第四十二話 不幸を望むお姉様
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ヘンリエッタは、愚図でノロマで、生きている価値もない妹のアンシェリークが結婚をしたということで、その相手となった神殿騎士を呼び出したのだが、
「・・・!」
切断した指を連ねて作った輪っかを目の前に差し出されて、その場で失神しそうになったものの、
「女神に対する不敬として訴えても良いのですよ?」
と、声が震えないように踏ん張りながら問いかけた。
アンシェリークの夫となった平民騎士であるフィルベルトは背も高く、まるで乙女のように美しい顔立ちをした男なのだけれど、エレスヘデン王国では忌み嫌われる黒髪であるし、自分に向ける氷のような瞳がヘンリエッタには気に食わない。
「その指を良く見てください」
フィルベルトに言われて嫌々、指の輪っかに視線を向けると、全ての指に特殊な刺青が入っていることにヘンリエッタは気が付いた。
「お嬢様が利用されている暗殺者ギルドでは右の薬指に特殊な刺青を入れるのですが、それが十本揃っているということは、お嬢様が依頼をした十人の指ということになります」
「うぐ・・」
気分が悪くなったヘンリエッタはその場で嘔吐しそうになったものの、そのプライドの高さで何とか我慢をすることに成功をした。
「お嬢様もベルナール殿下も私の妻を殺したくて仕方がないようですが、いくら森に送り込んでも意味がないです」
森の中に引っ込んでしまったアンシェリークを引っ張り出すためにヘンリエッタは平民騎士を呼び出したのだが、平民騎士は平民騎士でヘンリエッタに警告をするために足を運ぶことにしたらしい。
「これからも送り続けるようであれば、その都度、このような形でプレゼントを贈りましょう。すでにギルド長と殿下には耳のネックレスをお贈りしているので、お嬢様には特別に指の輪を用意いたしました。あそこのギルドは舌先にも特殊な刺青を入れますので、お嬢様には舌のネックレスを贈ろうと思ったのですが、人間の舌というのは牛の舌と違って掴むのも難しいですし、切るのも意外に面倒なんです」
ヘンリエッタの妹であるアンシェリークはとんでもない男と結婚したらしい。ヘンリエッタなりに男のことは調べてみたのだが『狂人』という二つ名がついた、見かけだけは非常に見目麗しい男だったのだ。
ただ、見目麗しいその見かけに騙されて大変な目に遭った人間は両手の指で数えられないほどであり、
「あのような男が護衛として付くなんて、妹様が憐れで仕方がありません!」
と、ヘンリエッタの護衛が言っていた為、ヘンリエッタはその狂人に対して、
「お金はどれだけでも払います、平民たちを集めて妹を慰み者にしてしまいなさい」
と言ったのだが、それを丸ごと無視してきたのが目の前の男でもある。
「ヘンリエッタ様、フィルベルトさんは自分の身を守るために仕方なく、暗殺者たちを屠ってきたのです」
妹の夫を連れて来た神官見習いのマルクが、胸の前で両手を組み、涙をウルウルと瞳に溜めながら言い出した。
「フィルベルトさんはアンシェリーク様の夫となり、妻を幸せにしたいと考えていらっしゃるのです!ヘンリエッタ様も、アンシェリーク様のことを悪魔の使いだと判断していましたが、それが誤解だったとようやっと気が付いたのですよね?」
お小遣い目的で暗殺者ギルドへの手配もしていた神官見習いは、ヘンリエッタが妹のことを悪魔の使いだと勘違いしていたからそんなことをしたのだと言いたいらしい。
「妹様への誤解を解いたヘンリエッタ様は女神様も心配するほど憔悴されて、自己嫌悪に陥っていましたものね?」
「そうよ!そう!私は間違っていたの!」
「だからこそ、今度こそアンシェリーク様を幸せにするために、妹様の夫となるフィルベルトさんが爵位を授けられるように手伝おうと考えていらっしゃるのですよね?」
はあ?爵位?何を考えているの?
