表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/85

第二十六話  ヘンリエッタの思惑

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ヘンリエッタにとって妹のアンシェリークは気味が悪い存在だった。


 妹は自分の存在を上へ、上へと押し上げてくれる貴重な存在ではあったけれど、言葉にすることが出来ない奇妙な不可解さをいつでも感じさせてくれる存在だ。だからこそヘンリエッタは自分の妹を常に疎んじ続け、周りから孤立するように計らって来たのだ。


 巫女の候補として選ばれることになったヘンリエッタは神殿に上がることになったのだが、間もなくして、ヘンリエッタの母親が足の骨を折ってしまったという事実を知ることになった。その日は生意気にもアンシェリークに専属の護衛がつく日であり、ずぶ濡れとなったアンシェリークは今まで起こった天罰を明らかにして、巫女であるヘンリエッタの妹である自分に害意は持たない方が良いと宣言をした。


 確かに、アンシェリークに害意を持つ人間は足に大怪我を負うような災いを受けている。だとしても、

「それでもみんながみんな、災いを受けたっていう訳じゃないのよ!誰かが足の怪我をしただろうけれど、それはたまたまよ!たまたま!」

 と、ヘンリエッタは必死にそう思い込もうとしているところがある。


 自分の妹に対して薄気味悪さを感じずにはいられない。今までは、憐れにも仲間はずれにされて虐められる妹の姿を見て楽しみ続けてきたけれど、ここまで天罰が明らかになってくると恐ろしくなってくる。だからこそ、薄気味悪いアンシェリークが巫女候補を辞退すると言い出した時には心の奥底からホッとしたのだ。


 その後、アンシェリークを虐めると天罰が降るという噂が広がったことで、アンシェリークこそ本物の巫女ではないかという話が浮上することになったものの、

「巫女はヘンリエッタ、そなたしかいない」

 と、ベルナール王子はヘンリエッタの手を握りながら宣言をしてくれた。


 巫女の候補だったら誰でも手を出すような女好きの王子様だけれど、ヘンリエッタのことはいつでもきちんと尊重してくれるベルナール王子は、アンシェリークを排除するために『カシアスの根』まで用意してくれたのだ。


 ヘンリエッタは美しい。女神の化身と言われるほどの眩しさを持つヘンリエッタを王子は溺愛しているし、いつでも顔色が悪く、痩せ衰えたアンシェリークを嫌悪しているところがある。


 今は巫女の候補すら辞退しているし、ヘンリエッタにとって何の脅威にもならない妹だけれど、排除するのならより悲惨なやり方で、絶望しながら死んで欲しい。


 だからこそ、

「お母様、アンシェリークに毒を盛るというのなら、お母様お手製のクッキーに入れたら良いのではないかしら?」

 と、ヘンリエッタは足の怪我も大分良くなってきた母親に向かって言い出したのだ。


 本当のことを言えば、ヘンリエッタは母の手作りの菓子が大嫌いだ。伯爵夫人なのに自ら厨房に入って何かを作るというのもどうかと思うし、実際に口にしてみると大して美味しくもない。


 こんなものを食べるくらいだったら、外で買って来たものを食べる方が良いとは思うものの、いつでも遠くから見ているだけのアンシェリークが、母の手作りの菓子が振る舞われる時に、羨ましそうに遠くから見つめていたのだ。


 ヘンリエッタは母の手作りの菓子を食べることが出来るけれど、アンシェリークは食べることが出来ない。妹は母手製の大して美味しくもないクッキーに憧れのようなものを持っている。


「今まであの娘はお母様のクッキーが食べたくて、食べたくて仕方がなかったのですもの。もしもお母様が差し入れをしたということになれば、喜んで食べると思うのよ」


 いつでも羨ましそうにこちらを見つめているアンシェリークの存在に母も気が付いてはいたようで、この時はじめて、母は妹の為にクッキーを用意することにしたのだった。ベルナール王子の侍従が用意してくれた『カシアスの根』は血液をドロドロにする作用がある為、最終的に血管が詰まって死ぬことになる。体内に摂取してから時間を置いて発症するため、大概が原因不明の病ということで片付けられてしまうのだ。


 毒入りクッキーをアンシェリークが食べさえすれば、巫女ではないかと言われ始めていたアンシェリークは天罰を受けたということで墓に葬ることが出来るだろう。だというのに毒入りクッキーは、どういった手違いだったのか大神官様の前にまで運ばれることになってしまったのだ。


