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第四十話  たりないわたし

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 私が生まれた時には、

「私を見てよ!アンシェリークじゃなくて私を見てよー!」

 と、姉がお騒ぎをした為、間もなくして私と乳母は本邸ではなく別館の方へ住まいを移動することになりました。そのまま忘れられていれば良かったのでしょうけれど、自分よりも劣っている人間を身近に置いて、ひたすら自分の優位な立ち位置に満足していたいという姉の意思によって、私は本邸へと移動をすることになったのよね。


 女神のように美しい姉に両親はメロメロだし、そんな両親に気に入られたい使用人たちが私を疎んじるようになるのは自然の摂理だと思うわよ。わかってる、わかってる、世の中、美人が得をするように出来上がっているということは物心ついた時から十分に理解しているわよ。


 幸いにも女神に気に入られたお姉様の妹である私にも、加護やら庇護やらの力があるみたいで、私に害意を抱く人間はそのうち顔を真っ青にして私には近づかないようになるの。結構な人が足の怪我をしたとは聞いたけど、それが天罰だと思うのならこっちとしても都合が良いので利用するだけ利用してやったわ。


 生まれた時から親の愛情とか、貴族令嬢として受けるべき待遇だとか、そういったものは全て奪われてきたのだから、私の都合の良いように怪我を利用したってバチは当たらないと思うのよね。


 乳母なんて三歳の時には辞めてしまったし、面倒を見る使用人なんてものもまともに居ないような私はなにもかも足りない令嬢だと言えるでしょう。そんな私を身近で見物しては、

「ああら〜!かっわいそう〜!」

 と、心の中ではしゃいだ声をあげているのが私の姉ヘンリエッタという人なのよ。


 私に専属の護衛がつくことになって、水をぶっかけてくるコルネリア嬢を糾弾し、巫女候補という立場も無事に辞退できた私だけれど、まさかそんなことで実父が私を除籍処分にするとは思いもしなかったわ。挙げ句の果てには実母による毒殺未遂事件よ?この世には神って存在するんだなって思わずには居られなかったわよね!


 宝石と真珠が採れなくなって王国が窮地に陥る中で、全ては信仰心が足りない貴族の所為だと糾弾したり、宝石の採掘や真珠の収穫をもとに戻す術など何も持たないのに、貢物を好きなだけせしめていく姉の豪胆さったら思わず感心してしまうわよ。


 巫女として役割を果たしていないではないかと糾弾されたとしても、自分の体を国王陛下に差し出して、王国最大の後ろ盾を利用して全てを有耶無耶にしてしまう人だもの。


 お陰で父親の手垢がついたヘンリエッタお姉様からベルナール王子の興味が薄れてしまったようだけれど、その穴を埋めるようにして引き込んだのが私の夫のフィルベルトだって言うのよ?


 王子様から逃れるために急遽結婚を決めた私だけれど、森の中の一軒家に住むようになってから徐々に徐々に、何かで埋められていくような感覚を覚えたの。


 私はお姉様が大好きな社交なんか好きじゃないし、お姉様みたいにお友達に囲まれたいとも思わないし、

「この前はあのお店でネックレスを購入して・・」

「私は最近大陸で人気のブティックでドレスを購入して・・」

 あれを買った、これを買った。大陸の流行がどうだ、こうだ、最先端のあれを手に入れた、これを手に入れたなんて話をしながらウェーイッなんて楽しみたいとも思わない。


 姉とは違って素敵なドレスも宝石も両親から与えられることがない私は、執事が仕方なしに用意した洋服を着るしかないの。宝飾品?何それ、美味しいの?と、問いたいわ。私が性格に問題があって伯爵家の厄介者だという噂が流れているようだけれど、私のいつもの姿を見てその噂を信じる輩は目ん玉が付いていないと断言できるでしょう。でも、そんな噂を馬鹿みたいに広める奴らに対して怒りの感情なんか浮かばない。あっそうって感じで終わっちゃうのよ。


 毒入りのクッキーで私を殺そうとした母は牢屋に入っている間に足が腐って、最終的には自分から毒杯を望んで亡くなったというけれど、親を失った喪失感とか、悲嘆する心とか全く発生しないわ。あっそう、そんな感じよ。


 親に疎んじられようが、使用人に馬鹿にされようがだから何?別にこっちもあなた達なんか気にもしないし、知らないし、勝手にやっていたら?といつだって思っていたのだけれど・・・


「フィルベルト様・・」

 大神官様や上級神官様達が居住する奥の神殿の近くで、黒髪の男性と黄金の髪を持つ姉がヒシッと抱きしめ合っている姿を見た時には、目に見えない何かがぶすーっと刺さるような感覚を覚えたわ。わざわざ姉がフィルベルトの名前を呼んで顔を埋めているのだから、背中を向けている男性は私の夫なのでしょう。


 私とロッテばあさんは翌日、離婚申請書を大神官様から直接貰うために中央神殿へと向かったのだけれど、大神官様が奥の神殿に居るということで、私だけ神官見習いさんに案内されることになったのよね。


 そこで藤棚の藤が美しく咲き誇っている聖域の近くを歩いていくことになったのだけれど、どうも修道女さんの姿が多いな〜と思っていたら、その奥の方で黒髪と黄金の髪が逢瀬を楽しんでいる姿が見えたってわけなのよね。


 急遽、私の夫となったフィルベルトだけれど、彼にはリェージュ大陸の血が流れているため髪の毛が漆黒の夜のように真っ黒なのよ。髪の毛の色はお婆さまに似たというのだけれど、明るい髪色が多いエレスヘデンでは非常に目立つ髪色で、神殿に仕える神殿騎士の中にあれほど暗色の髪色の人はフィルベルト以外には居ないでしょう。


 私には、ベルナール王子と将来結婚するかもしれない姉と逢引きをするのは、将来的に家族の復讐を遂行するための布石となるのかどうかが分からないけれど、私の姉はこういうことをやる人だもの。今日だって私が大神官様に会うということを事前に察知して、わざわざこんな場所に私の夫を呼び出して見せ付けているのかもしれないわね。


 自意識過剰で自己顕示欲の塊のような姉は私の悔しがる姿を見たくて仕方がないのでしょうけれど、正直に言ってこういう展開は事前に予想は出来たのよ。


 大樽の底に取り付けられた栓がいつの間にか穴を塞いでいて、私の中のたりない何かが流れ出さずに蓄積されつつあったのかもしれないけれど、無造作に姉が栓を引き抜くのはいつものことだし、その栓を私の手が届かない場所に持ち去ってしまうのもいつものこと。


「だからなに?結局いつものことじゃない?」

「アンシェリーク様?何か仰いましたか?」


 前を歩く神官見習いが興味津々の眼差しで問いかけてきたのだけれど、親切に答えてやる必要はないわ。私が無言のまま促すと年若い神官見習いは歩き出したのだけれど、恐らくこの神官見習いも姉が用意したのかもしれないわね。


 ないものだらけの私は、栓を抜かれることにも慣れているし、空っぽになるのも慣れている。

「だから何よ・・」

 所詮は家族ごっこをしただけの話じゃない?元々、彼は復讐をするつもりで神殿騎士になったような男なのだし、森に引きこもり状態の私ではなく姉の方に行ってしまうのは分かりきったことじゃない。


 また空っぽになるだけ、最初から持っていなかったものなのだから何の後悔もないわよ。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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