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第十九話  私のお父様

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 毒入りのクッキーが私と大神官様の前にまで運ばれて来て、その毒入りクッキーを用意したお母様は神殿の地下にある独房に入れられてしまったみたい。そんな慌ただしいことが起こった三日後になって、私のお父様が私の前までやって来たのよ。


 シャリエール伯爵は中肉中背の、姉のように太陽を溶かし込んだような黄金の髪を持つ、至って凡庸な顔立ちの中年男なのだけれど、

「アンシェリーク!今まで私が悪かった!だから許してくれ!お願いだ!」

 会うなり土下座よ?意味がわからないわ!


「落ち着きなさい、シャリエール伯爵。アンシェリークも驚いているではないか」

「ですが!大神官様!」

 お父様は悲壮感たっぷりの様子で言い出したのよ。

「これはもう!女神様の天罰が降ったに違いありません!」


 お父様は私の足に縋り付きながら言い出した。

「私たちが悪かった!私たちが悪かったから!どうか許してくれ!頼む!お願いだ!」

「フィル、お願い」


 一応、今でも専属の護衛としてついているフィルベルトは、泣き崩れるお父様を引き離してくれたの。そんなお父様を見下ろしながら、私は大きなため息を吐き出しちゃったわ。


「また女神様の天罰ですって?心の奥底から呆れてしまいますわね!」


 お忍び状態の私とフィルベルトは、普段、修道女と修道士の格好をして大神官様の部屋の隣で働いているのだけれど、今日は伯爵様とご対面ということで、私は貴族と言える最低ラインの簡素なドレス、フィルベルトは神殿騎士の装いでいるの。


 お貴族様に対応するための応接室に私たちは居るのだけれど、部屋の中に居るのは大神官様の側近ばかり。そんな側近の方々も、お茶と簡単な茶菓子を用意してしまうとあっという間に出て行ってしまったわ。


 そこで私と大神官様がソファに座ると、泣き崩れるお父様を誘導する形でフィルベルトがお父様を向かい側のソファに座らせた。黙り込んでいる大神官様が私に向かって一つ、頷いてみせたので、私はお父様に向かってとりあえず言ってやることにしたわ。


「お父様・・と、貴方のことを言っても良いのかどうかも分からないけれど、生物学的には父となる人物なので、あえてお父様と呼びますけれど」

「のっけから攻撃的・・」


 フィルベルトのぼやきが後ろの方から聞こえて来たけれど無視することにするわ。だって、お父様には言わなければならないことが山ほどあるのだもの。


「貴方が大事なのは自分の妻と娘のヘンリエッタだけなのだから、その二人を守る為に最大限の努力でもしてきたらいかがですか?今のような緊急事態に私のところにまでわざわざやって来て『女神様の天罰をなんとかしてくれ〜』みたいな、頭の沸いたようなことを言っている暇があったら、今、ここに居る大神官様の前に山のような金貨でも積んで、どうか破門だけはやめてくれと地べたに頭でも擦り付けながら言うべきではないのかしら?」


 神殿の力が失われたとはいえ、没落したカウペルス家とダンメルス家を見て分かる通り、伝家の宝刀を抜かれた暁には(破門処分を神殿から受けてしまったら)シャリエール伯爵家だって没落一直線となるでしょう。


「すでに金貨は積んだ!大神官様にも頭を下げた!だからこそお前との面会が叶うこととなったのだ!」

「あら〜」

「・・・・」


 大神官様の方を見ると、わかりやすく目を逸らされたわ。すでに賄賂は受領済みだったのね。

「それでは大神官様、我が家は賄賂の力で破門処分は免れることとなりますの?」

「賄賂の力ではなく、王家の力でということになりそうだ」

「王家の力?」


「シャリエール伯爵は、なかなか貴重な話も聞かせてくれた。そこで、実の父親から娘との面会の要請を受けたため、このような場を設けたのだ」

「大神官様、簡潔に言ってくださる?」

「何を?」

「色々と三日間の間にあったのでしょう?」

「うむ・・」


 つまりはこういうことらしいのよ。

 候補を降りたとはいえ、やっぱり妹の方が本物の巫女なのではないかという話が王宮でも上がるようになって、今更ながらだけれど、なんとなく巫女ではなく本物の巫女がいるのなら、その本物の巫女をベルナール王子の妃とした方が国益に繋がるのではないかと考えたみたいなの。


 女神様のように美しい姉のヘンリエッタならまだ我慢が出来るけれど、醜い妹の方が妃になるかもしれないってことで、

「あんな醜女と結婚なんか出来るか!」

 と、王子様は騒いだのかしらね?


 私はベルナール王子と顔を合わせそうな場面では、顔に暖炉に残った灰を塗りつけて顔色がかなり悪く見えるようにしていたし、そもそも満足に食事が摂れなくて痩せていたしで、最悪の見た目の状態になっていたものね。


 そんな私が妃になったら堪ったものではないということで、私を殺そう!と、思うことになったみたい。とっても希少な毒になるカシアスの根は死に様が病死にしか見えないという特徴があるらしく、私がこの毒で死んだ暁には、

「姉に対して悪意を持って接したアンシェリーク嬢は女神の天罰を受けて亡くなった!」

 とでも公表するつもりだったみたい。


 美しい姉をどうしても妃にしたいと考えている母は、ベルナール王子の申し出に一も二もなく飛びついた。子供たちは母が作った菓子が大好きで仕方がないから、迷わず毒入りの菓子を食べるだろうから問題ないとでも言ったのでしょうね。母が作った菓子など一欠片だって食べたことはないのだけれど、あの母親は、私が愛情を求めて仕方がないどうしようもない娘だと思い込んでいるところがあるのだもの。


 カシアスの根は血液をドロドロにした挙句に二日後には死に至るという代物なので、お菓子を食べた後に時間差が生じるし、死んだ後は天罰が降ったとでも言えば誰も疑う者はいないだろう。最後は母の手作りの菓子を食べて死ねるのだから、あの娘も本望でしょうくらいのことは思っていそう。 



 大神官様は胸の前に腕を組みながら言い出した。

「そんな毒親が用意した毒物入りのクッキーだが、女神様の差配なのか何なのかは分からないが、私の元まで運ばれて来た。毒についてはそれなりの見識がある私は、すぐさまカシアスの根が混入していることに気が付いたが、他の者であれば難しい」


 本来なら下級神官の手で私の部屋に運ばれているところだった毒入りクッキーは、甘いものが大好きな上級神官様の手に渡って運ばれることになったのよ。その毒物がカシアスの根だということまでバレてしまっていたので、毒を用意した王子様の側近はさぞかし肝を冷やしたことでしょう。


「大神官である私が暗殺されそうになったという話は千里を駆ける勢いで広がっていった。毒物は間違いなく、神殿内に持ち込まれることとなったのだ。神官エトとヘイスの悲惨な顛末や、有力貴族だった二つの貴族家の没落によって激震が走っている貴族たちの中に、また一つ、大きな爆弾が放り込まれることとなったから、王家による火消しがそれは手早いものになったのも仕方がないことであろう」


「大神官様?その火消しとはどんな?」

「それは、それは、非常に大胆なものだと言っても良いだろう」


 皮肉な笑みを浮かべながら大神官様がお父様に視線を向けると、お父様はブルブルと目に見える形で震え出した。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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