第二十八話 騎士団長と護衛騎士
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エレスヘデン王国では何か問題が起こった時には生贄を作り出すことで、根本的な問題を有耶無耶にする傾向にある。最近で言えばトカゲの尻尾切り同然に切り捨てられたシャリエール伯爵夫人がそうだし、随分前でいえば、女神の湖の崩壊の原因として担ぎ上げられた平民の男がまさにそれで、誰かを切り捨てることで民衆の不満を王家には向かわせないというやり方が横行しているのだ。
悪魔が関わったから、悪魔が悪さをするから、という言葉は常套句のようなものなのだが、どうやら今回はヘンリエッタ嬢が生贄になるのかもしれない。
報告書をまとめていた騎士団長のラウレンスは、目の前に立つヘンリエッタの専属護衛騎士を見上げながら問いかけた。
「ブロウス、お前はヘンリエッタ嬢専属の護衛騎士として彼女の側に居続けたと思うのだが、アリーダ嬢が言うように、ヘンリエッタ嬢は殿下に対して何か特別な薬物を呑ませるようなことがあったのか?」
今、神殿内では殿下に特別な何かを飲ませたのかどうかが問題となっている。
アリーダ子爵令嬢の専属侍女が目撃したという話によると、ヘンリエッタ嬢が何かの液体を入れた飲み物をベルナール殿下に呑ませた後に、ベルナール王子はアリーダ嬢のところまでやってきた。
その時の暴力的な様子から、興奮剤のようなものをあえて呑ませたのではないのかという疑惑が持ち上がっているのだが・・
「ヘンリエッタ様がそのようなことをするわけがありません!そもそも、殿下の飲み物は全て侍従が用意しておりますし、きちんと管理されておりました。もちろん、ワインなどを二人で飲むということもあったでしょうが、全て、侍従や側近が毒味をしておりました!」
「アリーダ嬢の専属侍女が言うには、何かを殿下に呑ませた後に、アリーダ嬢の元へ向かわせるようにしたようだと言うのだが?」
「それこそあり得ない話ですよ!」
護衛騎士となったブロウスは見上げるほどに背が高く筋骨隆々とした男であり、この男がヘンリエッタの護衛騎士となったのは、巫女候補に対して邪な思いを抱くような男ではないからだ。愚直すぎるほどに真っ直ぐな男なのだが、今は巫女とも言われるヘンリエッタを守ることに必死なようでもある。
「ヘンリエッタ様と他の巫女候補の方々が使用する部屋は離れておりますし、アリーダ嬢の専属侍女が飲み物に何かを混ぜているのを見たという発言自体がおかしいのです。それに、殿下が閨では非常に暴力的でアリーゼ嬢が酷く傷つけられたと言いますが、私としては・・私としては・・」
顔を真っ赤にしたブロウスは吐き出すように、
「自分が思うに!殿下はその!あちらの方が非常に自己中心的で!その・・あの・・」
と言った後、もごもご言って俯いた。
神殿に仕える貴族騎士は絶対に王家に逆らうことは出来ない。そのため、王子に求められてしまえば自分たちが担当する巫女候補の令嬢を差し出さなければならないのだが、
「王子の相手をした令嬢たちの焦燥感が酷いんですよ。何というか、クタクタというか、ボロボロというか、団長も私だけじゃなく他の奴にも訊いてみてください。きっと同じようなことを言うと思うので」
と、ブロウスは両手をこねくり回しながら言い出した。
「不敬だな」
「不敬ですよね」
ブロウスと騎士団長であるラウレンスは目と目と見合わせると、大きなため息を吐き出した。
「不敬を承知で申し上げますが、自己満足で終わるタイプなのではないかと思うのです。女神のようなヘンリエッタ様が殿下を受け入れられるのも、懐の深さ?女神の慈愛?おそらくそういったものが過分に必要となるのではないかと思うのです」
「不敬だな」
「不敬ですよね」
ラウレンスは胸の前で腕を組むと、
「ゔ―〜ん」
と、唸り声を上げた。一応、彼は巫女候補の専属侍女たちにも確認をしているのだが、
「俺に相手をしてもらって嬉しいだろう?幸せだろう?と、恩着せがましく言ってくるそうですよ」
という話も聞いている。