この私の前へ切断した指を連ねて作った輪っかを持って来るような狂人よ?
そんな狂人に爵位?はあ?意味が分からないのだけれど?
呆然としたまま言葉が出ないヘンリエッタにそっと近づいて来たマルクが、背伸びをしながらヘンリエッタの耳元に囁いた。
「フィルベルトさん、やっぱり爵位には興味があるみたいですよ?」
戦争が始まって英雄と呼ばれるほどに活躍をすれば、平民であっても褒美として王家から爵位を授けられることはある。指や耳の輪っかを作るほどいかれたフィルベルトであっても、彼は暗殺者ギルドで用意した暗殺者だけでなく、ベルナール王子が手配した者まで排除することに成功したほどの強者なのだ。
戦争が起こればフィルベルトは活躍することが可能だろうが、ベルナール王子に嫌われている状態では褒美として爵位を授かるのはかなり難しいだろう。
「そうです!爵位!妹を幸せにするためには夫が平民身分のままじゃ駄目なのよ!」
拳を握りしめながらヘンリエッタが主張をすると、そこで始めて、フィルベルトの氷のような瞳に動揺が走ることになったのだ。
「お父様が除籍処分をされてアンは平民身分となってしまったけれど、絶対に貴族に戻りたいと考えているはずだわ!」
リエージュ大陸にあるメヘレン王国がエレスヘデン王国に対して宣戦布告をするのは目に見えているし、近々、戦争が起こるだろうということは平民でも知っているようなことなのだ。
「だけど、今のままでは駄目よ!貴方がいくら活躍したってベルナール王子は絶対に許さないもの!」
なにしろ、王子が送り込んだ人間を全て屠ってしまったのだ。完全に恨まれているし、絶対に褒美として爵位を与えようなどとは思うまい。
「でも!私の妹の為ですもの!私がお願いをすれば、貴方が貴族になることも可能だわ!」
そう言ってフィルベルトの整った顔を見つめたヘンリエッタは、
「アンシェリークを幸せにしたいのでしょう?」
と言うと、フィルベルトの瞳に映る動揺が大きくなる。
フィルベルトは元々、爵位になど全く興味がない男なのだろう。そのフィルベルトに平民身分から元の身分に戻してあげることが大切なのだと吹き込んだのが神官見習いのマルクであり、
「フィルベルトさんが活躍するのは僕、簡単に想像できるんですけど、ただ活躍するだけじゃ駄目なんです!王家と太い繋がりを持つヘンリエッタ様のお力は絶対に必要ですよ!」
と、彼は握り拳を興奮気味に振り回しながら言い出した。
「私も妹を平民身分のままにはしておけないわ」
自分の妹が不幸になることが何よりも好きなヘンリエッタとしては、クルクルと回転する頭の中で様々な思惑が思い浮かんでくる。
「フィルベルト、貴方が相当の腕の持ち主だということは私も十分に理解しています。戦争で活躍するのは間違いないですし、順当にいけば爵位を貰うことも簡単だったでしょうが、貴方はベルナール王子に反感を買うようなことを沢山してしまったのですもの」
そこまで言うと、フィルベルトの眉間に深い、深い皺が刻まれた。おそらく彼は、一縷の望みを抱いてここまで来たのに違いない。
「であるのならフィルベルト、貴方はしばらくの間、我慢をしなければならないわ」
ヘンリエッタの前までノコノコやって来た目の前の男は、妹を痛めつける為の都合の良い道具に成り下がったのだ。
「妹の身分を取り戻すために貴方には爵位が必要なのでしょう?」
その時、フィルベルトは、それは恐ろしいような笑みを浮かべたのだが、ヘンリエッタは彼が変人で狂人だからだと思い込むことにした。
「ふふふふっ」
ヘンリエッタから自然に笑みがこぼれ落ちていったのだが、ヘンリエッタが相手にするのは指で輪っかを作ってしまうような、心が壊れたろくでなしなのだ。もちろん、彼女の想い通りになどいくことなどないのだが・・
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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