 神殿の頂点に位置する大神官様をシャリエール伯爵夫人が暗殺を企んだ。そう決めつけられた時には、ヘンリエッタは破滅の淵にまで追いやられたような気分を味わったものの、責任転嫁の天才であるヘンリエッタは何とか事態を挽回することに成功した。


 悪魔憑きだと断じた母は死んでしまったが、それは仕方がない。シャリエール家に害を及ばさないようにするためには仕方がないことだし、足が腐り落ちた母にとって毒杯は一種の祝福にもなっただろう。ヘンリエッタは良い行いをしたのであって、決して自分の母親を見捨てたわけではないのだ。


 母の死を乗り越えたヘンリエッタが必死に自分の地位を守り続けている間に、あろうことかベルナール王子がアンシェリークにプロポーズしたという。その話を聞いた時には家具を倒し、花瓶を投げつけ、王子への怒りを叩きつけることになったものの、王子の求婚を妹が受ける入れることはなかった。


 自分勝手なアンシェリークが巫女候補を辞退したことで、父が伯爵家の籍からアンシェリークを外してしまったらしく、アンシェリークは平民身分となっていた。しかも、いつの間にか平民騎士と結婚していたらしく、王子が手を出そうと思うような女では無くなっていたのだ。


「なんてことかしら!お父様に見捨てられた上に平民と結婚を決めたというの?あまりにも哀れすぎない?あれでも一応は伯爵令嬢だったのよ?」


 考えてみれば、アンシェリークは元から伯爵令嬢として相応しくはなかったのだ。放置されて孤立し続けた可哀想な妹は、平民の何の力もない男が嫌々面倒を見てくれることを有り難く思わなければならない。


 そもそもベルナール王子がアンシェリークなんかに嫌々プロポーズをしたのは、宝石の枯渇化現象や真珠の不作が原因だと考えられるだろう。アンシェリークを懐柔すればもしかしたら宝石は戻って来るかもしれない。そう王家が考えたのだと判断したヘンリエッタは、宝石の枯渇も、真珠が取れないのも、全ては貴族たちの不信心の所為だと断じることにした。


 ヘンリエッタにとっていつでも悪いことは他人の所為、

「女神の怒りに私が関わっていることなど絶対にない」

 と、思い込んでいるところがある。巫女のようなものだと皆から思われているヘンリエッタの発言は大きな余波を作り出し、貴族たちは連日のように並んで賄賂や貢物を捧げることになったのだ。


 ヘンリエッタは自分が女神リールに愛されていると考えているし、女神様は私のことを見守っていると思い続けている。なにせ自分の妹というだけで、アンシェリークに害意を抱いた人間はあれほどの天罰を受けているのだ。


 女神様への祈りを込めて捧げられた貢物を自分が受け取るのは当たり前だし、自分は人々の願いを受けて祭殿の間で祈りを捧げているのだ。そんなヘンリエッタだからこそ、

「ヘンリエッタ様、ところで一体、いつになったら宝石や真珠は戻って来るのでしょうか?」

 と、ある貴族から問いかけられた時には、何を言われているのか理解が出来なかった。


「一体いつ?うちの宝石鉱山は今まで通り採掘できるようになるんですか?うちはかなりの金をヘンリエッタ様に貢いでいる訳ですし、そろそろその成果が見られると思うのですが?」


「うちも相当高額なものをヘンリエッタ様に寄進しているじゃないですか!であるのなら、その対価は一体いつ支払われるのですか?女神様は一体、いつ頃、真珠の収穫を戻すと仰っているのですか?ヘンリエッタ様!教えてくださいよ!」


 ヘンリエッタは女神の加護を受けた巫女なのだ。その巫女に対して寄進するのは当たり前だし、ヘンリエッタは願いを受ける形で女神様に祈りを捧げているのだ。ヘンリエッタの仕事は女神様へ祈りを捧げることであって、その後のことは女神様がやるべきことである。だというのに、


「ヘンリエッタ様!一体!いつ!うちの宝石鉱山は宝石が採れるようになるのですか!」

「ヘンリエッタ様!うちの真珠はいつ戻るのですか!」

 集まった貴族たちは大騒ぎを始めたのだ。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