そういうことを言い出す男は女に嫌われるとアドバイスしたいところだが、ベルナール王子はラウレンスの部下ではないし、下手くそなようだから何とか改善しろと言うような義理もない。
「そもそも薬を盛った上で他の女のところに行くように仕向けるっていう発想自体が理解出来ないんです。女っていう生き物は自分の戦利品を誰かと分かち合いたいとは思わない生き物じゃないですか」
「それは分かっている」
今まで引きこもり状態だったブラリュネ子爵家の令嬢アリーダが、満を持して外に出てきたのにはもちろん理由があるのだろう。彼女は、巫女候補たちが集まるお茶会の場に現れるなり、ベルナール王子から一番溺愛されているヘンリエッタ嬢を即座に悪者に仕立て上げたのだ。
宝石の枯渇と真珠に不作で窮地に陥ることになった王家に対して生贄を用意しようと考えるのなら、
『毒入りのクッキーを用意した悪魔憑きの母親と同じように、殿下に興奮剤のようなものを与えて他の巫女候補たちが不利な状況に追い込んだヘンリエッタもまた、悪魔が乗り移っているのに違いない』
というように巫女候補たちに思い込ませるやり方は正解と言えるだろう。
あちらの方がイマイチ過ぎるベルナール王子に対して不満を持っている令嬢は多いだろうし、底知れない怒りのようなものを抱えていたのだろう。だとしても、非常に神経を使う話題となるため、王宮の官吏も、王家も、深掘りすることはないと言える。
「しかし不思議なのは、ブラリュネ家のアリーダ嬢のことですよ。自分はすでに巫女候補を辞退しているというのに、巫女として寵愛されるヘンリエッタ様を追い込む理由がよく分からないんです」
「お前はコルネリス王の時代の騒動を知らないのか?」
「えーっと、コルネリス王が王太子時代だった時の話のことを言っているのですか?」
今代の王が王太子時代だった時にも同じように巫女候補が神殿に上がり、シュトルベルク公爵家の令嬢が巫女として最も近い存在だと言われていた。だというのに、コルネリスは今まで親密な関係だった公爵令嬢をあっさりと捨てて、子爵家出身のアルベルティナを巫女として選んだ。
巫女は大神官が選ぶと言われているが、本当に大神官が選んでいるのか、実は最終的には王家が選んでいるだけの話なのか、周りの人間には未だに真実が分からない。過程はともかくとしてコルネリスが王太子の時には、子爵令嬢が巫女に選ばれることとなったのだ。
捨てられた公爵令嬢は気鬱の病にかかって家から出られなくなったものの、コルネリスは幸せいっぱいの状態でアルベルティナを妃として迎え入れた。そんなコルネリスの寵愛は大して続かず、最終的にアルベルティナは毒を盛られて死んでしまった。
アルベルティナに毒を盛ったのはベルナール王子の母である側妃であると噂されているし、ベルナール王子の母親は巫女候補となったものの途中で辞退をした令嬢だというのは有名な話だ。
「候補を辞退したからと言って野心を捨てたということにはならないし、邪魔者が居なくなったところで穴倉から出てくる蛇というものは王家にも神殿にも多く居るものだからな」
エレスヘデン王家はいつだって何か問題が起これば悪者となる生贄を作りだす。
「宝石の枯渇は大きな問題だし、これ以上の天罰が降るようなことがあっては困ると考えた王家は慎重になっている。ヘンリエッタ嬢は悪者として糾弾され、最後には処刑台に上がることになるかもしれないし、本物の巫女として認められてベルナール王子と結婚をするかもしれない。処刑か王妃か、微妙な分かれ道に立っていると言えるだろう」
「ヘンリエッタ様は巫女なのは間違いありません!絶対に!絶対にヘンリエッタ様が巫女なのですよ!」
愚直なほどに真っ直ぐな男は私的な欲は出さないものの、美しいヘンリエッタを女神のように崇め奉っているのは有名な話だ。ブロウスを任命したのはラウレンスだったけれど、想像以上にヘンリエッタに懐柔されている部下を見て、
「はあ〜、人員配置を失敗したな〜」
と、大きなため息を吐き出したのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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