第二十七話 悪魔の所業
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ヘンリエッタが貴族たちから大量の貢物を受け取っている間、神殿側は同じように供物を要求することもなければ、ヘンリエッタに自分たちの取り分を願い出るようなことはしなかった。そのことで一部の神官たちは大きな不満を抱えることになったものの、大神官ヘルマニュスは一切取り合わず、
「時を待て」
と、だけ言ったという。
時を待てとはどれほどの時間を待たなければならないのかと不満を持つ者は多かったものの、それほど日にちを置かず、宝石や真珠が一体いつ戻るのかということで貴族たちが大騒ぎするようになったのだ。
すると、今まで部屋に引きこもり状態だったブラリュネ子爵の娘、アリーダが部屋の外に出て来て、他の巫女候補たちに向かって言い出したという。
「皆様も、今まで疑問に思われていたのではないですか?確かにヘンリエッタ様は女神のように美しいですが、ただ、ただ、美しいというだけで、何か不思議な力があるわけではないですよね?」
それは他の巫女候補たちも思っていたことだった。
ヘンリエッタは確かに眩しいほどに美しい容姿をしているし、自分こそが巫女だと宣言しているが、彼女の妹に害意を持つと天罰が降るということであって、ヘンリエッタ自身に特別な力はないように思えるし、大神官様は一言もヘンリエッタが巫女だとは言っていない。
朝食後、一休みをした後に巫女候補たちは互いの情報を交換するためにお茶会を開いていたのだが、その場に現れたアリーダは瞳に涙を溜めながら言い出した。
「ヘンリエッタ様のお母様であるシャリエール夫人は悪魔が乗り移って毒入りのクッキーを作ったと言いますけれど、実はヘンリエッタ様にも悪魔が乗り移っていて、悪魔の意図のまま、危機に瀕した貴族たちから金品を巻き上げるようなことをしたのではないかしら?」
ブラリュネ子爵は大陸の貴族を妻に迎えた人であり、アリーダには大陸の血が流れている。だからなのか、彼女は王国人とは少し違ったエキゾチックな美しさを持つ。そんなアリーダが四人の巫女候補たちに爆弾発言を落とすことになったのだ。
「皆様にだけお伺いしたいのですけど、殿下が御渡りになった時に、非常に暴力的な行動だった時はございませんか?」
ベルナール王子は巫女候補など自分の妾候補のようなものだと思い込んでいるようなところがあるため、食指が動いた順から巫女候補の令嬢たちをベッドの中に引き摺り込んでいた。
神官たちが女神に祈りを捧げに来た信者の女性たちを平気で餌食にしたように、王国の高位の貴族たちは女性の尊厳をいくら踏み付けにしたところで、
「俺に相手にしてもらって良かっただろう?」
と、嘯く傾向にある。五代前の王の時代から明確な身分制度を取り入れたエレスヘデン王国では男性優位の社会が染みるように広がっているのだ。
アリーダの目の前に並ぶ四人の巫女候補たちは全員、王子のお手付きとなっている。王子に手籠同然で弄ばれた令嬢だっているだろう。自分が正妃になれるかもしれないと考えて我慢していた令嬢もいるだろうし、王子から一番の寵愛を受けるヘンリエッタに対して並々ならぬ憎悪を抱いている者だっている。
「皆様にだけ告白するのですけれど、殿下が私の元へ御渡りになる前に、ヘンリエッタ様は殿下に何かを呑ませていたようなのです」
ベルナール王子が御渡りになって以降、部屋から出て来なかったアリーダ・ブラリュネはすでに巫女候補を辞退している。今ここに居るのも、巫女が決まるまでは神殿に居続けなければならないとされているからで、残った四人の巫女候補たちからすれば、彼女はすでに敵ではなくなっている。
「私の元へやってきた殿下の行いは酷いものでした。それが何かしらの薬の所為だとするのなら、なるほどと納得したのです。大切の閨の場で薬を盛られているわけですから、殿下が私に対して良い印象など持てるわけがないじゃないですか?」
だからこそ、アリーダの発言はすんなりと受け入れられることになったのだ。
「殿下は神殿に上がった巫女の候補と寝るつもりだったみたいですが、そこで特別に気に入った娘が出ては困ると思ったヘンリエッタ様は・・」
殿下に薬を盛って、アリーダが傷付くように仕向けたのではないだろうか・・
「それじゃあ・・私の時にも・・ヘンリエッタ様は・・」
何か思い当たるところがあるのか、一人の令嬢が真っ青になって震える両手を握りしめると、他の令嬢までもが言い出した。
「シャリエール家の人間は食べ物の中に何かを混入させるのがお家芸なのではないかしら?私だって盛られていたのかもしれないわよ」
「嫌だわ・・側妃になれればそれで良いと思っていたのに・・」
「あんまりにも酷過ぎますわよ!」
そう言って真っ青になる四人の巫女候補たちを見下ろしたアリーダはにこりと笑って、
「ヘンリエッタ様は悪魔憑きですもの、どんなことでも簡単にやっておしまいになるのよ」
真っ青になる巫女候補たちを順に見つめながら言ったのだ。
「実の妹を可哀想、可哀想と言いながら、まともなドレスひとつ着せないような方ですわよ?悪魔じゃなくて何だと言うのかしら?」
ヘンリエッタだけでなく、妹のアンシェリークも巫女候補となっていたのだが、彼女はいつでも端に佇んで、令嬢たちのお喋りにも参加するようなことはしなかった。誰かが意地悪なことを言ったところで、いつでもヘンリエッタは困ったように、時には満足そうに微笑んでいるだけで、それを止めるようなことは一切しなかった。
「あの方、いつでも妹のアンシェリーク様が変わり者で困る、我儘で困る、シャリエール家の厄介者だと言っておりましたけれど、実際にアンシェリーク様が我儘を言っているところなど見たことがありませんわ」
「それに、アンシェリーク様には専属の護衛騎士がつかないからと言って、自分の護衛騎士がヘンリエッタ様とアンシェリーク様、姉妹であるお二人をお守りするようにすると言っておりましたけれど、結局あの護衛騎士はヘンリエッタ様のお側に居るだけで、アンシェリーク様の近くに寄り付こうともしておりませんでしたわ!」
「あの方、自分の妹を孤立するようにしていましたもの」
「まさに、悪魔の所業ですわよね?」
悪魔といえば、皆の脳裏にはシャリエール伯爵夫人が浮かぶ。巫女候補となる二人の娘を殺すために夫人に悪魔が乗り移ったということで、夫人だけが毒杯を賜ることになったものの・・
「お母様だけでなく、ヘンリエッタ様にも悪魔が乗り移っている?」
「だから、あのように宝石の枯渇は貴族たちの不信心の所為だと言い出して?」
「多くの貴族たちから金品を掠め取るようなことを行ったということ?」
「なんて恐ろしいのでしょう」
顔を真っ青にして驚き慌てる巫女候補たちを見回しながら、ブラリュネ子爵家の娘アリーダは口元に何ともいえない笑みを浮かべた。
大神官の側近くに仕える上級神官たちが言っていたのだ。
「ヘンリエッタ様がすんなりと巫女となるのは難しい」
だとするのなら、大神官はヘンリエッタを巫女とは認めていない。だからこそ、絶対に何かが起こるとは思ったのだが、
「まさか私もこんなことが起こるだなんて思いませんでした!これでは女神様もお怒りになることでしょう!」
憤慨するように言いながら、一人、ほくそ笑んでいたのだった。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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