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第三十二話  アリーダと上級神官

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 無理やり体を暴かれたことで引きこもり状態となっていたブラリュネ子爵令嬢アリーダは、コルネリア・ボスマンが修道院送りとなり、ヘンリエッタに貴族たちの怒りが向かうようになったのを確認すると、自室から出て他の巫女候補たちと集まり、自らの派閥を作ることに勢力を傾けるようになったのだ。


 エレスヘデン王国の貴族たちは女神の恩恵ともいえる宝石が採掘できなくなってしまった為、今まで貯えていた宝石を何処に売ったら大きな利益になるかという情報に飢えているところがあるし、アリーダの母は大陸出身の貴族であるため、今まで利用していた商人とは別の伝手というものがある。


 アリーダの元には多くの貴族から手紙が届くようになったのだが、

「あらあら、王家からの書簡が私の方にまで届くようになるなんて・・」

 母親に良く似たアリーダは封蝋された封筒を手に取って、滲み出るような笑みを口元に浮かべた。


 女神に愛されたエレスヘデン王国から大粒の真珠と宝石があっという間に採れなくなってしまったのだ。人によっては女神の怒りに触れたとか、遂に女神に見捨てられたと言い出しているようだけれど、巫女の最有力候補と言われるヘンリエッタが毎日のように祭殿で祈りを捧げても事態が好転するようなことはない。


 巫女として羨望の眼差しを向けられていたヘンリエッタに特別な能力はなく、国王も王子を巫女と結婚させるという慣習について疑問を感じるようになっているようだ。


「レオン様、遂にコルネリス王から声が掛かったようよ?」

 国王からの呼び出しを受けることになったアリーダが満面の笑みで振り返ると、次期大神官とも言われる上級神官のレオンが神々しいような笑みを浮かべた。


 白髪のレオンは後ろから見ると老人のようにも見えるのだが、最年少で上級神官に登り詰めた鬼才であり、神々しいばかりに美しい面立ちをしているため貴婦人たちからの人気も非常に高い。


「今まで王太子は巫女と結婚しなければならないとされてはいましたが、婚姻を結んだところで毒を盛られて殺されてしまうのです。無駄に巫女と呼ばれる女性を妃とするよりも、アリーダ様のように能力の高い方が正妃となった方が良いかと思います」


 アリーダの家は子爵身分ではあるものの、アリーダの母は大陸にある大国の大貴族出身なのだ。このような危機的状況では、あるのかどうかも分からない女神の慈悲に縋るよりも、大国の大貴族との縁を結んだ方が良いと判断したのだろう。


「それにしても不思議なのだけれど」

「何かありましたか?」

「コルネリス王はベルナール殿下の妃に私を選ぼうとしているというのに、ヘンリエッタが静か過ぎないかしら?」


 女神の巫女であると自負しているヘンリエッタは、アリーダが王家と急接近することに激怒すると思っていたのだ。我を忘れて暴れてくれれば良いと思っていたし、自分の頬を一発や二発、叩かれる覚悟をして待っていたのだが、ヘンリエッタはアリーダの元にやってくることもなく、自室と祭殿を往復していつでも女神に祈りを捧げているような状態なのだ。


「どうやらヘンリエッタ様の視界にアリーダ様は居ないようですよ」

 そう言って笑う、神が彫刻したかのように美しいレオンの顔を見上げたアリーダは思わず眉を顰めてしまったのだ。

「私をライバルと認めていないということかしら?彼女には底知れない自信があるということね」

「いえ、そういう訳でもないようなのです」


 レオンはアリーダの耳元に顔を寄せると、囁くように言い出した。

「ヘンリエッタ様の妹君であるアンシェリーク嬢が平民となって神殿から出て行くことになったのですが、そのアンシェリーク嬢に対してヘンリエッタ様は暗殺者を送り続けているようなのです」

「まああ!なんでそんなことをするのかしら?」


 アンシェリークはアリーダと同じように巫女の候補を辞退している。しかもシャリエール伯爵から籍を外されたため平民と結婚をしたという。平民落ちという転落をしながらも、最後の最後で形ばかりの伴侶をつけたのは大神官の配慮によるものだろう。


「今となっては何の力もない妹を暗殺しようとするなんて・・それではアンシェリーク様は死んでしまわれたの?」

「いいえ、生きていますよ」


 レオンは形の良い自分の顎を指先で撫でながら思案顔となって言い出した。


「突如、平民落ちとなったアンシェリーク嬢は大神官様によって保護されることになったのです。他国から来る亡命者と同じように、神殿裏に広がる広大な森の中に匿うようなことをしているのですが、森に入った暗殺者は誰一人として帰って来ないのです」


「神殿騎士が処理をしているということかしら?」

「いいえ、貴族出身の騎士たちは家のしがらみから情報を簡単に売るようなこともしますので、森の護衛に神殿騎士がつくことはありません。大神官様の命令によって動く森の民が森の中にはいるのですが・・」

「それではその森の民に守られているっていうことかしら?」

「いいえ、多分違います」


 レオンは首を横に振りながら言い出した。

「ヘンリエッタ様は自分の妹を殺すために暗殺者ギルドを利用して暗殺者を送っていたようなのですが、その暗殺者ギルドには耳が送られて来るそうなのですよ」


「耳?」

「ええ、耳です。切断された耳を針と糸で繋げたものがたくさん送られて来るのだそうです。森の民は決してこういったことは致しませんので、おそらくフィルベルトがやったのでしょう」


 幾つもの耳が連なったものを想像したアリーダは気分悪そうに自分の口元を押さえたものの、そんな様子を気にもしないレオンは、小さく肩をすくめながら言い出した。


「アンシェリーク嬢の専属護衛騎士となり、急遽結婚することになったフィルベルトという平民騎士なのですが、彼はシュトルベルク公爵の推薦で神殿騎士になったような男なのです」


 ヘンリエッタの妨害でなかなか専属の護衛騎士をつけることが出来なかったアンシェリークにようやっと付けられたのが平民騎士と聞いて、好奇心に負けたアリーダは一度だけフィルベルトという平民騎士を確認したことがある。黒髪なのが勿体ないと思うほどの美しい容姿をした騎士だったのだ。


「狂人フィルベルトというのが彼の二つ名ですし、あの可愛らしい容姿に騙された神殿騎士で再起不能となったのは十人を超えることになるでしょう。怒り狂った彼の通った道には血まみれの肉片しか残らないとも言われていますし、耳を連ねた首飾りをギルド長に送るなんていうウェットが効いたジョークは、彼らしさを表しているとも言えるでしょう」


 アンシェリークの夫となった平民はそれほど恐ろしい奴なのか。確かにあの容姿で神殿騎士として無事に生きていくためには、一癖も二癖もなければ生き残ることは出来ない。


「その狂人をヘンリエッタ嬢は自分のものにしようと考えているみたいでしてね?」

「まあ?それ本当?」


「ええ、そうです。今まで妹のものは悉く奪ってきた方ですから、夫だって簡単に奪ってしまえるものと思っているのでしょう。だからこそ、ベルナール殿下とアリーダ様の距離が縮まっていることにも気が付かないのかもしれませんね」

「バカだ、バカだと思っていたけれど、ヘンリエッタ様ってそこまでだったのね!」


 オホホホホッと笑ったアリーダは、

「神官見習いのマルクを呼んでちょうだい、彼を使ってもっと面白いことにしてみようじゃない」

 そう言って魅惑的な瞳を意地悪そうに細めてみせたのだった。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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