第四十一話 最低のろくでなし
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結婚する前に相手が最低のろくでなしだと分かっていればまだマシだったのかもしれないけれど、付き合いは短いし、勢いで何も考えずに結婚したようなものだもの。結婚してから、あら、思っていたのと違っていたわ〜となった場合、世間の人々はどうしているのかしら?という疑問があるのよね。
そこで人生の荒波を乗り越えまくってきたようにも見えるロッテばあさんに尋ねることにしたのだけれど、
「夫が嫁の姉に手を出すようなクズ野郎だけど、エレスヘデンでは結婚して一年を経過しないと離婚出来ないみたいだから、とりあえずどうやって残りの日々を過ごせば良いのか尋ねたいだって〜?」
しわに埋もれた目をカッと見開いたロッテばあさんは視線を左右に彷徨わせると、歯が一本もない口をモゴモゴ動かしながら言い出したのよ。
「わしゃ奥の神殿まで行くことは出来んから、アン様一人を送り出してしまったんだが、わしが居ない間に一体何があったんだ?そこから話して貰わないと返答なんか出来るわけがねえのよ」
「ああ〜、流石にそうですわよね〜」
私は神官見習いに連れられて移動している際に、実姉と自分の夫が逢引きしている現場に出食わすことになり、そんな不倫カップルには触れることなく大神官様のところまで行って離婚をしたいということを申し出たのだけれど、エレスヘデンでは女神様の計らいという奴で結婚したら一年間は離婚が出来ないのだという説明を受けることになったのよ。
すると、ロッテばあさんは眉を顰めて口をもごもごさせながら、
「それでも旦那の顔を正面から確認したわけじゃあねえんだろ?だったら、アン様のお姉様が嫌がらせ目的で別人を装わせて用意したかもしれんだろ」
と、ズバリッと言われてしまったのよね!
「でもね、フィルの髪の毛はエレスヘデンではとっても珍しい漆黒の髪だし、神殿騎士で彼のような髪色の人って他に見たことがないのだけれど?」
「カラスの羽を用意して頭に付けていたのかもしれんしな」
「流石にカラスの羽を付けていたら私だって気付くと思うわよ〜!神殿で支給される騎士服を着るその後ろ姿は夫にそっくりだったし!それにおばあさまの娘さんも姉と私の夫の熱愛を噂していたではないですか!」
「ゔ〜ん」
神殿騎士とは普段から同性のみと交流しないようなところがあるため、ちょっと親切にしてくれた修道女さんとか、女神様を信奉するお嬢さんなんかと交流があると、それが平民騎士であればすぐに結婚を考えちゃう人がそれは多いんですって。
家族の復讐を誓った(と思われる)フィルベルトですもの。最初はベルナール王子に近付くために私の専属護衛騎士として名乗りをあげることになったけれど、彼は神殿騎士(平民)なのよ?
巫女候補をやめても護衛騎士として付いてくれたフィルは、普段から女性に縁がない生活をしていた為、私程度であっても、
「あ・・結婚しても良いかも〜」
なんて思ってしまったのかもしれないわよね。
私はベルナール王子って大嫌いだし、確実に王子から逃げ出すためにフィルと結婚してしまったのだけれど、フィルったら時間が経つうちに正気に戻ってしまったんだわ!
「男の人って結局、美人が大好きじゃないですか?私の姉って女神の化身とも言われるような黄金の髪を持つザ・美女なのですもの!そんな姉は私から何もかも奪っていかないと気が済まないタイプなので、あっさり姉に奪い取られてしまっただけの話なのですが・・」
すぐに離婚出来ないだなんて誤算だったわ!
まあ、いつかは離婚出来るから良いとは思うのだけれど・・
「まあ、わしだったら踏んづけるな」
「何を踏んづけるんですの?」
「ここ、ここ」
ロッテばあさんは自分のお股を指差しながら言い出したのよ。
「女の踵でも勢いよく落とせば、どんな球であったって潰れてしまうと思うだろ?」
「おばあさま、聞くに耐えないですわ!自分の踵で潰すですって?怖すぎますわよ!」
「わしは若い頃にやったことがある」
「まあ!」
「じいさんが浮気した時にやったんだが、あと指一本のところで外されてな・・自分の踵だけが痛い思いをしたんだが、その時に床板を二枚叩き割ったけえ、以降、浮気はしなくなったな」
「まあ!まあ!踵で床板が割れるのですね!すごい!すごい!だけど、私には絶対に無理ですわ〜」
主婦初心者の私の踵は柔らか過ぎるので、床板は割れそうにもないし、そもそも勢いとお情けで夫婦になったようなものだもの。私が暴力的行為に出るのもどうなのかな〜っと思うんですよね〜。
「フィルが本当に愛する人を見つけたのなら(間違いなく姉は本気ではないでしょうけれど)それはそれで良いのです。男の人は美人が好きですし、それは自然の摂理だとも思うのです。問題は今すぐ離婚が出来ないので、今のままの状態でしばらく過ごさなければならないということで」
「どうやって浮気をしている夫と生活をしていくか・・徹底的に争う姿勢で挑むか、何も知らないふりをして離婚が出来る日まで過ごすかの二択になるんじゃあないかと思うがの?」
「二択ですか」
「何があっても夫と別れたくねえとか、夫と姉を今すぐ別れさせたいとかではねえんだろ?」
「ないです」
「だけど、何とも言えねえ程の不快な気分に包まれているんだろ?」
「まあ・・そうです」
「であるのなら、その不快な気持ちを解消するために徹底的に戦う姿勢を見せるか、自分の不快な気持ちにでっけえ蓋をして無視するか。どちらかになるだろうよ?」
「そうですわよね〜」
王子様から逃げたい私は大陸への移住の手続きが出来るまでの間は、なるべく既婚者のまま夫同伴のままで居たいとは思っているのよ。だけど、大神官様が言うには、大陸とエレスヘデンの関係が緊張状態になっているようで、とてもとても、移住なんて話を進められるような状態ではないらしいのよ。
「大神官様も最初は女神様の天罰を恐れてアルンヘムに残って欲しいとおっしゃって居たのだけれど、私が離婚を考えているという話をしたら、それじゃあ移住も仕方がないと考えてくださったのよ。ただ、結局今は時期ではないので、島から出ることも、森から出ることも出来ないようなのよね」
だからこそ、今までと同じように森の一軒家で夫と生活を続けなくちゃいけないのよ。実姉と浮気をするようなろくでなし野郎と生活を続けるだなんて・・考えるだけで気が滅入ってくるのは仕方がないことよね。
「わしも噂で聞いたが、もしかしたら戦争になるかもしれねえんだろ?だったら神殿騎士であるフィルの旦那も海に出るかもしれねえし、森で一緒に暮らすのもそう長いことにはならねえとは思うんだが」
ロッテばあさんはえへん、えへんと咳払いをしながら言い出したの。
「旦那が出てったらわしの家に来たらええ、うちは強者揃いだからアン様一人くらい匿うことも出来るからな!」
「それじゃあ、その時が来たらおばあさまの家にご厄介になるかも!」
「来たらええ!来たらええ!」
そんな訳で、夫が浮気をしていても現状維持を選ぶことにした私は、夫の夜のお誘いだけは断ることにしたの。今までは子供が欲しかったのでいつでも受け入れちゃっていたけれど、姉と浮気をしているんでしょう〜?無理!となったので、
「ごめんなさい〜月のものが来てしまったの〜」
と言って、ひたすら誤魔化しているうちに、ろくでなしのフィルベルトはメヘレン王国の海軍と戦うために海に出ることになってしまったの。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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