第二十二話 王子様から逃れるには
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私はとにかく、変態クソエロバカクズ王子が大嫌い。
カシアスの根が使用されていたことからも分かる通り、毒物が私の所まで送り込まれて来たのは王家の誰かの差配によるものでしょうし、醜くて骸骨のように痩せ細った私を殺してでも結婚は無しにしたいと考えていたのはベルナール王子でしょう。
だというのに、宝石鉱山が枯渇したということが理由となって、くるりと手の平を返してのプロポーズよ?お前が用意した毒の所為で私の母親は毒杯決定、実家は没落一直線だというのに寝ぼけたことを抜かしているな!という話よね?
私は巫女候補を降りてからも、四六時中、護衛のフィルベルトと一緒に居たのだけれど、私がどれだけベルナール王子を嫌っているのかっていうことは、私の愚痴を散々聞いて十分に理解していたとは思うのよ。だけど、話の展開が唐突過ぎるのは間違いない。
「アン様、申し訳ありません。王子様をあの場で斬り殺すなんてことは出来ませんし、アン様が王子の魔の手から逃れるにはこの一手しかないと思ったのです」
謝罪するフィルベルトの顔は変色して真っ青になっているし、冷や汗が流れて凄いことになっている。
「それにしてもフィルベルトと私が結婚ですか・・かなり大胆な手に出ちゃったのですけれど、本当に大丈夫でしょうか?」
すると、自分の執務室に戻って来た大神官様は、書類の山をいじくりまわしながら言い出したのよ。
「アンシェリーク、実は君の母上が足の骨を折った時点で、君の父上は君とシャリエール伯爵家との縁を切る手続きをしていたのだよ」
女神が遣わした巫女が何処かにいないかと年がら年中探している神殿では、エレスヘデンで子供が生まれたら必ず神殿で手続きが行われるようにしているの。たとえ産み捨てられた子供であっても、保護をする孤児院がきちんとあるため、貴族、平民、全ての子供が、等しく女神様の加護を受け入れられるようにということで、この国では戸籍は王家が管理するものではなく、神殿が管理するものとなっている。
「それでは、私のお父様は親子の縁を切る手続きをしながらも、先ほどは父親面をして助けを求めてきたということでしょうか?」
「まさしくその通り」
そんな手続きをしているというのに、素知らぬ顔でやって来るのだからタチが悪いと言えるでしょう。
「神殿では王家が用意した巫女候補の中からいつの時でも、王太子の妃となるべき巫女を選んで来たのだが、それは巫女となる乙女もまた王家に嫁ぐことを望んでいたからに他ならない。だが、今回の場合は王家との婚姻は望まぬのだろう?」
大神官様の問いに私は大きく頷いたわ。
「ええ、絶対に、あんな王子と結婚するくらいだったら、毒杯を今すぐあおいで死んでしまった方がマシよ」
「それでは我ら神殿は今回の巫女の選定は放棄しよう」
大神官様はそう言って私たちの前に結婚宣誓書を差し出すと、
「今すぐにこれに記入をしなさい。いくら女好きな王子であっても平民の手垢がついたような女を王子は好まない。咄嗟の判断で貴女を妻扱いしたフィルベルトに感謝しなさい」
と、言い出した。
その横には父親が用意したと思われる親子としての縁を切る書類も用意されており、その書面にも私の署名欄が設けられている。その内容も確認すると、何とも言えない思いが込み上げてきた。
「ねえフィルベルト、貴方の結婚をこんな勢いとなし崩し的な感じで決めてしまっても良いのかしら?一応、神殿騎士様の結婚よね?」
「それを言うのならアンシェリーク様の方こそどうなのですか?」
「私?私がここで貴方との結婚を嫌だと言い出すと思う?」
あのクソバカ王子はいつ何時、心変わりをするかも分からないし、
「とりあえず妹の方も味見をしてみたい〜」
なんてバカみたいなことを言い出しかねないヘンタイなのよ。
