予定となっているのです。平民となった妹の身分を慮ったヘンリエッタ様が殿下と交渉をされたそうで、フィルベルト殿は殿下の元で功績を立てることが出来れば爵位を与えられることになっているのです」
「それを誰が言っているのですか?」
「殿下の側近となるブラム・ベイエル様が私の元を訪れて、そのように申されておりました」
奥の神殿にある大神官の部屋へと招き入れられたシュトルベルク公爵は、神殿で心を壊すことになった公爵令嬢フレデリークの兄である。彼は妹を叩き潰したエレスヘデン王家も、中央神殿のことも大嫌いなのだが、彼には彼の信義というものがある。
「ベイエル家が大陸の神に傾倒しているのは有名な話であり、殿下の側近であるブラム・ベイエル自身が宗教の自由を声高に唱えているような人物です。そのブラム・ベイエルがフィルベルトを殿下の配下にすると言うのならば、私の大事な部下は無駄死にすることになりそうですね」
背中までかかる銀髪を後ろ一つに縛り上げた公爵は大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「ブラム・ベイエルは神殿に居座ったままのアリーダ・ブラリュネと手を組み、彼女をベルナール殿下の正妃に迎え入れるために暗躍をしているような男ですよ。アリーダ嬢の母親はナルヴェ王国の重鎮の娘であり、ナルヴェが昔からメヘレン王国を狙っているのは知られた話ではないですか?」
公爵はソファの背もたれに自分の背を預けると、大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「冬を前にしてメヘレンが慌てて戦の準備を始めたのは、メヘレンに亡命をしたカウペルス家とダンメルス家の当主たちが祖国の情報をメヘレンに売ったから。両家の亡命に手を貸したのはベイエル家だというのを知らないとは言わせませんよ?」
有力貴族である二つの貴族家に引導を渡したのは間違いなく目の前の年取った大神官であり、二つの家を没落させた大神官は両家の行方については詳細に調べていることだろう。
「我が国の宝石が枯渇したという話は、大陸にまで広がっていることでしょう。奴らは我が国に保存されている宝石を強奪するには今しかチャンスがないとでも言っているのでしょう。軍備が空となったメヘレン王国を虎視眈々とナルヴェ王国が狙っているとも知らずに、メヘレンは我が国を侵略するために必死になって船をかき集めていますよ」
公爵は大きなため息を吐き出した。
「船を掻き集めたメヘレンに対して公爵家の海軍をぶつけさせて、王家は我が方の戦力を損耗させるつもりなのでしょう。そうして、メヘレンから戦争の賠償金を手に入れる予定だった王家は、あっさりと苦境に立たされることになる。そんなエレスヘデン王家を王妃となったアリーダ嬢が手中に収めるという計画でしょうし、王妃となったアリーダ嬢は大陸の神を奉じる神殿をエレスヘデンの島々に建立させる予定でしょう」
翡翠色の瞳を細めた公爵は両膝の上に自分の両腕を組むと、前のめりになってヘルマニュスの深い皺が刻まれた顔を見上げた。
「大陸から追い出された女神様が泣く泣く大海原に自分の領土となる二十七の島を作り出しました。その二十七の島に大陸の神を祀る神殿を建立させるのは、女神様を侮蔑する行為と何ら変わりないと思いますし、そんなことを大神官様もお許しにはならないでしょう?」
大神官ヘルマニュスは大きなため息を吐き出した。
「このことはコルネリス王もご存知のことなのですよね?」
女神の怒りを買うこととなったエレスヘデン王国では宝石が枯渇をして、海では大粒の真珠が採れなくなってしまった。王国が大打撃を受けている中、ベルナール王子の側近とブラリュネ子爵家の令嬢が結託をして、祖国を売るために暗躍をしているのだ。
「メヘレン王国を我が国へ侵略戦争を仕掛けるところまでは、コルネリス王も了承した策なようですよ?」
「そんなバカな・・」
「メヘレン王国がどれだけ海軍を増強したとしても、公爵家の海軍を当てれば容易く打ち倒すことが出来るだろうと思っているし、敗北したメヘレンから戦争によって生じた賠償金を請求することが出来れば、急場の財政難を何とか出来るだろうと考えたようですよ?」
「王家はよくもまあ、公爵家に対してあんなことをしておいて、シュトルベルク公爵家の武力を当てに出来たものですね?」
「ええ、だからこそ呆れてしまうのです」
巫女候補として神殿に上がったフレデリーク公爵令嬢は心を壊してしまったのだ。これにはエレスヘデン王家が大きく関わっているのだが、それを放置してしまった神殿にも責任はある。
「我が家は神殿に対して幾つも貸しがあると思うのですがね?」
「ええ、それはこちらも十分に理解しております」
神殿騎士はベルナール王子の指揮下に入ることとなっているが、そもそも、ベルナール王子が戦いの前線に出ることもなく、貴族騎士たちの命を守るために平民騎士の命を使う程度の利用方法しか思いつかないような人物なのだ。
本気でメヘレン王国を迎え撃つとなれば、強力な戦力をぶつけなければ敵の上陸を許すこととなり、多くの民が命を散らすことにもなるだろう。
「フィルベルトだけでなく、森の民の力もお貸しいたしましょう」
神殿を守るために多くの神殿騎士を養っていることになるのだが、本当の神殿の守り人は森に暮らす人々であるし、森の人々の手にかかれば王宮の近衛兵程度であれば片手で握り潰せるほどの戦力がある。
「今の王家に任せていれば多くの民が命を落とすこととなりましょう。であるのなら、神殿の武力全てを閣下にお貸しする道を私は選びましょう」
そこで目をぱちくりとさせた公爵が、
「神殿は今の王家を見捨てる気になったかのかい?」
と、問いかけてきたため、大神官は首を横に振って言い出した。
「女というものは、駄目な奴だ、愚かな奴だと思ったとしても、情が残ってなかなか捨てられない生き物なのですよ。それはもちろん、女神様も同じことで・・」
「まだまだ見捨てられないのか」
公爵は大きなため息を吐き出すと、
「わかった」
と言って立ち上がった。
「近々、使いの者をフィルベルトの元まで送ろう」
「では、そのように伝えておきましょう」
そう言って大神官も立ち上がると、前線へと出ていくことになるシュトルベルク公爵に対して祝福の祈りを捧げたのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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