第四十三話 策謀
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悪魔の使いとも言われるようになった神官エトとヘイスには、大きな後ろ盾にもなる親がいた。カウペルス家とダンメルス家の二つの貴族家の当主たちは、まるで天罰が降ったかのように自分の邸宅だけが燃え上がる様を見て、
「女神リールの怒りを買ってしまった!」
と言って恐れ慄き、大神官ヘルマニュスに破門を宣言されても、
「女神の怒りを買ってしまったのだから仕方がない・・」
と、思いこんでしまったのだ。
神官となった自分の息子が神殿で勝手なことをしているとは知っていながら、神殿の力は衰えて久しく、抗議をして来たとしても何の問題もないと考えていたのだが、まさか本物の天罰が落ちることになるとは思いもしない。
だからこそ、エレスヘデン王国から逃げるように大陸へ亡命をしても、女神の怒りを買ってしまったのだから仕方がないと思っていた。今までどれだけの金を貢ぎ込んできたのか考慮することなく、王家があっさりと自分たちを切ったことにも無理やり納得しているような状態だったのだが、
『我が国の宝石や真珠の枯渇は深刻な問題であり、損失分を補填するためにも、メヘレン王国にエレスヘデン王国の防備に対して偽の情報を売り、我が国に侵攻するように唆して罠に嵌めなければならない。さすれば、帰国後の復権は必ず約束しよう』
といった内容の密書を受け取ることになって、思わず大きなため息を吐き出した。
エレスヘデン王国は、偽の情報を信じ込んだメヘレン王国の海軍を罠に嵌めて撃ち倒し、戦争の賠償金をメヘレンからせしめようと考えているようなのだ。これに協力をすれば何もかも失ってしまった両家を復権させるという話らしい。
「カウペルス家はベルナール殿下の申し出に応じようかと思うのだが、ダンメルス家としてはどう考えている?」
揃って亡命をすることになった両家は密談をすることになったのだが、ダンメルス家の当主は難しい顔をしながら言い出した
「大神官ヘルマニュス様が破門をするなり、コルネリス王はあっさりと我らを捨てたではないか?そんな国王が我らの復権をすぐさま認めるのか?そこに疑問を感じずにはいられないのだ」
エレスヘデンの宝石の枯渇が深刻な状況だというのは大陸にまで伝わっており、取り分が減った王国の今の状況で、すでに没落した二つの有力貴族を復権させることなど出来るのだろうか?
「最悪な場合は、メヘレンから賠償金をせしめた後に、エレスヘデンのために偽の情報を売ったというのに売国奴扱いされて、処刑処分とされることもあり得るだろう?」
「処刑処分か、十分にあり得る話だな・・」
エレスヘデンには湧き出るように宝石が採掘されることで有名なのだが、どのような宝石が何処でどの程度採掘されるのかという情報を売ることでメヘレンへの亡命を果たした両家となる。ここでエレスヘデンの防備に関する偽の情報を売ったとして、それが途中でバレることにでもなれば、間違いなく反逆者として処刑されることになるだろう。
どちらにしても処刑がチラつくような申し出を眺めていると、胸の前に腕を組んだカウペルス家の当主が言い出した。
「最後の仁義を通すために祖国の防備に関しては知らぬ存ぜぬを貫き通してきたが、我らはこれを機にメヘレン王国に対して本物の情報を売ることにしよう」
「祖国を売るのか?」
「エレスヘデンでは宝石や真珠が枯渇したのは、女神の怒りに触れたからと言われているのだろう?そんな状況で神殿から破門された我らが帰ったところで良いことなど何もない」
「無事に復権できたとしても、自領の宝石鉱山も枯渇していたら何の意味もないか」
「それに、祖国に戻ってまた女神の天罰が降ったらどうする?息子たちと同じように悪魔の使いとされて殴り殺されるようなことにでもなったらどうする?」
結局、亡命をする段になって何もしてくれなかった王家は両家を見捨てたようなものなのだ。そんなエレスヘデンの王家を信用して破滅の道を歩むのならば、より有利な方向へ進むのは極々当たり前のことだと言えるだろう。
◇◇◇
「ベルナール王子からの密書を受け取ったカウペルス家とダンメルス家ですが、こちらにはメヘレンに偽の情報を確実に売りつけると確約しながら、メヘレンに対しては本物の情報を売りつけております。メヘレン側もこの情報については精査をしたようなのですが本物と判断され、エレスヘデンへ侵攻するための準備を開始しております」
「あらそう、なるべく本格的な冬が始まる前に侵攻を開始して貰えると有難いのだけれど?」
「我が国に残った宝石を奪い取るためには早急に侵攻を開始するべきだと進言しておりますので、最短で動き出すことと思います」
