第三十六話 何かがたりない男 ③
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家庭というものがどういったものなのかについてはフィルベルトの方がアンシェリークよりも詳しいとは思うのだが、そもそも、自分の家族であっても関心を持つことがなかったフィルベルトはポンコツな男なのだ。口で説明するとなると困難を極めることになるだろう。
神殿の森に住み暮らす、フィルベルトとアンシェリークの世話を頼まれたロッテばあさんは立ち位置的には祖母のような存在になるだろう。となれば、ロッテばあさんの息子や孫、息子の嫁たちは、むかしむかし、フィルベルトが村長の孫として村の中の一軒家に住んでいた時に遊びに来た親族たちといったところだろうか?
孤立したまま空っぽ状態になっていたアンシェリークに家族とはどういったものなのかということをフィルベルトが教えることは困難だけれど、ロッテばあさんやその家族が出入りするようになれば、家庭とか家族とか、そういったものをアンシェリークは理解する機会に恵まれることになる。
王子様から逃れるために急遽、アンシェリークの夫になったフィルベルトとしては、彼女の安全を守ることは出来るし、森の動物を捕まえて食糧とすることも出来る。夫としてそれだけで良いのかどうかは別として、
「とりあえず私が掃除と洗濯係で、フィルが食料調達と料理係といった感じかしら?」
と、言われた通りに出来ているから良しとするべきなのか?
「フィルベルトさん、それじゃ駄目に決まっているじゃないですか!」
神官見習いのマルクは怖いもの知らずのところがあって、平気でフィルベルトにも物申すような奴なのだが、
「アンシェリーク様はシャリエール伯爵家の令嬢だったのですよ?多くの人に傅かれて暮らして来た人だっていうのに、平民式の家庭環境に満足するわけないじゃないですか!」
貴族の庶子であるマルクは訳知り顔となって言い出した。
「平民出身のフィルベルトさんには想像出来ないかもしれませんが、貴族の生活と平民の生活は全く違うんです。たとえ今は楽しそうにしていたとしても、すぐに飽きてうんざりとしてしまうに違いないんです!」
貴族は美しい衣服を身につけているし、宝石をじゃらじゃら付けているし、朝から晩まで豪勢な食事をしているのに違いないのだが、
「アンは食が細いし、毎日、狩猟して来なくても良いと口が酸っぱくなるほど言うほどだし。朝から晩まで豪勢な食事なんて食べている姿を見たこともないんだが?」
そもそも、神殿に上がってからまともな食事を食べていなかったくらいなので、今の食生活に不満を言ったことなど一度もない。
「そうじゃないんです!食事とかそんなのは関係なくて、結婚をしてアンシェリーク様はフィルベルトさんの奥さんになったんですよね?自分の奥さんには幸せであって欲しいんですよね?であるのなら、絶対に爵位は必要ですよ!」
マルクはフィルベルトを見あげると、
「貴族だった人間は誰しも自分の確固とした地位を欲するものなのです。父親に除籍されてしまったアンシェリーク様は平民落ちしましたけれど、フィルベルトさんが爵位を貰えたら貴族に返り咲くことが出来るんです!」
自分の拳を握りしめながら言い出した。
爵位を貰うためには英雄と言われるほど活躍をする必要があるというのだが、
「丁度、メヘレン王国が不穏な動きを見せているし、近々、国同士の衝突も予想されるから、海戦で君が活躍すれば爵位を貰うのも夢じゃない!」
と、騎士団長であるラウレンスは言い出すし、
「君なら絶対に活躍出来るだろう!是非、戦うなら私の船に乗って貰いたい!」
と、後見人であるシュトルベルク公爵まで言い出した。
そのうち、アンシェリークの姉であるヘンリエッタまでもが、
「私が今まで悪かったわ。私は今まで間違っていたのよ。今まで散々酷いことをして来たけれど、やっぱり妹には幸せになって欲しいし、妹には貴族籍を取り戻して貰いたいと思うの」
と、涙をこぼしながら言い出した。
今までアンシェリークの命を狙って来たヘンリエッタだったけれど、自分が王家に嫁ぐ際に妹が平民のままでは自分の妨げになると考えたという。要するに平民の妹が居ることが問題であって、フィルベルトが爵位を得ることで貴族籍に復帰するのなら何の問題にもならないという。
暗殺者を送り込まれ続けていたフィルベルトは、耳のネックレスをベルナール王子の元へ送り付けるようなこともしているのだが、
「殿下は私にゾッコンだから大丈夫よ!妹の幸せのためにも、あなたが爵位を得られるように最大限の協力をしてあげる!」
とまでヘンリエッタは言い出した。
今までアンシェリークが不幸になるための手助けをするようにと言い続けて来たヘンリエッタが急にこんなことを言い出すことに違和感を感じつつも、
「爵位か・・・」
と、呟きながらフィルベルトは考え込んでしまったのだった。
フィルベルトにとって金は他人から強奪すればいくらでも積み上げることは出来るし、贅沢な生活というものも、ボルスト商会の次期会頭であるエルチェの協力を得れば可能だろう。ただ、爵位というものはボルスト商会の伝手があろうが、シュトルベルク公爵が後見人だろうが、簡単に手に入れられものではない。
色々とたりないフィルベルトだが、やはり圧倒的に足りないのは地位とか爵位なのかもしれない。貴族として認められたらアンシェリークが大きな家に住めるようになるだろうし、多くの人に傅かれて暮らすことも出来るようになる。
フィルベルトにはさっぱり分からないものだけれど、貴族的な生活を送れるようになった方が、アンシェリークにとっては幸せなのかもしれない。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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