第二十一話 公開プロポーズ
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私は今まで女神の天罰なんていうものは思い込みによるものだと思っていたのよね。私を殴りつけようとした侍女が階段から転げ落ちた数日後に、私に意味不明な怒りをぶつけてきたお父様が、偶然、階段から転げ落ちただけの話なのよ。
たまたま同じ階段から落ちただけなのだけれど、
「巫女だと言われるお姉様の妹に対して、何かやったら大変なことになるんだからね!」
というようなことを使用人たちに言っておいたものだから、足に怪我をする=アンシェリークお嬢様に悪心を抱いたのを女神様に見抜かれた!みたいな発想をみんながするようになっちゃったの。
コルネリア様のおばあさまが足の骨を折ったのだってたまたまなのだけれど、そこに何かの意味を付けると、
「「「「女神様の祟りだー!」」」」
なんてことになっちゃうのよ。
足を骨折したとはいえ、松葉杖で神殿にまで来られちゃうくらいに回復したお母様が、神殿の地下に入れられてすぐに足の根本まで腐っちゃったみたいで、
「「「「女神様の天罰だーーーっ!」」」」
なんてことを言っているみたいだけど、神殿の地下にある独房なんてそりゃ不衛生でしょう。足の骨を折って体力だって弱っているだろうし、うっかり足の傷からばい菌が入ってしまって、たまたま悪化しちゃっただけの話でしょう?
全ては思い込みによるものだと私は思うのだけれど、そこで宝石鉱山が〜なんてことを言われると混乱しちゃうわよね。怪我って、結構人間の思い込みで出来ちゃうものだけれど、宝石鉱山の枯渇は思い込みで出来るようなものではないのだもの。
流石に焦ったお父様が今までチラリとも面会に来なかった私の所にまで来るだなんて、大変な問題になっているのかもしれないわね。だってほら、応接室から出ると待ち構えていたような様子で、
「アンシェリーク嬢!貴女こそが私の巫女なんだ!どうか私と結婚をしてくれ!」
ベルナール王子が私の前で跪きながらそんなことを言い出したのだもの。思わず自分の頭を抱えたくなってしまったわ。
これはある意味、女神様が私に与える天罰なのかもしれないわね?だって、変態クソ王子からの公開プロポーズよ?
お父様との面会を終えて応接室を出た後だったから、質素なドレス姿だったのよ。いつもの修道女の格好だったら王子も私のことなんか気が付かなかっただろうに、流石にこの白金の髪は目立つものね。
神殿内に入る時には最低限の護衛しか置かないため、殿下に付き従っている護衛は三名。今こそ恨みを晴らすべく王子の首を叩き斬ってしまったら良いのでは?という意味も込めてフィルベルトを見たのだけれど、フィルベルトは静かに首を横に振っている。
エトとヘイスという悪魔神官も排除できたことですし、お母様に引き続いてベルナール王子も悪魔王子ということにして、首をバサッと斬ってしまったらどう?そんな意味も込めて大神官様を見たのだけれど、大神官様も無言のまま首を横に振っている。
貴族に対応するための応接室は祭殿からも近い場所にあるため、人の出入りが多かったりするのよ。そんなわけで、現在行われている王子の公開プロポーズを多くの人々が目撃している状態よ、本当に最悪だわ。
この王子がこんなことをしているのも、宝石鉱山絡みだわ。王家所有の鉱山まで宝石が採れなくなってしまったから、苦肉の策としてプロポーズ大作戦を敢行したってことかしら?
ちなみに私は乙女を食い散らかすクソエロバカクズ王子が大嫌い。
父親を公開処刑されたフィルに代わって私が成敗してやっても良いのではないかと思う程度に大、大、大嫌いなのよ。特にブラリュネ子爵令嬢の専属侍女による話がクソほど最低だったわ。乙女を手籠にしておいて『俺がはじめてで良かっただろ?』発言よ?本当に、死んでしまえば良いのに。
ああ、大神官様。私が本物の巫女だと言うのなら、私の意思を是非とも尊重して欲しいわ。そんな思いを込めて大神官様の白いお髭をじっと眺めていると、何度か咳払いをしながら大神官様は言い出したの。
「殿下、プロポーズをするのは時期尚早だと思います。確かに、アンシェリーク嬢こそ真の巫女ではないかという声が多くはなっておりますが、彼女には女神もかくやと言われるほどに美しい姉が居るではないですか?」
「私も最初はヘンリエッタこそが真の巫女であると考えていたのだが、そうではないのかもしれない。なにしろ、アンシェリーク嬢に毒を盛ろうとした夫人の足が短期間で腐り落ち、エレスヘデンに幾つもあった宝石鉱山が一気に採掘出来なくなったのだ」
「ですが、殿下は醜い私になど興味はありませんでしたよね?」
立ち上がった王子に問いかけると、ベルナール王子は蕩けるような笑みを浮かべながら言い出したのよ。
「ヘンリエッタほどではないといえども、其方もそれなりに美しい」
「はあ?」
「今までは随分と痩せてみすぼらしく見えたものだが、それも、周りの人間による虐めによるものだったのだろう?だが、巫女候補から辞退した其方は見違えるほどに美しくなった。それこそ私の隣に置いても遜色ないほどには良くなったと言えるだろう」
このクソ王子、ぶっ殺してやろうか?
人ってここまで殺意を漲らせることが出来るのね〜、本気で殺してやりたい〜。そんなことを私が考えていると、隣にやって来たフィルベルトが私の腰をグイッと引き寄せながら言い出したのよ。
「殿下、申し訳ありませんが、彼女は私の妻なのです」
はあ?
「彼女が巫女候補を降りた際に、私の求婚を受けてくださることになりまして、大神官様立会いの元、女神リールの前で夫婦の宣誓を行っているのです」
はあい?
驚き過ぎた私の目は開き過ぎて、乾燥し過ぎて、血走っていたのではないだろうか?フィルベルトはシレッとしているけれど、この嘘、何処まで貫き通すことが出来るのだろうか?
「だがしかし、この者は平民騎士であろう?仮にもシャリエール伯爵家の令嬢と結婚するのに、相手が平民では周りが許すわけもない」
「殿下、この者の後見人はシュトルベルク公爵であり、とてもこの者を可愛がっているのです。それこそ、愛する人と結婚をするのに一肌脱ごうと考える程度には、非常に親しい仲なのです」
大神官様はベルナール王子の耳元に近づくと、
「それに、本当にアンシェリーク嬢を自分の妃として良いのですか?今、ここで巫女を自ら辞退したアンシェリーク嬢を妃に選んで、実はヘンリエッタ嬢こそが巫女だったとなればどうします?」
と、囁くように言い出した。
「女神リール様は多情で裏切り者の男を嫌います。ただでさえ、宝石鉱山が幾つも採れなくなっているこの状況で、これ以上女神様がお怒りになることがあれば・・今度は何が起こるのでしょうね?」
大神官ヘルマニュスは純白の眉をハの字に広げてにこりと笑うと、
「殿下、思い付きで行動に移すのは危ないですなあ」
と、言い出した。
フィルベルトと大神官様の咄嗟の機転で、ベルナール王子の公開プロポーズは失敗に終わることになったのだけれど、平民騎士と結婚をした私の噂は千里を駆ける勢いで広がっていくことになり、平民と結婚をするかなり変わったお嬢様ということで、多くの人々に周知されることになったのよ。
それにしても、私とフィルベルトが夫婦だなんて。
嘘を吐くにしても大胆過ぎると思うのだけれどね?
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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