第三十七話 たりない王子
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ベルナール王子には歳が離れた王子が二人いるが、長い間たった一人の後継者だったということもあってはちみつにどっぷりと漬け込んだように甘やかされて育つことになった。
ベルナールの母は巫女と呼ばれた正妃アルベルティーナを毒殺したような人間だし、コルネリス王は疑いの眼差しを向けてもベルナールの母を諌めるようなことはしなかった。
五代前の王の時代から大陸式の身分制度を取り入れることになり、貴族となった人々は自分の権力をより強大なものとするために、人々の信仰を集める神殿に対して疑心を抱くようになった。
その後、女神の庇護が薄れていくのを感じた王は、王太子は女神が加護を与える巫女と結婚するようにと定めたが、そもそも本当に女神の庇護や加護なんてものが存在するものかと疑問を呈している人間は一定数いた。
巫女アルベルティーナが亡くなった時に神殿は猛烈な抗議を王家に対して行ったが、結果的に女神の怒りなど落ちることもなく平穏な日々はそのまま続くことになったのだ。であるのなら、王太子は巫女と結婚をする必要などあるのだろうか?
巫女候補に王子の妃となっても問題ない家柄や財力を持つ令嬢を選んでいる時点で『巫女を選ぶ』ことが形骸化しているのは間違いない。巫女アルベルティナが毒殺されても何も起こらなかったのだから、全ては茶番だったのだろう。だからこそベルナールにとって巫女候補たちとの交流は、都合の良いストレス発散の行為に変わっていったのだった。
有力貴族と言われるカウペルス家とダンメルス家の邸宅が燃え上がり、両家の子息である神官エトとヘイスが無惨な死に方をするまでは『天罰が降る』なんてことが実際に起こるとは思いもしなかった。
「二人の神官の死には、恨みを抱える平民たちが関わっているようだ」
とは言われていたけれど、二つの貴族家の邸宅の燃え具合が天罰を連想するほど異様なものだったのだ。
炎が天へと巻き上がるほどに大きなものとなっているのに、周辺の家には一切燃え移らない。あれほどの火事であれば街一つが燃え落ちてしまうほどのものであるのに、周りに被害を出すことなく、二つの家だけが消し炭と化すまで燃え落ちた。
周りの人間が『天罰』だと大騒ぎをしている中、天罰を恐れた人々がヘンリエッタの妹こそが巫女のようだから、妹の方を妃とした方が良いだろうと言い出した時にも、
「何を馬鹿なことを言っているんだ?」
と、呆れただけだった。女神なんてものがこの世にいるわけもないと考えているベルナールは邪魔な妹を簡単に排除しようと考えたし、側近のブラム・ベイエルに毒を用意させた。
ベルナール王子は自分の差配で人が死のうが不幸になろうが、全く気にすることがない。世界は自分を中心に回っているし、自分を邪魔する者などこの世界には存在しないのだ。
宝石や真珠があっという間にとれなくなったのも『女神の天罰』なわけがない。たまたまだ!たまたま!だけど一応、自分の立場が脅かされることがないように、やっぱりヘンリエッタの妹の方を妃にしたほうが良いのだろうか?
私のプロポーズをあっさりと断るだけでなく、平民とすでに結婚している?シャリエール伯爵は自分の娘を除籍処分としていた?ではやっぱり妹の方に女神の加護などなかったのだろう。
であるのなら、自分に恥をかかせた二人は処分しなければならない。大神官の庇護など関係ない、神殿の森に隠れ住んでいても関係ない。二人を殺すために手駒の兵士を次々とベルナール王子は送り込んだのだが、結果、自分の手元に殺された兵士たちの耳がネックレスのように繋げられた状態で送られてくることになったのだ。
「ベルナール、貴様は一体何をやっているのだ?」
神殿の森に送り込まれた内宮の兵士たちが帰ってくることはない。
「神殿の森は古から不可侵と言われ、王家が触れることなど出来ない場所だ。貴様はそんなことも知らない愚か者だったのか?」
「いいえ、神殿が不可侵だということは知っていましたが、今は廃れた約束事みたいなものでございましょう?」
「ああ・・ベルナール、お前はなんと愚かな男なのだ・・」
女神の化身とも呼ばれるヘンリエッタの妹であるアンシェリークは、シャリエールの問題児、変わり者、いつでも美しい姉を困らせる妹で、神殿に上がった後も巫女候補の端に位置して俯いているような小鼠のような娘だった。
その娘が関わると足がポキポキと折れていく、その話を聞いた時には何と馬鹿馬鹿しい話だろうと思ったけれど、憐れな娘を妃とすれば宝石や真珠が戻ってくるかもしれないというのだ。
だからこそプライドを捨ててプロポーズをしたというのに、すでに彼女は結婚をしていたという。何という馬鹿馬鹿しい話だ、そんなくだらない女はやっぱり殺してしまった方が良いに違いない。
本来なら、ベルナールが薬を盛られた為に乱暴な行為をするようなことになったのだと糾弾したアリーダ・ブラリュネから制裁を加えるべきだったのだが、
「ブラリュネ家はまだ使えるから変なことをするなよ」
と、父である国王から釘を刺されたため、アンシェリークから手を付けることにしたのだ。その結果が虎の子の兵士たちの無駄な損耗と、惨たらしさを象徴する耳で出来た首飾りだったのだ。
「ヘンリエッタ嬢の妹と結婚をしたという平民は、あのシュトルベルク公爵家が後ろ盾につく狂人と呼ばれるような凄腕の剣士なのだ。奴をこれ以上刺激すれば公爵が出て来ることにもなるからこれ以上はやるな。それにあの男の腕はこれからの戦闘で絶対に必要になるものだからな」
コルネリス王はアンシェリークとその夫を殺すのは問題ないと言う。ただ、今は時期ではないと忠告をするのだった。
「メヘレン王国に亡命をすることになったカウペルス家とダンメルス家が我が国の情報を売ったからか、エレスヘデンを侵略するための兵士や物資をメヘレン王国が集め始めている。我が国の宝石や真珠が枯渇しつつあるという話はすでに大陸にまで流れているとは思うのだが、大陸の奴らは今まで採掘した宝石目当てで我が国を攻め込もうとしているのだ」
だからこそ、狂人は海戦で使えるだけ使えと王は言う。
「ヘンリエッタ嬢から連絡があったのだが、どうやら奴は自分の妻の実姉に対して懸想をしているような状態らしい。ヘンリエッタ嬢はそんな奴に対して、戦闘で活躍することで自分への愛を示せと言っているようなのだ」
「はあ?あの男がヘンリエッタに懸想しているですって?」
ベルナールが信じられないと呆れ声を上げると、
「女神の化身と呼ばれるような令嬢なのだ、狂人であっても魅了されずにはいられないのだろうさ」
と、王は自分の顎を撫で回しながら言い出した。
ヘンリエッタは確かに女神の化身と呼ばれるほどに美しい令嬢なのだが、男を誘惑するくらいのことしか出来ない女であるし、宝石が戻らないことで困り果てたコルネリス王が神殿に訪れたときに誘惑に成功し、国王と深い仲になっているということをベルナールは知っている。国王を誘惑することに成功したのだから、彼女は耳のネックレスをベルナールに送りつけて来るような狂人をも魅了することに成功したということなのだろうか?
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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