「平民の手垢がついた女には手を出さない、なんて結構な話なのかしら?しかも、お父様が縁を切ってくれたから私は貴族ではなく平民よ?だったら誰と結婚したって何の問題もないし、これ以上、シャリエール家の宝石鉱山の枯渇でどうのと言われる筋合いもないのよ」
私とフィルベルトは急いで結婚宣誓書にサインをしてしまうと、うず高く書類が積み上がった大神官様の執務机の前で、祝福の祈りを捧げてもらうことになったのよ。本来なら祭殿で行うようなことなのだけれど、大神官様の部屋にも女神リールの像が祀られているから良いでしょう。
「神殿は見張られている可能性があるから、人に見つからぬように抜け出せるよう手配しよう。それから一応言っておくが、ベルナール王子は平民の手垢がついた女には食指を動かさない。だからこそ、きちんと夫婦の関係は持ちなさい」
「「はい?」」
私とフィルベルトは思わず顔と顔を見合わせてしまったわ。
「形ばかりの結婚では駄目なのかしら?」
「そうですよ大神官様、これはいくらなんでも」
「王子は平民の手垢がついている女には興味を持たない、すぐに妊娠するくらいが丁度良いと言えるだろう」
「「そんな無茶な・・」」
私とフィルベルトの付き合いは相当短いわ、専属の護衛になったのもつい最近のことよ。だというのに本物の夫婦?え?契約の夫婦じゃ駄目なの?
「王子は平民の手垢がついた・・」
「「大神官様、もう分かりました!」」
何となく大神官様が言いたいことは分かるわよ、言いたいことはわかるんだけど・・
最近、神殿の巫女候補に関わった人間の足がポキポキ折れる事件が発生したり、カウペルス家とダンメルス家という有力貴族があっという間に没落したり、悪さをしまくった悪魔の神官二人が大変悲惨な死に方をしたりなど、女神様の天罰エピソードが山盛り状態だというのに、ここに更なる災厄として宝石鉱山の枯渇化現象が始まったのよ。
女神様の怒りを解くには本物の巫女様に取り入るのが一番の手立てとなるだろうと考える人も多くって、女神の化身とも言われるほどに美しいヘンリエッタお姉様のところには長蛇の列が出来ているのだけれど、その列に並んでいる人たちの中には、
「実は妹の方が本物の巫女じゃないのか?」
と、考え始めている人もいるってわけ。
ヒロイン気取るのが大変得意なお姉様だけれど、何か不思議な力を持っているわけじゃないものね。いくら貢物を持って行ったところで、何かしらの成果が上がらなければ、
「あれ?おかしくね?」
とも思うもの。
そこでシャリエール家の使用人たちによる噂話が出回ることにでもなれば、
「足が折れている現象には妹であるアンシェリーク嬢が関係しているみたいだぞ?」
みたいな話になるものね。
そこで私が本物の巫女!なんてことになったら、あのヒロイン感丸出しのお姉様をギャフンと言わせることが出来るのでしょうけれど、そうしたら王家への嫁入り一直線。そんなことになるくらいならフィルベルトの嫁のほうが遥かにマシよ。
「フィル、ごめんなさい。王子様から逃れるためには、やっぱり貴方との結婚が必要なのよ。親を冤罪で殺された恨みを晴らすために巫女候補の専属の護衛になったというのに、復讐相手に近付くどころか、どんどんと遠のいてしまっているような状況よね?でもね!今は本当に!切実に結婚して欲しいんです!」
あんまり申し訳なくって、大神官様に聞こえないようにフィルベルトの耳元で囁くと、
「復讐か・・」
ため息を吐き出したフィルベルトは皮肉な笑みを浮かべたのよ。
「王子と結婚するべき巫女様をあっさりと奪い取って花嫁にするんだから、これもまた、復讐といえば復讐になるんじゃないか?」
そうね、そういう復讐方法というものもアリかもしれないわね。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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