ベルナール王子の側近ブラム・ベイエルの報告を受けたのはブラリュネ子爵家の令嬢であり、巫女候補を断念しているアリーダは、深く沈思した後に、
「ナルヴェ王国のお祖父様のところへすぐさま連絡を送りましょう。ナルヴェのお祖父様はメヘレンの港湾を欲しがっておりましたから、エレスヘデン侵攻のためにメヘレンが空となれば喜んで攻め入ることでしょう」
と、答えて花開くような笑みを浮かべた。
アリーダ・ブラリュネの母はリェージュ大陸の内陸に位置するナルヴェ王国の出身であり、ナルヴェ王国は常々、南海に面したメヘレンの港湾を自国のものにしたいと企んでいた。そのメヘレンが女神の島を占領したいと企んでいることを察知したアリーダの祖父が自分の娘を送り込んだのは随分昔のことになるのだが・・
「なるべく国がガラ空きとなる時間が長くなるように、メヘレンの海軍をエレスヘデン王国が引き止めなければなりません。これにはシュトルベルク公爵家をぶつけることにするとコルネリス王は宣言しておりますが、それだけでは足りません。国家存亡の危機として、まずは神殿騎士の派兵を決めさせましたので、これで他の貴族たちも追随するような形となるでしょう」
エレスヘデンの王家や貴族たちにメヘレン王国を迎え撃たせている間に、ナルヴェ王国はメヘレン王国への侵略を開始する。メヘレンの海軍を撃破した上で多額の賠償金をせしめるつもりのエレスヘデン王国は、そのメヘレンがナルヴェ王国に滅ぼされたと知れば驚くことになるだろう。
たとえ宝石や真珠が採れなくなったとしても、長い航海をする際の中継地点として重要な場所にあるエレスヘデン王国をナルヴェ王国としては逃すつもりはない。
窮地に陥ったエレスヘデンとナルヴェが平和協定を結ぶように推し進めながら、アリーダはベルナール王子の妃となり、エレスヘデンを牛耳るつもりでいるのだが、
「アリーダ様が王妃となる世が来れば、平和的に信仰の自由を進めることが出来るようになりますね!」
王子の側近ブラム・エイベルの言葉を聞いて、アリーダは皮肉な笑みを口元に浮かべた。
大陸の神を信奉するブラム・エイベルは、身分制度がエレスヘデンに取り入れられたのと同じように、大陸の神への信仰をも取り入れたいと考えている。一時期は多くの貴族たちが大陸の神を信じるようになったのだが、最近、立て続けに起こる天罰が理由で女神信仰に回帰する貴族たちが増えている。
「もちろん私は宗教を自由に選べる国にしたいと思っているわ。だけど、今の時点で神殿を刺激するようなことだけはやめてちょうだい」
アリーダは優しく諭すようにしてブラムに言って聞かせるのだった。
「天罰なんてものを私は信用しないけれど、実際に私の周りにも、貴方の周りにも、足に怪我をする人が増えているでしょう?そのような状況で私たちに何かがあれば、悪魔の使いだと揶揄する人だって出てくるかもしれない。だからこそ、今は大陸の神には待って頂くの。分かった?」
「ええ、ええ、我らは決して悪魔の使いではありません。全ては神の御心のままに動いているだけのことなのです」
「ヘンリエッタが狂人フィルベルトを森から引っ張り出すことに成功をしたみたいなの。彼女は彼のことを自分のおもちゃにするつもりのようなのだけれど、そんな時間はないから、彼を即座に戦列に加えるようにしてちょうだい」
「そちらの方は私の方で十分に手配できるかと思います」
「あと、森に居るアンシェリーク嬢なのだけれど、彼女は本物の巫女かもしれないから私たちは極力触れないようにしましょう。これから戦争が始まるし、殿下が巫女に関わることがないように気を付けなさい」
「やはりアンシェリーク様は巫女なのでしょうか?」
「それはそうでしょう?」
アリーダはコロコロと笑いながら言い出した。
「あれほど見事に周りの人間の足がポキポキ折れていくのよ?女神の力は未だに健在だからこそ、ナルヴェ王国はメヘレン王国みたいに直接的な侵攻をしたいとは思わない。だって、天罰が怖いもの!」
「天罰ですか・・」
実際にブラム・ベイエルの身代わりとなった平民の恋人は、骨折が悪化をして足を切断をしているような状態なのだ。確かにこの世には女神の天罰というものがあるのだろうが、
「貴方は何の心配もいらないの、だって貴方には大陸の神がついているでしょう?」
そうアリーダから言われると、何もかもうまくいくという思いばかりが彼の中で大きくなっていくのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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